たのしみは、ウイントン・ケリーの颯爽としたピアノ・タッチ!
ジャズの魅力が少しわかるようになり、真剣にジャズを聴き始めたのは、中学生になったばかりの5月頃のことです。
それまでハンドメイドの巨大なスピーカーと真空管のアンプ、そしてビクターのプレーヤーで主にクラシックのレコードを聴いていた父が、ビクターから発売された最新式のオーディオ装置(ステレオ)を購入しました。そのオーディオ装置は、家具調の横長キャビネットに、オートプレーヤーと、FMラジオ放送も聴けるアンプと、パノラマ・スピーカーを一体化したアンサンブル型ステレオ電蓄と呼ばれるものでした。
ステレオ電蓄を購入した時に、父から「ジャズでも聴いたらどうだ?」と勧められ、家電販売店のレコードコーナーで、ドーナツ盤1枚とコンパクト盤2枚、合計3枚のレコードを買ってもらったのが、きっかけです。
1枚目のドーナツ盤は、英国生まれのジャズピアニスト、ジョージ・シアリングの「9月の雨」と「バードランドの子守歌」が収録されていました。 (このレコードは今も手元にあります)
「バードランドの子守歌」は誰もが親しめる名曲です。ジョージ・シアリングのピアノの演奏にもすぐに馴染めて、大好きな曲のひとつになりました。 2枚目はマイルス・デイビスのコンパクト盤。ミシェル・ルグランのLP 「ルグラン・ジャズ」の中から抜粋された「ラウンド・ミッドナイト」と 「ジャンゴ」の2曲が、A面に収録されていました。
(B面に収録されていた曲は忘れました)
マイルス・デイビスの演奏が楽しめるA面の2曲は、原曲の美しい旋律にハープとヴァイブを加えたミシェル・ルグランの編曲も素晴らしく、クールに情感豊かに歌い上げるマイルス・デイビスのミュート・トランペットの音色に感動しました。
すぐに馴染めなかったのはウイントン・ケリーのコンパクト盤です。
ウイントン・ケリーの名演奏として知られる「朝日のようにさわやかに」の 魅力については、正直なところ、しばらくわかりませんでした。
その頃、ジャズファンにとって嬉しいジャズ番組が、FMラジオ放送でオンエアされていました。ジャズの新譜情報も、その番組を通して入手していたのです。(当時はモダンジャズの名盤がリアルタイムで新譜として登場していました)
ある日FMラジオをつけると、番組で「ブルー・ノート」について紹介していました。「ブルー・ノート」は、ジャズのレーベルとしても有名ですが、番組では「ジャズやブルースを演奏する上で、ブルー・ノートという音と音階が重要な役割を果たしている!」と解説していました。
ウッキペディア(フリー百科事典)によると・・・
「ジャズやブルースで使われる音階<ブルー・ノート・スケール>は、メジャー・スケール(長音階)に、第3音(ミ)、第5音(ソ)、第7音(シ)を半音だけ下げた音を加えて用いるものである。特に♭3、♭5、♭7の音をブルー・ノートと呼ぶ」と書かれています。
ジャズ番組の「ブルー・ノート」に関する詳しい説明を聞いても、♭3、♭5、♭7の音を聴き分けるのは至難の技です。
しばらく悩んでいましたが、祖母の家に寄ったとき、大学で音楽を教えていた叔父から、ピアノの鍵盤を使って具体的に音階について、ご教授いただく機会に恵まれ、なんとかブルー・ノートを聴きとれるようになりました。
さらに「ジャズ・ミュージシャンが、主要な旋律をアドリブで<いかにくずして><刺激的なフレーズにして>演奏しているのか?それを探りながら演奏を楽しむのも、ジャズの面白さのひとつじゃないかな。」と教えていただきました。
ご教授いただいた効果はすぐに表れませんでした。
しかしある日突然、開眼!ウイントン・ケリー・トリオ「朝日のようにさわやかに」の素晴らしさを、実感することができました!
その後すぐに、ウイントン・ケリーのLP「ケリー・ブルー」を入手。
特にB面の2曲目「キープ・イット・ムービング」。そのピアノ・ソロにも夢中になりました。
今も変わらず、ウイントン・ケリーの颯爽としたピアノ・タッチと、絶妙なフレーズの連続に感動を覚えています。