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たのしみは、中古カメラ屋さんで、お宝探し

 銀座三原橋交番近くの中古カメラ店。こぢんまりとしたお店ですが、中古カメラや中古レンズ、珍しいカメラ用品など、多数取り揃えて販売しているカメラ屋さん。お宝探しがたのしい名店です。
 以前こちらのお店で中判・大判カメラ用のレンズメーカーとして知られる「三協光機」から発売された「Komura80mmf3.5L」を購入したことがあります。評判通り、写りもシャープで大満足。なかなかの掘り出しものでした。

 その日の掘り出しものは小型露出計「GossenSIXTINO2」。同じ露出計を2年ほど前まで所有していたのですが、ケースなしで使用中、うかつにもレフ板と接触し、その衝撃で大破。同じタイプのGossenの露出計を探していたところです。目の前に出現した露出計は、幸運なことにハードケース付きで5000円。大変お買い得です!
 久しぶりにフイルムカメラ「ライカⅢG」を持ち出して、南伊豆町の周辺に点在する寺社仏閣を撮影しようかと、想いを巡らしておりました。

「もしもし、たいそうクラシックな露出計、なにか使い道はあるの?」
と男性の声。振り返ると、お店の入口に写真仲間の友人が立っていました。

 友人とはお互い自負する「ライカ・ファン」。こちらはライツ社(Leitz)時代の製品を信奉している「ヴィンテージライカ・ファン」。友人はライカM9とM10ーR、「ライカ2台使い」の「NEWライカ・ファン」。
従って、これまで中古カメラ店で出会ったことは一度もありません。

 友人曰く、
「歌舞伎座で観劇した後、ふと立ち寄ってみたら、珍しい人がいた!」

 Gossenの露出計を購入した後、近くの喫茶店に移動して写真談義。
「これまで衝撃を受けた写真家とか、誰かいる?」
 友人の質問に即答しました。写真家は「ブルース・デビッドソン」
 作品は「ロンドンの暮らし」1964年

 ブルース・デビッドソンの作品と出会ったのは学生時代。学生街の書店で『世界の写真史』(著者:H&Aゲルンシャイム 訳者:伊藤逸平 発行:美術出版社)を手に取り、立ち読みしていました。パラパラとページをめくっていくと、286ぺージにブルース・デビッドソンの写真が掲載されていました。写真のタイトルは「ロンドンの暮らし」(1964年)
ロンドンの街角で取材したと思われる「子猫を抱いた少女」の写真です。
少女の眼差しは純粋で、繊細なタッチと背景の美しさに感銘を受けました。

 大学を卒業した後、趣味で写真を撮っていました。その頃、使用していたカメラはニコフレックスF。レンズはオートニッコール50mmf2。
 当時は『ELLE』や『VOGUE』など、外国のファッション誌が輸入されていて、モデルの背景に独特のボケを活かしたモノクロ写真がたくさん掲載されていました。ファッション誌のモノクロ写真の背景の「ボケ」や
ブルース・デビッドソンの「子猫を抱いた少女」の背景の「ボケ」を再現したいと思い、試行錯誤していましたが、なかなか上手くいきません。

 そこである日、知り合いの写真家に相談すると「レンズにはそれぞれ個性がある。レンズによって写り方や背景のボケなどが微妙に違うから、ニュアンスの異なる面白い写真が撮れるんだよ。試しにライカレンズを使ってみれば?」とアドバイスをいただきました。

 善は急げ!早速、手持ちのカメラとレンズを下取りに出して、分割払いで沈胴ズミクロン50mmf2付きの「ライカⅢf」を購入。
 銀座の街角で、夕闇が迫る頃、試写も兼ねてf2・8で撮影したところ「子猫を抱いた少女」の背景の「ボケ」と同じような「ボケ」が得られて
歓喜したことを覚えています。

「子猫を抱いた少女の写真を見てみたい!」
と友人がスマホで検索を始めました。
「ブルースのつづりはわかるかな?」と友人。
 確か英語表記では「Bruce・Davidson」のはずです。
そこでBruce・Davidson London1964で検索することを提案。すると「子猫を抱いた少女」の写真が紹介されているページが開きました。ネットは素晴らしいですね。友人がさらに検索していくと・・・
 RPS(英国王立写真協会)のセンテナリー・メダル2021を受賞した
ブルース・デビッドソンのインタビュー記事が掲載されているページが開きました。すごい発見です。少女の名前は「キャロル」。少女と少女の姉とボーイフレンドの3人が写った写真も紹介されています。
 『世界の写真史』の少女の写真には「ロンドンの暮らし」というタイトルが付けられていたこともあり、少女が寝袋を持っているので、てっきり家出少女を捉えたドキュメントタッチの作品だと思っていました。
 ところがインタビュー記事によると、少女(キャロル)と少女の姉とボーイフレンドの3人は、湖水地方をヒッチハイクで巡り歩き、コンサートを楽しむためにロンドンに到着。そこで少女と出会って写真を撮影したのだそうです。思いがけない発見です。
 少女と少女の姉とボーイフレンドを撮影した3ショットの背景も美しい!
「ライカレンズの味わいが出ていて最高!」と感想を述べると・・・

 友人が「ブルース・デビッドソンが使用していたカメラやレンズ、露出やシャッタースピードなどのデータは残っているの?」

 鋭いご指摘です。全く調べていませんでした!
カメラは「ライカMP」、レンズは「ズミクロン50mmf2固定鏡胴」と信じ切っていたのです。

 友人がポツリと一言。
「思い込みが激しいライカ・ファン、ここに1名・・・」