BC5「オトナの!はなし」
[水道橋博士のメルマ旬報 vol.84 2016年4月25日発行「オトナの!キャスティング日誌」より一部改定]
いとうせいこう・ユースケ・サンタマリアMCの僕がプロデュースするTBS深夜番組『オトナの!』ですが、2016年6月に終了します。観ていただいた皆様、本当にありがとうございます。大好きな方、憧れの方、天才の方々90組以上の、半端ない豪華な方々に出演していただいて番組は閉じます。
2016年5月23日にゼップダイバーシティで開催する『オトナの!フェス2016』は、なので最後のフェスです。高橋幸宏さん率いるMETAFIVEと、そして5月29日発表の、もうこのメルマでは言っちゃいたいくらいのこれまた半端ないゲストの方の出演が決定しております。水道橋博士も来てくれるとおっしゃってました!もしよろしければぜひいらっしゃってください!きっと奇跡の一夜になると思います。
2012年1月から4年半。半年から1年で終わる深夜番組が多い中、『オトナの!』はよく続いたとも思います。一般的に言って深夜番組がなぜそんなに長く続かないか?
それは、クールごとにスポンサーを変えて売って行きたいというテレビ局側の事情があるからです。でもそれは結構な売り手市場というか、次から次へとその枠を買いたいというスポンサーがいることを前提にしたイケイケ状態の話です。このスポンサーでこのクールをやって、次のクールはまた違うスポンサーで!っていうやり方は、いわゆる焼畑農業ですね。でもそればかり続けていると、次に燃やす森林(スポンサー)があるときには良いかもしれませんが、だんだん森林が枯渇してきたらどうするのでしょう?
そしてその枯渇の状態が、近年の広告不況なのです。今の日本経済の状況から見て、そんな焼畑農業を続けていってよいのでしょうか?僕がまさに4年半前に『オトナの!』を作ったのは、“焼畑農業”ではない、テレビ番組で新しい“育てる農業”をやりたかったからなのです。広告のお金をただいただくのではない、新たなビジネスチャンスを生む、テレビの新しい使い方を示したかったのです。
それが僕が実験的に『オトナの!』でやってきた“0次利用”です。番組の1次利用とは、放送時にCMを流す際のスポンサーさんの広告費をいただく通常の視聴率主体の収益モデル。2次利用が、放送後にDVDや関連グッズ、オンデマンドや海外番販等での売り上げ主体の収益モデル。そして僕が提唱する“0次利用”とは、それ以前に番組を成立させる時点で、今後様々な展開を生むであろう企画をスポンサーさんと一緒に“0から生み出そう”という、収益モデルなのです。
例えば昨年秋に『オトナの!特別編』として武井壮さんにご出演していただいて『オトナの!学校』という、講義イベントとテレビ収録をあるクライアントさんと共同で専修大学で開催したのでした。その模様は現在YouTubeにアップしていますが、40万PVになり、現在もどんどん見た方々から、絶賛の声をいただく、かなり有意義な素晴らしい武井さんの講義です。一度ごらんになってみてください。
そんな今大人気の“百獣の王”武井さんは、実はなかなか講義イベントには出演しないそうです。なのでもしクライアントさんが独自にイベントを開催しても、武井さんの講義を開催することは難しかったかもしれません。しかし番組ならば、武井さんはご出演してくださいました。そのために僕らスタッフと何回もミーティングして、武井さんの伝えたいことが、伝わるような構成を相談させていただいて、とっておきの話をしてくださったのです。これが、僕の考える、これからのテレビの使い方なんだと思うのです。すごい嫌な言い方をすれば、今までのテレビのシステムは、「お金ください。お金くれたらくれた分だけCM流します。そしてそのCMがなるたけ見られるように、視聴率を取るようにがんばります!」って、そんな感じの(上から目線の)ビジネスなのです。そうではなくて“0次利用”というのは、例えばあるクライアントさんが、新たなビジネスを始めるときに、テレビを使うことで、テレビでのPR効果はありつつ、そのビジネスのコンテンツクオリティを高めるためにテレビを使っちゃおう!って話なのです。
またあるいは、こんな使い方もできます。ある企業が新規ビジネスを始めようとすると、通常はその新規部所を作ったり、子会社を立ち上げます。でもその新規ビジネスが上手くいくかなんて、わかりません。当然そのリスクに躊躇しがちでしょう。でもその際、僕はその新規ビジネスを、いっそのことテレビ番組の企画として、“仮に”始めちゃえばいいんだと思うのです。例えばかなり変わった味の、例えば“あんこ入りラーメン”を売りにする新規のラーメン屋を作るとすると、その味に自信があっても通常はそれをビジネスにするのはかなり勇気がいります。なのでいっそのこと番組内の企画として『あんこ入りラーメン屋』を始めてみればいいのです。当然番組なので、PR効果も期待できますし、なによりタレントさんをその事業に(グルメロケ企画や、どれだけ売れるのかみたいなチャレンジ企画と称して)コミットすることができるのです。そしてもし上手くいけば、それを本格的に事業化しても良いですし、失敗したら、あくまでテレビの1企画として、終了すれば良いのです。・・・どうですか?これって、ただ新規ビジネスを始めるより、テレビ番組と一緒に組むと、かなり両者にとってメリットがあるのではないでしょうか?
そんな思いで始めた『オトナの!』ですが、そのビジネスモデルが、組織改編に伴い継続が困難になりました。中身的にNGで終わるならそれは仕方のないことですが、組織改編で終わるという、極めて日本的な組織の論理に辟易しますし、僕がオトナの!で提唱した放送の"0次利用"というのは、多分これからの放送ビジネスの未来を担う考え方だと思うのですが、それもほぼ理解されないまま終了するというところが、まあ大企業病的でもあります。
でもですね、僕はTBSを愛してますし、この0次利用は、リアルイベントとテレビとネットと書籍等を一緒に進める、“バラエティプロデュース”として、僕の中ではさらなるビジネスモデルとして進化を遂げています。そして多分世の中はこの方向に進んでいくのは、間違いありません。
なので『オトナの!』は残念ながら終了してしまいますが、僕は今後ともバラエティにいろいろやっていこうと、テレビをはじめ書籍、イベント、映画、演劇、アート、ビジネスモデル、まさにいろいろ産み出していこうと思っております。皆様、今後にぜひご期待くださいませ!