When this wonderful war is ended,〈想稿〉
この素晴らしい戦争が終わる時、この世界はどうなるのだろう?
人はいつしかこの戦争を、すばらしい戦争《wonderful war》と呼ぶようになった。
この戦争はいつ始まったのかよくわからない。というかいつの間にかはじまったと言われている。
なので、戦争が無いということを、人は想像できない。
この世に無いものは、誰もが想像できないからだ。
でも、この戦争の前にも、戦争があったと言われている。
それは、感謝の戦争《Grateful War》と呼ばれていた。
そんな戦争がずーっと続いていた世界で、ある日突然、今日から3ヶ月後に《すばらしい戦争》が終わると突然の終戦協定が宣言されたのだ。
人はそのことをテレビのニュースで今日知った。
空には轟音が響く。
危ない角度で敵の爆撃機が街の防空域に突っ込んでくる。
でもその轟音と光景に日常を感じてしまっている、街のヒトたちには、そんな日常が無くなるとは到底思えなかった。
もし、爆撃機が突っ込んで来なかったのなら、街を守ってるたくさんの兵隊さんたちは、何をこれから守るのだろう?
守るべきモノが無いのならば、兵隊さんたちは守る必要もない。
すなわち兵隊さんたちは、この街にいる意味が無いのだ。
守り疲れた兵隊さんたちが、この街にやってきて、しばし疲れを癒す。
街の住民たちは、兵隊さんたちに最高の癒しを提供する。
そうすることで、この街の住民たちは、兵隊さんたちのお金で、むしろ癒されるのだ。
というか、そのお金で、生きていけるのだ。
でも、3ヶ月後に、《素晴らしい戦争》が終わるらしい。
戦争が終わったら、誰をわたしは癒すのだろう?
誰も癒せない。
誰も癒す必要が無い。
つまり、わたしも癒されない。
わたしに癒しを施してくれる人は、誰もいなくなってしまう。
だとしたらどうやって生きるのだろう?
そんなことは、この街の住民は誰も知らない。
だって生まれる前から戦争は続いているのだから。
この街ができる前から、戦争は続いていたのらしいから。