大空の戦士たち(11)ルフトヴァッフェ篇vol.4【小説】
リエーナとセルゲイは、スペイン共和国軍義勇兵航空隊に配属された。
二人が基地に到着すると、リエーナは衝撃を受けた。彼女は几帳面で綺麗好きだったが、目の前の光景はそれとは正反対のものだった。
共和国軍の基地は、まるで雑然とした市場のようで、およそ軍隊のものとは思えない。
秩序も規律もなく、物資が散乱し、兵士たちが好き勝手に行動している。
この軍隊にはプロレタリア的であることが最優先される。
そのため階級がなく、全てが「民主的」に決定されるのだ。
だが、実際には指導者が不在で、誰も重要な決断を下すことができないため、何もかもが停滞しているのだ。
民主的な無責任体制は、部隊を無力化させていた。
リエーナは眉をひそめながら言った。
「セルゲイ、ここには馴染めそうもない。早く帰りたい」
セルゲイは目を輝かせ、基地の喧騒にあまり気にする様子もなく答えた。
「えっ?僕はむしろ、スペイン料理をたくさん食べたいけど?」
「この汚い基地が気にならないのか?」
「少しは気になるけど、住めば都さ。それに、僕はおいしい料理と陽気な音楽があれば十分だよ」
その時、スペイン兵たちがワインを片手に陽気に歌い始め、マンドリンをかき鳴らしていた。彼らの一人が、リエーナに手を振って声をかけた。
「お嬢さん!一緒に歌おう!」
リエーナは苛立ちを隠さず、言い放った。
「私はソビエト空軍リエーナ・カチューシャ中尉だ。お嬢さんじゃない!」
そう言いながら頭を抱えるリエーナの横で、セルゲイはすっかり兵士たちと打ち解け、ワインを飲みながら歌っていた。
翌朝、
セルゲイは突然、ベッドから落とされて目を覚ました。目の前には、腕を組んで冷ややかに見下ろすリエーナの姿。
「いてて…何するんだよ、リエーナ!」
「セルゲイ、起きろ。作戦室に行くぞ」
作戦室に到着すると、ソビエト空軍の幹部が厳しい顔で彼らを待っていた。
「内務人民委員からの情報だ。ドイツ空軍は、これまで主力だったハインケル He 51を退役させ、メッサーシュミットBf109が新たな主力機となりつつある」
幹部の言葉に、リエーナは緊張の表情を見せたが、セルゲイは肩をすくめて呟いた。
「ふーん、最大速度が50キロ速いだけか。そんなの大したことないな」
リエーナはセルゲイを睨みつけた。
「本気で言ってるのか、セルゲイ?
50キロの差が分速なら830メートルだ。ほんの数分で敵機は私たちの視界から消える。それがどういうことか分かるか?」
セルゲイの顔色が一瞬で変わり、驚愕の表情を浮かべた。
「なんだってー!? そんなの勝てっこないじゃないか!」
リエーナは苦笑し、肩を軽く叩いて答えた。
「イシドル、やってくれるな。でも、セルゲイ、私たちはまず生き延びることが最優先だ」
セルゲイは小さく頷きながら、不安げにリエーナを見つめた。
戦いが近づく中、二人はそれぞれの思いを胸に、次の任務に向けて準備を進めた。
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