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大空の戦士たち(10)ルフトヴァッフェ篇vol.3【小説】
リエーナとセルゲイは、モスクワ軍管区にある赤軍パイロット養成学校で日々任務をこなしていた。
リエーナは厳格な教官として、セルゲイは教材管理を担当し、それぞれの役割を果たしている。
訓練生たちが慌ただしく行き交う中、彼らはこの学校での生活に慣れ親しんでいた。
ある日、学校の食堂で昼食を取っていた二人に、初対面の男が近づいてきた。
小太りで、顔が油っぽく光る男は、緊張感のない笑みを浮かべながら自己紹介を始める。
「やあ、僕はイシゲル。ウクライナ出身だ。先月この学校に入学したばかりでね。
同志リエーナ、同志セルゲイ、君たちの活躍は機関誌『プラウダ』でよく読んだよ。」
「ありがとう、ぼくはここで教材管理を任されている。よろしく頼むよ。」
セルゲイが挨拶をする。
リエーナは、無言でその男を冷ややかな目で見ている。
イシゲルは、セルゲイの反応に気をよくしたのか、話し続けた。
「僕の両親はウクライナで政府に反抗して、小麦の供出を拒否してね。それで、僕は小さい頃から苦労してきたんだよ。」
話は冗長で、イシゲルの声は食堂のざわめきの中に溶けていたが、セルゲイは彼の言葉に同情する。
「なんだか僕の両親と似たような境遇だな。」
セルゲイの言葉に、イシゲルは笑みを浮かべた。
しかし、リエーナは彼らの会話を遮った。
「セルゲイ、もう話はやめるんだ。」
「おい、イシゲル。さっきからペラペラと、無駄口ばかり叩きやがって。その汚い、引きつった笑いが気持ち悪いんだよ。」
イシゲルの顔が強張り、セルゲイは慌ててリエーナをなだめようとした。
「リエーナ、それは言い過ぎだろう…。」
「そのだらしない、サイズの合ってない制服はどこで調達したんだ?」
リエーナは冷たい口調で言い放った。
イシゲルは困惑し、答える。
「何を言いたいのか分からないな、同志リエーナ。」
「ふざけるのもいい加減にしろ、チェーカー!」
と言うなり、リエーナは彼の襟首を掴んで椅子ごとひっくり返した。
食堂は騒然となり、他の教官や生徒たちが驚いた表情で三人を見ている。
セルゲイは目を丸くし、驚きの声を上げた。「チェーカー!? リエーナ、一体どういうことだよ?」
リエーナは、鋭い声で言い放った。
「こいつはNKVDのスパイだ。チェーカーさ。ウクライナ出身の話も両親の話も全部偽りだ。我々を罠にはめようとしているんだよ。」
イシゲルは地面に倒れ込んだまま、ゆっくりと立ち上がりながら笑みを浮かべた。
「全ての増税に反対する反動分子…我がソビエトにはそのような分子は不要だよ、同志リエーナ。」
彼はゆっくりと埃を払いながら続けた。
「そして…おめでとう。君たちはスペインに派遣されることになった。スペイン人民義勇軍として、フランコのコンドル軍団と戦ってもらう。」
セルゲイは唖然とした表情でイシゲルを見つめ、リエーナは険しい表情を崩さない。
イシゲルはさらに続けた。
「内務人民委員の情報によると、ルフトヴァッフェのコバとシンジもそこにいるそうだ。」
リエーナとセルゲイは、その場に立ち尽くしていた。運命はすでに動き始めていた。