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カラフルで、やわらかな人。/ Mr. Smith 菊地 幸代さん【前編】
まだ何屋かわからないし「お店じゃない」使い方もしたい
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Mr. Smithの 菊地 幸代です。息子が Umeという名義で絵を描いてまして、その絵をプリントしたグッズとかTシャツとかの販売、もちろん作品自体も扱っています。それに合うようなおもちゃとか古い雑貨とか、自分の好きなものもちょこちょこと。何屋さんなの?ってよく聞かれるけど、雑貨屋っていうのもなんか違うし、展示とかワークショップとか「お店じゃない」使い方もしたいから意図的にあまり什器を置いていなかったりもして。うーん、アートスペース、ですかねぇ。自分でもまだわからない、笑。
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そうそう、ここはわたし自身のデザイン業務の事務所みたいなのも兼ねてたりします。息子の絵のサポートをやっている中で、原画をデータにしたりポスター作ったりとか必要に迫られてやっていたらデザインするのが面白くなってきて。それならデザイン仕事を受けるための窓口があるといいなってMr. Smithを構えたところもあります。というわけでお店って呼んじゃうのもちょっと違う気がしながらも、まだうまい答えが見つかっていません、笑。色々やりたくてぐちゃぐちゃですが、でも一応全部繋がってます。
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屋号に深い意味はなくて、スケートボードの「スミス」っていう技がきっかけかな。息子がスケートボードをやってるんですが、そこで子どもたちがスミスの上手い大人を「ミスタースミス」って呼んでて、その響きがなぜかすごく気に入っちゃって。それで「スミス」が気になって調べてみたら、日本でいうところの「佐藤さん」みたいな、アメリカで最も多い名前みたいで。そんなたくさんのスミスさんがうちのTシャツを着てくれて、いろんなところを旅したり出会ったりして「そのTシャツいいね!」…なんてことが起きたらおもしろいなという妄想もしたりして、ふふふ。文字に起こしたときのつづりもなんかいい感じだなって、それで、Mr.Smithと。
わたしは「色が好き」だから絵を描いてる
わたしは小さい頃からずっと絵を描くのが好きで。美術の学校に行ったとかじゃなくて、本当にただ好きで描いてるだけなので上手ではないんですけど。絵が好きっていうかたぶん色が好きなんです、色で遊びたいから絵を描いてる、って感じなのかな。「◯◯色が好き!」とかそういうことじゃなくて、色の組み合わせとか重なりとかが無限に楽しい。シルクスクリーンとか、リソグラフとか、ステンシルとか、ああいう色が重なったときや混ざり合ったときなんか、たまらないですよね。あ、色を乗せる紙とか生地とかそっち側の素材によっても違うし。なんていうか色の研究、色の探究なのかなぁ。
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その色から想起されるイメージから妄想で遊んだりもします。今思えば、ストレス発散とか気持ちのアウトプットとかを、絵を描くこととか色を使う表現でやってたんだと思う。そういうのを息子にもどうかな?なんて思ってたタイミングで、知人の勧めもあってでっかいキャンバスに息子と2人で絵を描いてみたんです。もともと息子は全然絵を描かない子で、幼稚園のスケッチブックとかも1年間で 3ページくらいしか描いてこなかった。実物に忠実に似せて描かなきゃいけない、上手くなきゃいけない、って真面目すぎるところがあったからだと思う、笑。でもそのでっかいキャンバスのときは指とかスポンジとかで2人一緒になってとにかく自由にいっぱい猫を描きました。
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きっとそれが楽しかったんですかね、そこから少しずつ絵を描くように。息子は好きなものしか描かないから主に絵のモチーフは花と猫。どちらも生活のなかにある(いる)とても身近なものです。ちなみに花はカラフルだから好き、猫は吠えないから好きって、笑。最初は私がただやらせたかっただけかもしれないけど、一緒に遊んでるうちにいつの間にか本人が絵を描くことを好きになって、今はすっかり自分の活動としてやってますね。朝早起きして描いたりとかしてます。
知らない土地で「誰と出会うか」って大事
息子の絵を発信していこう、世に出していこうって実現できたのはカクイチビルのメンバーでもあるMoon doggの敏和さん聡子さん夫妻と、bigottのまちさんの後押しが大きいですね。わたしは生まれが北海道で、栃木に来て最初にちゃんと働いたのがMoon doggの前身のクウチャリズモっていう店だったんです。で、そこの地下にはbigottのまちさんのアトリエがあった。もう15年近くの付き合いになるのかなぁ。だから息子も生まれたときからかわいがってもらってて、カクイチビルができてからはここにもよく遊びに来てたんです。息子は自分のスケッチブックを持ってきて「見て見てー」って自分の絵を見てもらって。
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そんな中で「いい絵描くね」「ここで展示やってみたら?」みたいな声をかけてもらって、それで実現したのが2022年にカクイチ実験室でやった「ぼくのへや」という展示。
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はじめは絵を発表しようなんて考えていなかったのですが、いい機会なので息子がやりたいと思えたなら全力でサポートしようと決めました。「僕の絵は下手だから人には見てもらいたくない」って言ってた子が、展示を経験したことによって「上手いとか下手とかそういうことじゃないのかもしれないな…」と感じたようで、すごく自信を持てるようになった。余談ですが、言葉で褒められるだけじゃなくてお金を払っていただいたっていう経験にもすごいびっくりしてましたね。
【後編】へ 続く。