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「TRANSFORMED」を読もう

シリコンバレープロダクトグループシリーズの4作目「TRANSFORMED」を拝読しました。
ちょうど私の仕事でも取り組んでいるテーマであったためとても参考になる一冊でした。

自分自身の理解の定着のために、本書の一部をごく簡単にまとめてみたいとおもいます。同じような問題に取り組む方の参考となれば幸いです。興味を持っていただいた方はぜひご一読ください



本書要約

自社をプロダクト・オペレーティング・モデルへ移行させようとしている人に向けて、その概念について必要な知識と、基礎を説明する。
イノベーションの事例、トランスフォーメーションの過程で想定される反対意見へのアプローチも詳しく示されている

プロダクトモデルの概念

プロダクト・オペレーション・モデル(以後プロダクトモデル)は優れたプロダクト企業が一貫して実践している第一級原則のもとに成り立つ概念的なモデルである。
顧客に愛され、かつビジネスに有効な、テクノロジーパワードなソリューションを継続的に生み出す。
プロダクトモデルとは対照的な、旧来のモデルには次のようなものがある。

  • ITモデル
    ITはビジネス部門に奉仕するためにあるという考え方。プロダクトへの要求が出る際に「ビジネス側」という言葉がよく用いられる

  • プロジェクトモデル:
    CFOが大きな影響力をもち、プロダクトではなくプロジェクトに対して予算配分と人員配置が行われる

  • 機能開発チームモデル:
    多岐にわたるステークホルダーに主導権があり、それぞれが自分たちの機能ロードマップを推進する

トランスフォーメーションの定義

トランスフォーメーションは「実際に何を変えるのか」を見ていく方が有益である。プロダクトモデルは「作り方」、「問題解決の方法」、そして「とくべき問題の決定方法」を変える。

作り方を変える

信頼できるサービスを提供するためには頻繁で小さなリリースを継続的に行うことが必要になる。利用するテクノロジーは計測可能にし、できれば顧客よりも先に問題を発見できるようにする必要もある。

問題解決の方法を変える

ステークホルダー主導でロードマップが与えられる機能開発チームから、解くべき問題が与えられたエンパワーされたプロダクトチームに移行する。
チームはプロダクトディスカバリーを行い価値、ユーザビリティ、実現可能性、事業実現性のあるソリューションを考え出す

解くべき問題の決定方法を変える

解くべき問題の決定をステークホルダーに委ねるのではなく、プロダクトリーダーシップが行う。人を惹きつけるプロダクトビジョンとインサイトに基づいたプロダクト戦略を定め、そこからビジネス目標を達成するために解くべき最も重要な問題を導く。このためにプロダクトチームのメンバーにはコーチングと戦略的背景の提供が必要になる。

プロダクトモデルコンピテンシー

旧来のモデルでは、プロダクトチームはビジネスのニーズに応えるために存在している。しかしプロダクトモデルでは顧客とビジネスの難しい問題を解決するために存在する。
最良のソリューションを見つける責任と決定権、そして説明責任を持つコンピテンシーを備えた人材で構成される。

プロダクトマネージャー

「価値リスク」と「事業実現性リスク」に責任を持ち、プロダクトのアウトカム達成に全体的な説明責任を持つ。ユーザー、顧客、ビジネス、市場、競合環境、関連するテクノロジー、業界のトレンドを深く理解しており、主要な顧客や、主要なステークホルダーと信頼関係を構築できる強い人材である。
新しいプロダクトマネージャーがこれを満たすには有能なマネージャーのコーチングが必要である。

プロダクトデザイナー

「ユーザービリティリスク」、全体観的な顧客体験やユーザーや顧客がプロダクトの価値をどのように体験するかに責任を持つ。インタラクションデザインの知識とスキルを備えている。効果的なソリューションのディスカバリーを手助けし、チームが解決しようとしている問題について、また潜在的なソリューションについてユーザーや顧客がどのように考えているのか理解するように訓練されている。

テックリード

「実現可能性リスク」に責任をもつ、チームで最もシニアレベルのプレイヤーであるエンジニア。エンジニアリングマネージャーではない。ディスカバリーに関与し最も効果的なソリューションはなにかを決定することに取り組み、それを実装する。
単にプロダクトマネージャーとプロダクトデザイナーが考えたソリューションを実装するために存在するのではない。
イノベーションはこのようにエンパワーされたエンジニアに絶対的に依存する

プロダクトリーダー

プロダクトマネジメント領域、プロダクトデザイン領域、エンジニアリング領域のマネージャー。採用、オンボード、コーチングそして育成する責任を負う。
また、魅力的なプロダクトビジョン、プロダクト戦略、チームトポロジーを作り上げ解くべき重要な問題と達成すべきビジネスアウトカムを定義する。
変革を成功させるためプロダクト組織と会社全体を確実に一致させる。

プロダクトモデルコンセプト

チームを解くべき問題でエンパワーする

プロダクトモデルコンセプトの中で最も基礎的なものはエンパワーされた職能横断型のプロダクトチームである。チームは解くべき問題が割り当てられてエンパワーされる。機能リストや構築すべきプロジェクトではない。

アウトプットよりもアウトカム

新たに提供するソリューションが既存のものよりも良い形で問題を解決していると、顧客に信じてもらい。実際のビジネスの成果につながらない限りは失敗である。プロダクトチームは顧客、ビジネスのため存在している。

オーナーシップ意識

問題に対するソリューションを考え出すことと、それを構築して提供することの両方に責任を持つ。この二つ責任を二つの異なるチームに分割してはいけない。

コラボレーション

コラボレーションとは、プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、そしてエンジニアが協力して、すべての制約を解決するソリューションを考え出すことである。それぞれの専門分野に熟練した人たちから起こる魔法。プロトタイプを囲んだり、おなじものを見ながら、3者がそれぞれ新たな可能性を指摘し影響について意見を述べ、いくつかのアプローチの探求の後にすべての関心ごとに真に応える一つの方法に共に辿り着く。
ウォーターフォールの中間成果物によって要求やタスクを連携していくことや、合議や投票で意思決定するような民主主義はコラボレーションではない

プロダクト戦略

プロダクト戦略は、プロダクトビジョンを実現するための道筋になる。
最良の機会の選択と最も深刻な脅威を決定するためには焦点を絞る必要がある。
多くの目標を追い求めてはいけない。

このためには、重要なインサイトを特定する現実的なスキルが必要になる。主要な情報源となるデータ、VoC、新たな実現技術、そしてより広範な競争環境から得たインサイトを集約し分析するのはプロダクトリーダーの責任である。

プロダクトリーダーはプロダクト戦略を実行するために、社内のステークホルダーに賛同を得る必要がある。これには常に透明性を保ち、努力することが求められる

プロダクト文化

コントロールよりも信頼

コマンド&コントロールのモデルからプロダクトモデルへの移行は、根本的な文化の変化である。
プロダクトモデルではコントロールよりも信頼が重視される。
プロダクトチームに解くべき問題を与えエンパワーし、最良のソリューションを考え出す責任を持たせることが必要だ。
これは直接手を出すマイクロマネジメントから積極的なコーチングを伴う奉仕型のリーダーシップへの移行を意味する。
コントロールではなくコンテキストをもとにチームをリードする。

トランスフォーメーション成功への10ヶ条

プロダクトモデルへのトランスフォーメーションの成功の可能性を高めるために最も重要であると考える10の事項

  1. CEOの積極的な支援
    トランスフォーメーションの影響はプロダクト組織を超えるものになる。CEOの積極的な支援がないとこれを成功させることは難しい

  2. テクノロジーの役割を変える
    トランスフォーメーションによってテクノロジーは「必要なコスト」ではなく、ビジネスの中核を成り立たせる存在に変わる

  3. 強力なプロダクトリーダー
    プロダクトマネジメント、プロダクトデザイン、エンジニアリングをリードし、広範な責任をもち、説明責任を果たすことができる経験豊富なリーダーが必要。

  4. 真のプロダクトマネージャー
    旧来の機能開発チームの「プロダクトマネージャー」ではない、真のプロダクトマネージャー。将来、会社のリーダーになる可能性があると信じられているくらいに有能でステークホルダーと真のパートナーシップを構築できる。

  5. プロフェッショナルなプロダクトデザイナー
    顧客に愛される顧客体験を作り上げるスキルを持ち、中心的な役割を果たす。

  6. エンパワーされたエンジニア
    プロダクトチームの前面かつ中心で、最も困難な問題のソリューションを考え、継続的なイノベーションの原動力となる。

  7. インサイトに基づくプロダクト戦略
    定量的・定性的なインサイトに基づく効果的なプロダクト戦略は従業員の才能を活かし、テクノロジー投資から最大限利益を引き出す鍵となる。

  8. ステークホルダーとのコラボレーション
    トランスフォーメーションはテクノロジーチームがビジネスに対して従属モデルから協調モデルへの移行することである。したがって、テクノロジーチームをコントロールする権限を失うことを懸念する人もいる。変革を進めるためには準備の整った有能なプロダクトマネジャーをチームに配置し、ステークホルダーを支援させる。これには、経営レベルのリーダーからの積極的なサポートが必要になる

  9. アウトカムの継続的エバンジェリズム
    プロダクトビジョン、プロダクト戦略、アウトカムに焦点を移すことの重要性、そしてプロダクトモデルへの広範なトランスフォーメーションを啓蒙すること。真にビジネス成果を達成することの意味を会社全体が理解できるようにすることが必要。

  10. 企業の勇気
    根本的に異なるモデルへの移行は、本当の意味での飛躍であり、この実現には経営幹部や経営レベルのリーダーの勇気が必要である。会社を単に生き残らせるのではなく、繁栄させるために必要なことをする意欲が求められる。


所感・一読のすすめ

ここまで紹介した内容はごく一部のものです。
本書は、旧来のモデルに課題や限界を感じ、プロダクトモデルへの移行を進めたいプロダクト組織の方に必要な知識と気づきを与え、また同時に厳格な現実を示し、覚悟をせまるようなメッセージに溢れています。

ここからは、私自身の個人的な所感を簡単にまとめたものになります。
おまけ程度のものですが、興味のある方はご覧ください。

この「プロダクトモデル」の基本的な概念や考え方、価値観は、すでにプロダクトマネジメント、リーン、アジャイルといった先進的なプロダクト企業から生まれた取り組みや思想を学んでいる方にとっては、馴染み深いものであり、目新しいものではないかもしれません。

しかし、トランスフォーメーションとは変革を意味し、多くの人々に影響を及ぼすため、当然ながらこれを快く思わない人も少なくありません。

私自身を含め、多くのプロダクト組織に属する人々が、この「プロダクトモデル」への変革に対して、ある種の憧れに近いポジティブな期待を抱いています。しかし、実際にそれを実現し、ビジネスの成果を生み出し、プロダクト組織以外のステークホルダーからも信頼を勝ち得た人は、世界的に見てもごく一部に限られるのではないでしょうか。

本書でも強調されていたのは、「スキル」「専門性」「責任」「コンピテンシー」「透明性」「信頼」といった言葉です。たとえ知識やスキルを身につけたとしても、実績のない人材がこれらを一朝一夕に得ることは現実的ではありません。トランスフォーメーションの事例や、有能なプロダクトコーチのストーリーを読むと、自分も同じようにそれを担えるのかと自問し、まだまだ道半ばであることに気付かされます。

また、組織内で責任ある立場にある管理職ほど、知らず知らずのうちにチームをエンパワメントするのではなく、逆にディスエンパワメントしてしまう力が働いてしまうことにも注意を払う必要があります。プロダクトチームに持たせるべき責任の一端を「善意」によって別の人が引き受けてしまい、それがその人の存在価値のようになってしまうケースは多く見られます。(例:「チームは忙しいから、〇〇は私たちがやります」など。)旧来のコマンド&コントロールモデルや予測可能性を重視する考え方は、それで評価を受けてきた人や、実際に実装やデリバリーを担当しない“管理職”にとっては、ある種の安心感をもたらすものです。しかし、自らの手元にあったハンドルを手放すことは、傲慢さを捨て、これまでの学習を棄却する必要があります。
管理職やリーダーはこれまで以上に、チームに必要な情報とコンテキストを伝え、コーチングをするという新しい技術を身につけなければなりません。

いずれにしても、プロダクトモデルへの移行を目指すのであれば、相応の覚悟と卓越した能力を備えることが大前提であると本書では繰り返し述べられています。「メンバーのやる気がないから」「上の理解がないから」といったように、他者が変わることを期待しているだけでは、トランスフォーメーションは実現しません。

まずは、自分にできること、すべきことを確実に実施し、能力と信頼を積み上げていくこと。そして、旧来のモデルにチームを引き戻してしまうような行動やプロセス(例:プロジェクトや欲しい機能リストだけをチームに渡す、報告のみを求める、など)が入り込まないよう注意して防ぐことから始めるのがよいのではないでしょうか。

おしまい


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