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死と再生の香り

植物の香りには人の声のように一つの個体がいくつものトーンの香りを出します。

私は歩いているときに気になる草花を見つけるとそっと葉っぱを掴みシュッと手でなぞります。

そして手に付いたその植物の香りを確かめます。

葉を千切るよりもこちらの方がその植物の生き生きとした香りを楽しむことが出来ます。

植物は『生きるために出す香り』と『命を終わらせるときに出す香り』があります。
厳密に言うと

生きるために出すときの香りは野生動物の威嚇の時に放つ咆哮に似て精一杯の生命の力を含み上へ昇る香気です。その高い香りのノートの中には鋭く野太い野生が満ち血気盛んな青年期の勢いを有し鋭く香ります。

そして一旦命を終わらせるための香りというのはお花や果実の中に込められたような香りで、壮年期の余裕のような丸い完熟の糖度や油脂を彷彿させる厚く成熟した安定感のある香りです。
それはまるで、間も無く訪れる個体としての死を意識しつつ最後の芳香を奏でやがてその芳香も命と共に薄く身体から剥がれ落ちて捕食者を受け入れつつ生命を貴び、来たる冬の後の子孫に身を繋げるための死を迎え入れているかのようです。


壮年期の始まり

ですから、土から根っこごと引き抜いた植物の香りと枝についたままを撫でる香りは全く違うものになるのではないかと思っています。


おまけに植物は声の代わりに別の生命体とのコミュニケーションツールとして芳香成分を使用しているので、幼年期は高いトーン、壮年期は中低音、老年期は低音となりどんどんと地面に近づき土に戻る過程を遂げ次の世代に繋げ命の再生を繰り返していく様子を違う種族の私たちにも分け隔てなくコミュニケートしているのです。


果実になるとそれはまた独立していて完熟までの香りと完熟のピークを過ぎた瞬間から変化し、また、種子という別枠のストーリーが用意されているのですがそれはまた次の機会に。

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