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日本在住日記#6 食パンマン

街を歩くのは楽しい。いろんな人間に出会えるからだ。
人間観察が趣味といったら少々気味悪がられるが、人を見るのは面白い。

今日も新宿の街を歩いていた。

すると一際存在感を放つ女性が目に映った。ハイヒールがよく似合い、黒くつややかな髪をたなびかせて歩く姿は凛としている。
なにより目立つ理由は彼女の、パリコレでしかみたことがないような個性的なファッションである。
アウターの肩の部分が大きく突き出ていて、さらに角は直角になっている。
わかりやすく例えるなら「胴体版食パンマン」だ。さっと絵を描けば簡単に説明ができる話だが、あいにく今紙とペンを持ち合わせていないので読者の想像に任せよう。
とにかく、胴体が食パンのように四角形で、胴体版食パンマンである。

僕は胴体版食パンマンがあの服と出会ったきっかけが気になってしょうがない。
あの服が店に並んでいたとき、きっと普通の人間は「ナニコレ。」と通り過ぎていっただろう。しかし胴体版食パンマンはその服の前で立ち止まり、「パリコレ。」といって手に取り購入するに至ったのだろう。そこにはドラマがあったはずだ。

…待てよ。前提として本当にあの服を買ったのだろうか。

そこで僕はこんな考察をし始めた。
胴体版食パンマンは人間ではなく、生まれたときから胴体版食パンマンなのである。アンパンマンが顔を定期的に交換しなければならないように、胴体版食パンマンも定期的に胴体を交換しなければならない。普段は人間社会に溶け込めるように人間の肩幅とピッタリサイズの食パンを胴体につけている。これなら人間に自分の正体がバレることはない。
しかしある時事件が起こる。強烈な台風が日本列島を襲う。その時多数の犠牲者がでて、また交通が麻痺したために食料がある村に行き届かなくなった。飢餓にあえぐ人々を救うべく胴体版食パンマンは村へかけつけるが、こんな人間サイズの食パンでは村全員の空腹を満たすことなどできない。そこで彼女は後悔した。
「もっと胴体が大きければ村の人達のお腹をいっぱいにできたのに。」
彼女は自分の正体を隠すことをやめ、大きな食パンを身に纏った。
そうして、彼女は現在の姿になったのだ。
彼女はただの「胴体版食パンマン」ではない。
「胴体版腹パンパン食パンマン」だ。
彼女には愛と勇気があった。

そんなことを想像して彼女を目で追っていると、長方形の形をした背中に、なにやら小さく文字が書かれているのがわかった。

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