BC47「やりたいことがやれてみて、なぜやりたいことがやれなかったのか?がわかった!」
[水道橋博士のメルマ旬報 vol.42 2014年7月25日発行より一部改定]
あるドラマというかイベントの脚本を書いたことがあります。
その脚本というのは、2014年8月10日(日)に14時から神保町にある専修大学で行われた、『本の講義~統計学が最強の学問である~』の脚本です。主演は八嶋智人さん。これは同時にドラマとして収録され、2週間後の8月24日(日)深夜25時45分からTBSテレビで放送されました。というわけで、僕はプロデューサー兼監督兼脚本で結構バタバタしました。実はこれ、先号でお見せした僕が学生時代に筒井康隆さんの『文学部唯野教授』に出会って思いついて、15年以上TBSテレビの編成に出し続けたけどなかなか形にならなかった企画書“知のライブラリー『TBS教養講座』プロジェクト”がやっと形になっての第2弾なわけです。
第1弾は、2013年に聖心女子大学で開催した谷原章介さん主演の『7つの習慣 読村教授の華麗なる特別講義』で、BS-TBSで放送されました。
http://prw.kyodonews.jp/opn/release/201308123854/
僕が15年以上実現しなかった企画書が、なぜ去年ようやく実現できたのか。
そこには不思議なご縁もありますが、
というかそもそも“なぜ自分のやりたいことがやれないのか”
という長年思っている命題の真意に、
去年僕が“やりたいことがやれてみて”気付いたことがあるのです!
まずはその経緯を説明します。
“知のライブラリー”の企画はそもそも純然たる番組企画書でした。“難しい講義を分かりやすい脚本にし、俳優が大学の教授に扮して、実際に講義を演じてもらう”。僕が大学時代に経験した“よく聞くとおもしろいけど、聞いてるだけだと眠くなっちゃう講義”からの逆転の発想でした。でもこれを何度テレビ局の編成に提出しても通りません。理由は「おもしろそうだけど、視聴率取らなそう」。
まあ、確かに視聴率取りそうか?って言われると正直自信は無かったです。いや、やり続けて認知されれば、徐々に上がっていくコンテンツだとは思うのですが、初動が見込める企画では勿論無いわけです。この連載で何回か述べておりますが、民放は視聴率がすべてなのです。なので“視聴率が取れるかわからない企画”ってのはもうそれだけで通らないのです。
そんな時、それも今からもう9年前になりますが、2005年のホリエモンのニッポン放送買収事件を契機に、ある変化が僕の中に生じました。そのことはメルマ旬報第33号の連載第2回“600億円と660円、ホリエモンと僕”のところで書いたのですが、要するにそれまでは中身のおもしろさだけを考えていた自分が、その企画の成立のための経済構造とかも意識する様になったのです。
・・・そういう風に自分の考え方が変化して、そして“知のライブラリー”の企画書もバージョンアップしました。“難しい講義を分かりやすい脚本にし、俳優が大学の教授に扮して、実際に講義を演じてもらう”という番組企画を、事前に収録のとき観客にチケットを販売して“有料講義イベント化“してしまえばよいのではないか?少なくともチケット収入があれば制作費をまかなうことができる。ドラマ番組を作るのではなく、有料講義イベントを作ってそれを後でドラマ番組化すればいいんだ!さらにその講義は、大学の講義だけでなく、例えば既存の出版されている難しいと思われている本の解説を講義にしてしまえば、出版社の協力も得られるのではないか。
僕は、企画書を書き直しました。
企画にはタイトルが必要です。というか企画のタイトルというより、この“講義”と“有料イベント”と“ドラマ番組”を同時にやってしまうシステムに名称が必要だと思いました。新しいことをやってるんだから新しい名称が必要なのです。
そんなときアメリカにはTEDという講義のエンターテインメントがあるのを知りました。
TEDとはWikipediaによると・・・
TED(テド、英: Technology Entertainment Design)とは、アメリカのカリフォルニア州ロングビーチ(過去にはモントレー)で年一回、大規模な世界的講演会を主催しているグループのこと。
TEDが主催している講演会の名称をTED Conference(テド・カンファレンス)と言い、学術・エンターテイメント・デザインなど様々な分野の人物がプレゼンテーションを行なう。講演会は1984年に極々身内のサロン的集まりとして始まったが、2006年から講演会の内容をインターネット上で無料で動画配信するようになり、それを契機にその名が広く知られるようになった。
講演者には非常に著名な人物も多く、例えばジェームズ・ワトソン(DNAの二重螺旋構造の共同発見者、ノーベル賞受賞者)、ビル・クリントン(元アメリカ合衆国大統領、政治家)、ジミー・ウェールズ(オンライン百科事典Wikipediaの共同創設者)といった人物がプレゼンテーションを行なっているが、最重要事項はアイディアであり一般的には無名な人物も数多く選ばれプレゼンテーションしている
ならばと、“知のライブラリー”の名称を”TED”をもじって”L+E+D”と名付けました。Lecture(講義)+Event(イベント)+Drama(ドラマ)の頭文字をとって”L+E+D”。
なんかTEDと響きがかぶっているし、スポンサーさんにプレゼンしてるとこのもじり話をすると盛り上がるし、なにせLED照明の発光ダイオードみたいで、ピカッと明るくなりそうで(笑)、文化を新しく照らすみたいな感じでいいんじゃないかと。本のL+E+Dをするわけだから、BOOK L+E+D。ブックレッドという新しいプロジェクトです。
そして『BOOK L+E+D』の企画書には以下の文言が足されました
このプロジェクトはテレビ局・出版社・広告代理店・プロダクションが共同で、
『現代最高の知性の持ち主=様々な分野の学者たち』の普段行っている
『講義=ある意味で現代の無形遺産』を、新しいタイプの知的エンターテインメントとして講義イベント化し、それを同時収録してドラマ化・書籍化します。
先号で見せた最初の企画書では“TBS教養講座”という冠がついたただのテレビ番組の企画書でした。それが出版社や広告代理店等と一緒に作り上げる真のメディアミックスプロジェクト『BOOK L+E+D』に深化したわけです。こうなったのが2010年くらい、今から4年前です。こうして僕は、いろんな代理店やスポンサーさんと会うたびにこの企画のプレゼンをするようになったのです。
しかし、そうなってもなかなか具体的な“形”にはなりませんでした。みなさん企画をおもしろがってくれるものの、いざやろう!となるとお金がかかりますし、なかなか進まないのです。
僕はどうしてだろう?と悔しがりました。
「なぜ自分のやりたいことがやれないのか?」
僕としては、ただぼーっと月日を過ごしたわけではないのです。企画を何度もブラッシュアップしましたし、実際かなりの数のスポンサーさんにも会ったつもりです。こんなに努力しているのに、「他の人がなぜこの企画を受け入れてくれないのか?」僕には忸怩たる思いがありました。「やってみたら、絶対おもしろいのに」こうしてさらに3年あまりの月日が流れました。
そして去年の3月13日、九頭龍神社の参拝で知り合った広告代理店のKさんに、この企画を話しました。メルマ旬報第39号でも書きましたが、参拝で出会ったということは夢をかなえたいもの同士の会話です。「おもしろいです!これ“形”にしましょう。」彼は即答してくれました。
彼は出版局の人間で、早速自分が担当する懇意の出版社の方を紹介してくれました。そうしてこの企画に賛同してくれたのが、スティーブン・R・コヴィーの書いた世界的ベストセラー『7つの習慣』を出版しているフランクリン・コヴィー・ジャパン。昨年夏に新しく完訳本を出版することを予定していて、映像等を交えた新たなPR方法をちょうど模索していたところでした。彼らの前でこの企画をプレゼンすることになりました。
でも僕はこの話を聞いて最初は不安に思ったのです。『7つの習慣』は人生哲学の本だ。この『BOOK L+E+D』は本来なら、聞いていると難しく聞こえてしまうような自然科学や人文科学のお固い学問の講義の方がおもしろいのではないか? でも実際にフランクリン・コヴィー・ジャパンの方々とお会いすると、僕のプレゼンを聞くやいなや「やりましょう!」と即決してくれました。その心意気に“意気”を感じました。『7つの習慣』はかなり分厚い本で主に男性やビジネスマンが読者層で、女性にも若い人にも気軽に手に取ってもらいたい!という思いがあることがわかりました。そこで女子大で講義をするのはよいのではないか?それをテレビで放送するのには意義があるのではないか?そう思って話を進めて行くうちに、まずは挑戦してみようと僕の気持ちも固まりました。
こうして実際に制作を開始です。まず放送枠はBS−TBSで確保しました。地上波だと視聴率で企画のやるやらないが決定されますが、BSはスポンサーが入れば比較的自由に枠を確保出来るわけです。次に教授を誰に演じてもらうか?です。女性に人気があって、長ゼリフが大量にある教授役を演じることができて、さらに舞台上で質問が飛んできても生で臨機応変に対応できる方、みんなで相談して谷原章介さんが適任だとなりました。“王様のブランチ”の先輩プロデューサーに谷原さんを紹介してもらうと、読書好きの谷原さんです、本の講義を舞台上でするという新しいチャレンジを「おもしろい!」と快諾してくれました。
さらに話がどんどん進み、助手役で本仮屋ユイカさん、出水麻衣アナ、杉山真也アナ、学生役でブランチのレポーター4名の出演も決まりました。そして開催場所です。各大学をまわって企画を説明すると、聖心女子大学が場所提供を認めてくれました。実は聖心女子大学は今までテレビカメラが学内に入ったことはほとんどありません。しかし担当者の方がこの企画のおもしろさを理解してくれたのと、『7つの習慣』のファンで以前から学生たちに知ってもらいたいと思っていたのが許可をいただけた理由でした。
この企画のためには、それを制作する監督、さらに役者さんに講義を演じてもらうための脚本が必要です。今までにない種の企画なので、それを形にするのに他の人に作ってもらうのが困難で、必然的にその監督と脚本も自分がやることになりました。
でも実際に作業を始めるとその本の内容をわかりやすく講義するのを脚本化するのはかなり難しく、正直最初は苦しみました。ところが実際に『7つの習慣』は世界各地でセミナーが開催されています。脚本を作るためにはまずは僕がそのセミナーを受けてみればよいのです。実際受けてみてその内容のすばらしさとおもしろさが理解でき、さらにちょうどその頃僕は江戸川大学でマスコミ学科の授業を受け持っていたのですが、その学生さんたちの前で僕が実際に講義を演じてみて、学生にウケたところをピックアップし、うまく伝わらないところを修正して脚本を完成させました。
そして谷原章介さんにも『7つの習慣』の実際のセミナーを受けてもらい、何回かリハーサルをして勘所をつかんでもらい、演出も固まって行きました。この企画はドラマや演劇と違い台詞は固まっていません。教授としての役になりきって、途中でノートを見返してもいいわけですし、自由に発言しても言いわけです。そのやり方に谷原さんも最初は戸惑いましたが、リハーサルを続けるうちに、逆に谷原さん独自の解釈も生まれたり、本番は多いに盛り上がり大成功でした。
こうして実際に“形”になって、僕は気付いたことがあるのです。「今までなんでこの企画が“形”にならなかったのか?」がわかった気がしました。それは、「他人がこの企画を受け入れてくれなかったから」なのではなく、「僕の方にそれを“形”にするだけの準備ができていなかったから」なのではないでしょうか。
どういうことかというと、
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