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『船、山にのぼる』:本田孝義監督/2008

『船、山にのぼる』ですが、この奇妙な映画のタイトル、実は、まんま、なのです。
船を、山にのぼらせる12年間のプロジェクトの、ドキュメンタリー映画なのです。
広島のある地方で、ダムが作られ、その湖底に沈む村があり、そこに伐採される木材で、船を作り、ダムが完成して、水を一旦満水にする時、山の高さまで持ち上げられ、通常の水位に戻った時、山に船を鎮座まさせちゃうって、構想なのです。
ね、その構想聞くと、めちゃめちゃおもしろそうでしょ。で、引っ掛かっていたのです。
観たら、すごくよかったです。12年間も、ひとつのプロジェクトをやり続ける努力。それって、ただ物理的な努力だけでなく、やっぱりテンションとか、気持ちとか、さらに、これが一番、嫌で、大変で、難しいことですが、お金とか。その努力に敬意を表したいです。
で、それをドキュメンタリーとして、ずーっとカメラ回してる、本田孝義監督の努力。
その努力の時間が素晴らしいと思います。そして、そのダムに沈む集落の皆さんの明るさ。代表の方がおっしゃってましたが
「権力が、ダムを造ると決定したらもはやなかなか抗うことは難しい。ならばそのダム建造プロジェクトに明るく前向きに向き合おう!」
って心意気。その気持ちの「前向きさ」がこの映画の清清しい「気持ちよさ」に表れてるんだと思いました。
ダム建造って、山を切り開いて、村を潰して、川を広げる。
要するに古いモノを壊して新しいモノを作る作業なだけだと思ってたのですが、実は引越しだったのです。
ダムに沈む場所にある様々なモノを引越しさせる。
古いモノを新しい場所に移す。
映画に出てくる、その村にあった樹齢何百年の樹を新しくできた集落に移植する作業。すごく、神々しかったです。
樹だけでなく、そこに宿っていた気持ちまで移植する。
その『移ろい』の象徴が、船が山まで『移ろう』ことで、結実されてるんだなあって実感しました。
『船頭多くして船山に登る』ってことわざ、ネガティブなことわざですが、この『引越し』と『船、山にのぼる』ってプロジェクト、まさにたくさんの船頭がいたから成功したんだと、船が山に登ったんだと。
うーん、おもしろい!!
でも、そういう『おもしろい』プロジェクト何年もかけてゆっくりやり続けるってことが、僕にはとてもうらやましかったです、いろいろ大変なことがあるってことは想像できつつもですが。
僕らは日々ものすごい速さで流されてるから。その流れが速すぎて方向に迷って先が見えないくらい。
映画の中では、彼らの船は、ゆっくりゆっくり山にのぼっていきました。

【2008年06月15日(日)記載】

http://www.fune-yama.com/




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