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24時間テレビの想い出

24時間テレビという番組がある。

最近ではあまりよいイメージではない。
が、私が子供の頃は、夏休みの定番。
手塚プロのアニメがあったり、欽ちゃんがどの街に居ただとか、募金や黄色いTシャツなど憧れがあった。

当時中学3年生。
私と友人YくんはどうにかこうにかTVに出たいと思っていたのだ。出演というかTVに映りたい、見切れたかったのだ。他にも深夜の番組の留守番電話にメッセージを残すと番組内で流れるような、今考えたら素人のメッセージが流れるわけ無いのに、一生懸命にメッセージを留守番電話に残したりした。2人ともだ。

何となくだが、周りの人達がやらないようなことをして、優越感を探していたのだと思う。クラスの皆が観ないようなTV番組を探したり、皆が知らないような雑誌や漫画や音楽を探したりしていた。サブカルチャーのスタートラインのようなところに立っていたのだろう。

ある日、中古ゲーム屋でいつも通りだらりと遊んでいると思いついた。明日から24時間テレビに行って、TVに映ろうではないかと!
普通ではTVには映らないから、Yくんは宇宙人、私はゴリラのゴム製のマスクを被って観覧していれば映るかも知れないと盛り上がってきたのだ。明日のために安いゲームボーイのソフトをそれぞれ買って、明日に備えた。

その日は少し雨が降っていた。2人の心は変わらなかった。どちらかが「今日辞めないっ!?」なんて言ったら辞めていたと思う。募金のために貯金したこともないし、チャリティーな気持ちなんてまるで無い2人が、小さな箱に小銭を詰めて武道館に向かった。
2人がTVに映るかどうかは、もう1人の友人Iくんが担当した。いつもおバカ騒動には、加わらない冷静な友人だ。TVを観てるという。

武道館までは電車だが、異常に遠く感じた。
この時にYくんと会話した記憶がなく、きっと不安や心配みたいなことを口にしないように、それぞれが買ったゲームボーイに夢中だったのだろう。
地下鉄の九段下で降りて、徒歩で向かうのだが、物凄い人の列が出来ていた。まるで計画もなく、飛び込んだ2人。しばし、考えていると、私たちよりも少し歳上の2人組の男に絡まれてしまったのだ。

私たちは、募金のお金のほかはあまりお金を持ってきておらず、カツアゲされることはなかったのだが、歳上なわりにこの24時間テレビのやっている武道館に面食らったのだろう2人組は心細かったのかも知れず、話せそうな歳下そうな私たちを見つけたのだろう。私たちは、盗られるようなものもなく、カバンにはそれぞれの古びたゲームボーイと宇宙人とゴリラのマスクだけなのだ。
どうにかこうにか、この2人組を撒いて、列に並び少しずつ中に入っていった。障害者やその連れの人などが優先されるので、列はゆっくりゆっくりと進むのだ。途中、先程の2人組にまた見つかっても無視を決めこむことで、難を逃れた。私たちは強くなった。

2階席のメインステージを右側から見れる座席を見つけた。ここに、どの位の時間居るのだろう。隣の席との距離も近いし、こんなところでいきなり宇宙人とゴリラになれるわけ無い。
この年のイメージキャラクターは牧瀬里穂。
私たちが席についた頃には、サッカー中継が始まってしまいステージに芸能人は1人も居なかった。
会場はぼんやりとした光で、旧時代のゲームボーイは、発光していないので何も見えない。時間を潰すことも許されないのだ。
そこで、何を思ったかYくんがもっとよい席を探してくると立ち上がった。その拍子で、床に直置きしたジュースを見事に倒した。Yくんは気づかない。私1人と床一面のジュース。周りの人の目。耐えられるはずがない。すぐに戻ってきたらYくんも、この気まずさに直ぐに気がついた。

「帰ろっか」

この言葉を2人は言わないように我慢していたが、
ずっと待っていたのだ。
私たちの冒険はここまでだった。
帰りは際に、募金する列に居た松村邦洋と握手をして、バウバウって中学生らしくやって武道館を出たのだ。外は大雨、私たちの気分にぴったりであった。

宇宙人とゴリラは、黄色いTシャツをお土産に購入し、友人Iくんの待つ家に帰ったのだ。

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