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たのしみは、ルシア・ベルリンの短編小説

 2020年1月、ルシア・ベルリンの作品集『掃除婦のための手引き書』(訳者:岸本佐知子 発行所:講談社)を中央区築地4丁目東劇ビルの1階にある書店で立ち読みし、たちまちルシア・ベルリンのファンとなり、作品集を購入しました。
 ルシア・ベルリンの短編小説は、たとえて言えば、ジャズ・ピアニスト、バーバラ・キャロル(Barbara Carroll)のピアノ演奏のようです。
軽妙で、お洒落で、小気味良く、しかも端正で華やか・・・
バーバラ・キャロルのピアノ演奏に対する評価は、ルシア・ベルリンの短編小説にも当てはまります。
 騙されたと思って、1954年に録音されたバーバラ・キャロルのCD盤「ララバイ・イン・リズム」(BVCJ-37085)に耳を傾けてみてください。
1曲目<ユード、ビー、ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ>
2曲目<アズ・ロング・アズ・アイ・リヴ>
ルシア・ブラウンの作品の雰囲気・魅力!満載です。

 立ち読みしたのは、作品集の中の<ティーンエイジ・パンク>
「1960年代、ベンのところによくジェシーが遊びに来た。二人ともまだうんと若かった。長髪、ストロボライト、大麻にアシッド。ジェシーはすでに学校をドロップアウトしていた。保護観察官もすでについていた。ニューメキシコにローリング・ストーンズがやって来た。ドアーズも。ジミ・ヘンドリックスが死んだとき、それからジャニス・ジョプリンが死んだとき、ベンとジェシーは泣いた。あれもまた天気のおかしな年だった。雪が降った。水道管が凍った。あの年は誰もかれもが泣いていた・・・」
ルシア・ベルリンの文章は、感性豊かで刺激的です。翻訳者、岸本佐知子氏の文章も端正で美しい!<ティーンエイジ・パンク>は3ページにも満たない短編ですが、物語の展開と語り口は見事です。

 作品集『掃除婦のための手引き書』の中で最も好きな作品は、
<ソー・ロング(じゃあね!)>
 ルシア・ベルリンは語り始めます。
「マックスの”ハロー”を聞くのが好きだ。まだ恋人になりたてでお互い不倫どうしだったころ、よく彼に電話をした。呼び出し音が鳴り、彼の秘書が出て、マックスをお願いと言う。やあ、ハローと彼が言う。マックス?わたしは電話ボックスの中でふわっと失神しそうになる・・・」

 このように語られると、いきなり心地良く、ルシア・ベルリンの世界に引き込まれてしまいます。さらに嬉しいことにルシア・ベルリンはピアニストの夫、ジュードとニューヨークに出て、必死に働いたときのことも物語っています。
「わたしたちは幸せだった。あのころのニューヨークは夢のようだった。(中略)ビル・エバンスやスコット・ラファロを生で聴いた。ジョン・コルトレーンのソプラノ・サックス。オーネット・コールマンのファイブ・スポットでの初演奏・・・」

 ルシア・ベルリンもジャズファン!
そう考えると、さらに親近感が増してきます。
 ビル・エバンス・トリオのヴィレッジ・ヴァンガードでの実況録音盤
(CD)を今もクルマの中で聴いています。銭湯の温泉に行くときも、スポーツクラブに行くときも、イオンに買物に行くときも!リマスター盤のCDなので、スコット・ラファロのベースの音が鋭く迫ってきます。
お馴染みの<Waltz for Debby>や<My Foolish Heart><Autumn Leaves>などの名曲・名演奏に、いつも浸っております。
それにしてもスコット・ラファロを生で聴いたなんて・・・羨ましい!

ルシア・ベルリン作品集『すべての月、すべての年』と『楽園の夕べ』
(訳者:岸本佐知子 出版社:講談社)も発行されています。
是非、読んでみていただければと思います。