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AIM HIGH

世の母親の多くは、おそらくそういうものなのだろう。
息子の僕が子供の頃に描いた絵を、彼女も大切にスクラップし保存していた。

カミさんと結婚した頃、実家に帰省した折偶然見つけたそれには、幼き日の僕の力作である空想の怪獣達がストックされていた。各種ロボットやザリガニに似たエビ怪獣、石怪獣ゴンガ?etc。中でもゴンガはお気に入りだったようで「おしりから空気を吸い、口から煙を吹く」と画伯は宣うたらしい。母親のキャプションが書き込んであった。
クレヨンを使い、のびのびと自由に描かれたその作品達を見たカミさんから「なかなかイイ絵ネ」とお褒めの言葉を頂いた。
高校時代は美術部に在籍し、油絵を嗜む彼女にそう評価された僕の絵。
しかし、である。
今の僕は絵がからっきしダメなのだ。
僕の絵の才能の芽は、土からピョンと顔を出したのだが、その後どうもほったらかしであったようで、双葉にすらならぬうちに枯れ果ててしまったのかもしれない涙

世のお父さん、お母さん!よくよくここは注意して頂きたいっ!!
もし我が子の才能の種が発芽したと感じたならば、愛という名の水と肥料をしっかり与えこう言い続けてほしい。

「上手に出来たね!スゴイね!!」と。

偉大なる芸術家は、あなた方の弛まぬ努力で生まれる事もあるのだ。

そんな訳で絵の才能を失った(笑)僕は「文字を書く」という表現方法にシフトしたのかもしれない。
ここのところちょっぴり怠けていてマズイなと思っている「書」もそうであるし、このモノ物語りも書くことで表現しているわけだから…。

さて、心優しき読者の皆様に支えられ、この度vol.10の節目を迎える事ができたこのモノ物語り。
そのアニバーサリーに相応しいアイテムとしてピックアップしたのは、字を書くモノ=筆記具である。

少し前になるが、ツイッターで何気にこう呟いた。
「vol.10を書き終えたら、パーカーの万年筆を一本買う」と。
万年筆と言えば、中学入学の時に叔父にお祝いとして戴いたプラチナ萬年筆を今でも大切に持っているし、あのモンブランのマイスターシュテックも素晴らしいとは思う(まだまだ似合わないけど)

ただ、何故か僕はパーカーの万年筆が好きなのである。

1888年、ジョージ・サッフォード・パーカーによりアメリカで創業されたパーカー社。翌年にはペンの製造を本格的に開始する。1894年、万年筆のインク漏れを劇的に解消した「ラッキーカーブ」機構を搭載した万年筆を世に送り出したのを機に、パーカーの名は広く世に知られることになる。
1900年代なるとデュオフォールド、パーカー51といった万年筆の名品やロングセラーとなるペン〈ジョッターシリーズ〉などを次々と生み出し、
「The world’s most wanted pen 世界で最も愛されるペン」と称賛されるメーカーとなった。

かのアーネスト“パパ”ヘミングウェイやシャーロック・ホームズのコナン・ドイルなど著名な作家達も愛用していたといわれている。
更にその伝統と信頼を認められ、ロイヤルワラント(英国王室御用達)を取得。エリザベスⅡ世女王とプリンスオブウェールズ(チャールズ皇太子)二つのアームス(紋章)を掲げる筆記具メーカーとなっている。

僕が何故パーカーに魅かれるのか?これだという理由は見つからない。
おそらく子供の頃、父親のデスクのペン立てにパーカーの筆記具があったのではないだろうか。ジョッターあたりのボールペンか何かだと思う。
あのアロークリップ(矢羽)のペンが、微かな記憶として僕の中に残っているのだ。人々が愛してやまないパーカーのアローは海を越え僕の家にも飛んで来ていた。
それ程パーカーは世界の人々の生活の中に浸透していたに違いない。
視覚的に刷り込まれたパーカーの記憶は僕の中で長い冬の眠りに入る。
そして、春は2000年ミレニアムの幕開けとともに訪れた。

その頃暮らしていた自宅から、車でほど良い距離に某有名デパートがあり、休日には時々出掛けていた。百貨店世代だからデパートは大好きなのである。
行くと決まってステーショナリーコーナーに立ち寄り世界の逸品達の試し書きをしていた。
モンブラン・ペリカン・ウォーターマン・カランダッシュetcまさに至福のひと時である。
ちょうどその日もいつものように筆記具のショーケースに向かった。
ふとケースの上を見ると、何やら専用のディスプレー台に並ぶ限定品らしきペンがあるではないか。

ーんっ、パーカーか?

そこにはミレニアム限定のスタンダードタイプのローラーボール(ペン)があった。’99年に発売されたらしいそれは、世界地図と主要都市が描かれ、キャップのアローをGreenwichに合わせると、各都市ごとに世紀の幕開けの時刻を知ることができるようデザインされたGMT仕様のものだった。
2000年ミレニアムイヤーにロンドンはグリニッヂ天文台で行われるイベント
「GREENWICH MERIDIAN 2000」の公式筆記具に認定されていたパーカー社は、いくつかの限定モデルを’99年に発売したようだ。
そのペンが気に入った僕は迷わず購入した(限定品に弱いのでねぇ)
ミレニアムイヤーに出会ったアロークリップのパーカー。
雪解けの水は、小さな流れをつくり始めた。
そのペンを手に入れてから間もなく、シンクロニシテイとも言えるパーカーストーリーがもう一つ生まれたのである。

当時の職場に時々来店頂いていたお客様に、中国系アメリカ人のドクター
(医師か博士か忘れてしまったが)の方がいた。
いつもアウトドア用品を購入したり、注文したりとお得意様的であったのだが、この方日本語が全く話せない。
イングリッシュオンリーである上に、彼はとてもセンシティブでアイテムに関しての質問がマニアック且つ非常に細かいのだ。
正直とても大変な接客で、彼が帰るとドッと疲れが出てしまう程パワーを使っていた。
ある日、いつものように接客を終えホッとしていると、彼が小さな箱を差し出し「君にプレゼントだ!」と言う。
聞くと年に一回はアメリカに帰国しているらしく、どうもそのお土産のようだ。箱を開けるとそこには一本のペンが…何とパーカーのローラーボールではないか!!
いつも(懸命に拙い英語で)接客してくれる僕への感謝の気持ちだと言うのだ。心のこもったありがたいプレゼントは翌年も続き、僕は二本のローラーボールを戴いた。
その後程なくして、僕は退職してしまったので、彼に挨拶することなく別れてしまった事が、今でも少し心残りではある。
只、そのローラーボールはブルーとレッドで彩られたSTARS&STRIPES(星条旗)バージョンで、彼の愛するアメリカをあまりにもストレートに表現したモデルだったため、自宅以外ではまったく出番がなかった。というのが正直なところだ苦笑

そんなストーリーもあったりして、僕はすっかりパーカーがお気に入りになってしまった。

僕は筆圧が高くボディをしっかり持って字を書くタイプである。
太いボディを軽く持って、サラサラと走らせるように書くことがなかなか出来ない。
細いボディだと更に力を入れて持ってしまうので、とても疲れてしまう。
色々と試し書きをした中で、ボディの太さ、ホールド感、ウェイトなどのトータルバランス、さらに質感もパーカーのモデル「ソネット」との相性がとても良かった。
加えて、買い易い価格ながら18Kのニブが奢られていて、コストパフォーマンスがとても高い。
適度な柔らかさを持つそれは、優しくしなり筆圧を良い具合に往なしてくれたのである。
海外ブランドは国産よりも線が太く出るので、細字のFが僕の欲しい線を軽やかに生み出した。

実を言うとこのモノ物語り、紙に下書きをして推敲をくりかえし、最終的に原稿におこし、更に校正したのちにPCに取り込んでいる。
数々の推敲でぐちゃぐちゃになった用紙を見てふと思う事がある。

ー僕は文字をもって絵を描いているのではないだろうか?

なるほどそういう思いで見てみると、文面というよりは抽象絵画のように見えなくもない。
以前、僕の書の作品を見た書道の先生が「絵を描くように書いているね」と評した事があった。
僕にとって「文章を書く」事は、過去・現在・未来の自分自身と真摯に向き合い自らを内観していく行為でもある。
無意識下で文字に図形的な要素を見いだし、絵画的に表現していく。
そこに唯一、石怪獣ゴンガを描いていたあの頃の僕が存在しているのかもしれない。

さて、第二章の始まりとも言えるVOL.11からの「モノ物語り」。
下書きには万年筆「ソネット」を使っている事だろう。
因みにソネット(SONNET)とは近世ヨーロッパはイタリアで生まれた14行からなる小押韻詩型の事。
かのウィリアム・シェイクスピアはこのソネットを駆使し150篇以上もの作品を残したと言われている。
その名を冠したパーカーの万年筆。書くのがとても楽しみである。

僕の現在(今)から紡ぎ出された言葉の数々が、パーカーをして文字となり描かれた時、さらなる高みへと向かうためのガイドマップに、新たなるルートが加えられるだろう。

そう、パーカーのアイコンである矢羽(アロー)には

「AIM HIGH-目標を高く掲げ、求め、達成する」

というブランドコンセプトが込められている。

「未来の自分が立つべき処へ、矢羽が真っすぐ届くように」

そんな願いを胸に、今日も僕はペンを走らせる。

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【追記】

*この内容は2012年に拙ブログのカテゴリー「モノ物語り」にUPしたものから抜粋し、改めて加筆・修正し投稿致しました。
*本文では絵がからっきし駄目と豪語している僕でしたが、2020年、カミさんの一言で「描くこと」に開眼し抽象画を描くようになりました。今度は逆に文字を書くように絵を描いているのかもしれません。それでも「書くこと」は今も好きなので、拙い文章ですが、noteにてポツポツと書いていこうと思っています。


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