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プランニングをしたいひと できるひと 元舞台照明家PMのはなし

プロダクトマネジメントの仕事をしているとよくこんな声を聞きます

  • 「私決める人、あなた作る人」から抜け出したい

  • 自分には決定権がない。だれかのアイディアを実行するプロジェクトマネジメントばかりやっている

  • Howを指示されるばかり、問題を解くために何を作るのかは自分たちで決めたい

これは大きな組織でたくさんのステークホルダーがいるなかでプロダクト開発を行うチームや自分でよいプロダクトを創りたいという熱意がある人なら誰もがぶつかる壁です

私もこれまでこのように感じたことは幾度もあるし、気持ちはわかります

ただ、このような悩みは別にプロダクトマネジメントに限らず、集団で一つのものを創り上げる際にはよくある話でもあります。

本日はそんな壁を感じている方に向けて、私の最初のキャリアである
舞台照明の仕事の経験からどのようにこの悩みと向き合うとよいかをまとめてみます


プランニングは独りではできない

舞台照明にもどのような作品に対して、どのような明かりを作るのか、またそれをどのように実現させるのか?という「プランニング」と呼ばれるものがあります。

実際の仕込み図を描いたり、どのシーンでどのような明かりをつくるのか?これを決めるのは照明係の責任であり役割ではありますがこれを決めるために必要な情報、考慮されるべき情報はその舞台を構成するすべての関係者から収集されるものです

スポンサー、舞台監督、アーティスト、パフォーマー、舞台、映像、音響、施設管理者そしてそのショーを楽しみに訪れるお客様

それぞれの期待、希望、制約事項、都合、そしてなにを「美しい」「Cool」と感じるかという感性など、さまざまな要素が絡み、ときに矛盾を孕むものを統合した結果がプランニングという形になります

あなたにプロダクトマネージャーやプランナーという肩書きが与えられていたとしても、これは変わりません

あなたが万物すべてを知っていて、創り上げるもの、そのためのコストやリスクすべてに責任を負う立場でない限り、他のひとの「こうありたい」を無視することはできません

あなたはユーザーではない

I am not user あなたはユーザーではありません
ユーザーに欲しいものを聞いてそのまま作るだけなら、価値はありません
同じように、それがユーザーでなくても他の誰かでも思いつくことしか思いつかなければあなたが何かを考える必要もありません。

舞台照明の仕事では公演の主催側と照明のプランについて打ち合わせをします。
幼稚園のお遊戯会なんかでは先生がプランを考えてきたりします。

子供の顔も見せたいけど照明も派手に・・みたいな無理のある要望もあったりなかったり


「このシーンはこうで、可愛い感じでピンク色で!」


なんて要望を受けます。
ここでその通りピンク色の灯りを作ることは簡単です。
注文をうけつけてその通りのものを提供するウェイター的な仕事ならばこれで良いかもしれません

ですが、現実はどうかというと、ここでステージに上がる子供たちもピンク色の衣装を身に纏って出てきて、まったく映えないステージになってしまう結果が待っていたりするものです。
さらに困ったことに、バラ組さんのピンク色のステージの後、スミレ組さんの先生からも「可愛くピンク色で!」と要望してきたりします。

何色がいいか?を聞くのではなく、どんなステージにしたいか?を理解しなければプランはできません。
また、幼稚園児の「可愛い」ステージ照明と想像したときに、あなたが
「じゃあピンク色かな?」
くらいしか思いつかないようであれば大したプランはできないでしょう。

どれだけ引き出しがあるか?

プロダクトマネジメントでもステークホルダーからいろいろな要望、アイディア、プランと言われるものが寄せられます。
多様な組織ほど、それは玉石混合になりやすいことは事実です。
その真意を理解して、正しく評価ができるようになるには知見や感性、経験が必要になります。

あなたの考えた珠玉のアイディアも、どこかで聞いたことのあるような凡庸なものであればもしかしたら考えが足りないところがあるのかもしれません。

エゴと期待役割を理解すること

自信がついてくると、誰もが自分なりの型や好みが生まれてくるものです。
「こういう場合はこんな照明のほうがいい」
「こっちのほうがいいんじゃないですか」
誰かの描いたプランに口を挟みたくなります

これは、実際正しい可能性もありますが、エゴを孕んでいることを自覚したほうが良いでしょう

いつでも唯一の正解などはないですし、悲しいかな無知であるほど自分が有能であると誤解して、軽率にこのような口を聞いてしまうものです。

「うん。意見はわかったけど今日のプランナーは君じゃないから」
「君は今日は兵隊として動いてほしい」
「君がいいと思うものが、この作品や演者にもいいとは限らないよね」

これは若い時分に私が師匠に言われた言葉です。

プロダクトマネージャーは、プロダクトに責任を持つといいますが、期待役割は状況によって様々です。
ディスカバリーでなくデリバリーにフォーカスしてほしいと思われているかもしれませんし、戦略ではなく、戦術レベルを任されているのかも知れません。

第一線の指揮官に任命された将軍が、踵を返して軍師の集う本陣に戻ってこられても部隊は混乱します。

現実として職名のもつイメージと実際の期待役割が一致しないことは珍しいことではありません。
客観的な自己の能力の評価と、期待されていること。組織のおかれている状況を理解することが大切です。

そして大抵の場合、大きな意思決定に関与するような役割は、組織から信頼を勝ち得た後からついてくるものです。

まとめ

クリエイティブなアイディアとそれを実現するためのエンジニアリングは一朝一夕で身に付くものではありません。
そこにビジネス上の予算、時間、リソースなどの制約や安全基準などの要素も加わる場合にはさらに複雑なものになり、その難易度はなかなか伝わりにくいものです。
「自分ができるはず」
と思っていることが、実際どこまでをカバーできているのか?というところは良いプロダクト、作品に触れ、経験を重ねて、それが自分以外の人たちのどのような努力によって創り上げられているか気づくことで、はじめて客観的に評価できるようになります

限られた時間、空間、機材の中で多様な職種が集い作品を作り上げて、観客を感動させる舞台芸術の世界はプロダクトマネジメントに関わる人にも共通するところが多く、参考になると思います

ぜひ、次の週末にはなにか舞台を見に行ってその裏のスタッフたちの試行錯誤を想像してみてください

おしまい

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