会員様寄稿【連続小説】『スナッククリミア』(4)D.I.J.のピストル
【登場人物】
亜墨陽三(米鷹組組長): 広島ヤクザ界を長年支配してきた人物。
小泉幸太(大和組舎弟): みんなからチュンセと呼ばれる。米鷹組のパシリ。
【第四章 D.I.J.のピストル】
抗争は始まってしまった。
露熊組の奇襲攻撃は失敗し、戦線は膠着状態に陥っている。
事態は消耗戦になっており、宇蘭組ではさまざまな費用がかさんでいた。
米鷹組が資金援助していたが、その矛先は当然に大和組にも向かうのだった。
「失礼します。」
呼ばれたホットドッグ屋の一室に入るチュンセ。
CDラジカセからはブランキージェットシティーの「D.I.J.のピストル」が流れている。
テーブルにはメロンソーダとチリドッグ。
亜墨陽三はひとり、食事をしていた。
「上納金はもう払えん?」
メロンソーダを飲み干しながら、亜墨が問いかけた。
「うちの組、不景気やもんで…」
と、チュンセは立ったまま報告する。
奥でタバコをふかしている店主の老婆が、ちらりとふたりに視線を送った。
「わりゃ、そがいな言い訳垂れにきたんか?」
こわばった笑みを浮かべたチュンセに、いきなり亜墨がビンタを張った。
「おい、こっち来いや!」
チュンセに蹴りを入れる亜墨。
「ぐふっ! 」
「おい、チュンセ。われ、なに寝ぶたいことぬかしとんのよ。おら!おら!」
「金稼ぐんは、マグロ漁じゃろうが、原子炉の作業じゃろうが、なんぼでもあるじゃろうが。」
チュンセは呻き声をあげながらのたうち回った。
「わりゃ、どがいにして生きてきたんじゃ!おお?」
胸を足で押さえつける。チュンセは顔を真っ赤にしてゼーゼーと苦しげな呼吸音を立てるばかりだ。
「守孝、やめんさい。」
突然、店主の老婆がしゃがれ声をあげた。亜墨は力を緩めて足を下ろした。
咳き込むチュンセ。
「惨めなもんじゃのう。コッペパンと脱脂粉乳を恵んでもらわな生きていけんのじゃけえ。」
亜墨がチュンセを無言で見つめ、上納金を払うようせまる。
「…わかりました…」
亜墨はかすかに嬉しそうな笑みを浮かべる。
「婆ちゃん、また来るわ。」
万札をテーブルに置き店を出ていく。チュンセは床に座り込んだまま、瞬きもせず亜墨の消えたドアを見つめていた。
「…チリドッグ食って帰りんさい。」
意外にも優しい声が聞こえてきた。
「こんなワシでも、チャカさえあればドキドキするようなイカレタ人生を送れるのに。」
涙をこぼしながらチリドッグを口にするチュンセだった。
続く