リヤカーマン
以前、テレビで「リヤカーマン」の特集をやっていました。
リヤカーマンとは、大阪に住む50代のおじさんのことです。
彼は20代のときから、リヤカーを引っ張って、日本縦断から始めて世界中を歩いてまわっている人です。
30年間、リヤカーとともに世界を渡り歩き、世界一周40000Kmの最後の残り900Km、アマゾンの密林の中の一本道を歩いていく姿をやっていました。
彼のリヤカー「田吾作4号」には、簡易テント、衣服、食料等、最小限の物を積み込み、日がな田吾作とともに炎天下を歩きます。
スタート地点にたった彼は、引き手を何度も握りなおして目をつぶり、しばらくじっとした後、腹の底から、「よっしゃ!!」と大声を上げて猛然とその一歩を踏み出しました。
私はそれを見て、「さすがに本物はすごいな」と、少し感動しました。
30年間リヤカーを引っ張り続け、山ほどの困難や、試練や、苦痛や、喜びを乗り越えてきた彼には、あれ程の腹の底からの気合を入れなければ、スタートの一歩が踏み出せないのですね。
「じゃー、行ってくるわ」などといったスタートはきれないのですね。
やはり、本物はすごい。何事であっても、一事を成し遂げている人のすばらしさを思いました。
彼の小学生の息子は、お父さんについて、「重たいリヤカーを引っ張って、遠いところまで行くのがかっこいい」と言っていました。
「世界一周ヨット一人旅!」、かっこいいですね。「エベレスト登頂!」、かっこいいですね。「30年間、ただひたすら、リヤカーを引っ張っていました!]、すばらしいですね。
私も学生時代、サイクリング同好会に所属し、京都から鹿児島まで自転車で行ったりしました。駅のベンチで寝たりすることは、高級ホテルのふかふかベッドで寝るのと同じぐらいの満足があります。
いろんな人に声をかけられ、励まされ、助けられます。見ず知らずの人に食事をおごってもらったことも何度もあります。
暗くなってから自転車で田舎道を一人走っていると、本当に人恋しい気持ちになります。切なく寂しく、非常に暖かい感情が蘇ってきますね。夜の空気が、いろいろなことを「教えて」くれるわけです。
リヤカーマンは、30年間リヤカーを引っ張ることによって、いったいどれだけ多くのことを学んできたのでしょうか。リヤカーを引っ張る、ただそれだけのことでも、人は山ほどのことを学べるのだと思います。
彼は、ゴール寸前に、「田吾作、頑張れ、もうちょっとだぞ」と、リヤカーに語りかけ、励ましていました。