ストーカーのはなし

stalker(female&male)

age:30&34

ストーカーになるつもりなんてこれっぽちもなかったけれど。一目見た彼があまりにあの人に似ていたから。せめて名前だけでもって思って。こっそり絵馬を裏返したら住所も書いてあって。そう!絵馬って住所まで書くんだってその時ようやく思い出したくらいだから。だからやっぱり決して、確信犯でも計画犯でもないことをここに強調したい。

ただ。

その住所を思わず写真に撮って収めたのは本当で。理由は割と近かかったから。ほんの出来心だった。もし。そこに記載されている住所が、私の居住地から飛行機で3時間超!本土の末端!という遠距離だったならば私はそんなことしなかった。でも、その住所の最寄りは会社の隣の隣の駅で。乗り換えで割と馴染み深い駅だったから。どんなもんだろ、というやっぱり出来心で覗いてみたくて。あの人に似ているあの人の住処というものを。やっぱり人間暇だとろくなこと考えない、と自戒を込めていいたい。

でも流石に絵馬にはマンション名もましてや部屋番号なんて書いてなくて(私だったら普通に書くだろう。彼は意外と用心深いのか?変な虫がついても困るもんな)、最初は駅で待ち伏せというか待ちぼうけしていた。そうして彼を見つけるのはそれから4日後だった。これはストーカーにしては早いのだろうか。統計がないから分からないが割と順調だったと思う。

その時のことを彼と時々話すのだが、彼は明らかにちらりと私を見てにやりと笑った。彼はそんなはずはないと一蹴するが、私は今でも疑わない。バチバチと目が合ったのだ。だから、私は思わず声をかけそうになった。でも私と彼の間には分厚いガラスがあって(私は改札横のカフェを陣取って待機していた。時々スマホを覗いたり居眠り!していたので本当はもっと早く見つけることができたのかもしれない)、コートを羽織り荷物をまとめなくちゃいけなくて(痛恨のミスだったと思う。瞬発力が求められる現場においてそんな風に寛ぐとは何事かと首を絞めたい)、ついでにお会計もまだだった。だから私はカフェを出る頃には半泣きで、地団駄を踏みたい気持ちを抑えて、迷子の子供のように四方八方を見渡すのだった。

あの時の君は本当に可愛くて、しばらく見つめていたよねと彼は笑う。どこで見つめていたのか知らないけれど、とにかく彼はふわりと目の前に現れて横断歩道を渡ったのだ。私は思わずひっと悲鳴をあげ、転がりそうな勢いのまま彼の背中を追いかけた。

★☆

何処で出会ったの?と時々聞かれる。駅前で、と揃って答える。
彼女は僕の最寄りで僕を偶然見つけ一目ぼれしたの、と続ける。

それは嘘で彼女は僕を追いかけていたし、僕はそれを知っていた。


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