【映画感想】『ヒトラー 〜最期の12日間〜』
映画やアニメ等、今も世界中の様々なエンタメでモチーフにされまくっているナチス及びヒトラー。
日本でもシュトロハイムだったりベルリンの赤い雨だったり、枚挙に暇がありません。
そんなナチス及びヒトラーを描いた映画群の一つである『ヒトラー 〜最期の12日間〜』ですが、本作は他の愉快な娯楽作品とは一味違う、歴史研究や生き残りのヒトラー秘書官の証言等を基にして作成された、どえらいシリアスな映画です。
この映画については、ネットで本作の一部に嘘字幕をつけたパロディ動画が有名になってしまったので、そちら経由で知っている人も多いはず(総統閣下が「おっぱいぷるんぷるん!」と言っているアレ)。
間違っても、そんなご陽気な内容では無く、軽い気持ちで見るとこちらのメンタルを破壊されかねない、重量級の一作です。
映画のタイトルにある通り、本作で描かれるのはヒトラーの”最期の12日間”。
つまり、映画開始時点で敗北と死が目の前まで迫ってきており、最高に切羽詰まっています。
ヒトラーの栄光や絶頂期の描写は無く、あくまでも最期のみ。
そのため、爽快感のある盛り上がるような場面も、派手な戦闘シーンもなし。
上映時間(しかも2時間35分というなかなかの長尺!)の全てを使って、淡々と最期の時の人間模様と地獄が映し出されるのみ。
それはもう、最初から最後まで徹底的に憂鬱な雰囲気。
そんな極限状態の中、精神のバランスを崩しハイパー躁鬱&錯乱状態のヒトラーを中心に、ヒトラーの愛人エヴァ、ヒトラーに付き添う秘書官ユンゲ、ゲッベルスを始めとする側近達、名もなき兵士や市民達といった様々な人物の視点から”最期の12日間”が描かれる群像劇になっています。
本作のヒトラーは既に精神が破綻している状態なので、勝利を信じて熱く語ったかと思えば、急に激怒して側近たちを罵倒、その直後に「もう終わりだ・・・」と深く落ち込んだり、まさに躁鬱のジェットコースター状態。
側近の皆さんも、さすがにドン引きです。
本作のヒトラー役であるブルーノ・ガンツの演技の完成度があまりにも高いこともあって、精神的に追い詰められていく様に鬼気迫るものがあります。
彼の演技を観るためだけでも、一見の価値が大いにあり。
しかし、そんな不安定な様子も含めて、本作ではヒトラーの”総統”ではない、一人の人間としての姿が描かれており、それが個人的にとても印象的でした。
秘書の女性達には常に穏やかな物腰で、食事の後には「美味しかったよ、ありがとう」と感謝の言葉も述べる。
世界に混乱をもたらした独裁者というイメージとは矛盾するような、穏やかな振る舞いや、所々で見せる人間的な弱み。
この辺りの”ヒトラーの人間的な部分”の描写については、かなり賛否両論が巻き起こったらしいですが、個人的には否定的な感情は湧きません。
その躁鬱と矛盾に満ちた姿に、何か人間の本質のようなモノを垣間見ている気がします。
そして、あれだけの所業の根幹にいたのは、人間には理解不能な悪魔の類ではなく、あくまでも”人間”であったという事は、記憶しておいた方が良いと思うのです、何となく。
ヒトラーについてばかり書いてしまいましたが、他の人物達の”最期”を巡るドラマも、かなり印象に残っています。
やたら丁寧に描写されるゲッベルス夫妻&子供達の最期など、もう、何というか・・・あまりにもキツい・・・
前述したとおり、実に憂鬱な映画であり、間違っても「何か面白い映画ある~?」と聞いてきた友人に軽い気持ちでおススメしてはいけない映画です。
観ていて辛い映画ですが、極限状況の人間心理を淡々と描く群像劇として、個人的にとても心に残る一作です。
ある意味、徹底的に”人間”を描いている作品だからかもしれません。
本作を鑑賞することで、歴史に向き合う際に別の視点を持つことが出来る気がします。