世にも奇妙な新潟県

次は新潟か…
実は以前、一度新潟に訪れたことがある。

母校の修学旅行は毎年恒例北海道。北の大地に胸躍らせていたのに、学年主任が飛行機に乗れないという謎の理由で新潟行きになってしまったという経緯があり、あまり良い印象がない。

『新潟といえば』

お得意のGoogle検索もいつもより雑になる。どうせ雪しかないんだろう。

米!酒!角栄!

いや角栄に興味はない。でも米はなかなか魅力的じゃないか。明太子の街福岡の横に新潟が引っ越せば大ヒット間違いなし。二県民の平均体重が5キロはアップするだろう。

でもまあ所詮米。おかずの脇役腹膨れ要員だ。
あまり期待せずに惰性で観光して次の県へ向かおっと。そんなことを考えながら新潟駅に降り立って私は目を疑った。

全員タンクトップだ。

老若男女問わず白タンクトップ。なんで?
この空間にいると段々普通に服を着ていることが恥ずかしくなってきた。

「あの…」
私はマダムに声をかけた。

「あら、旅の方?良いのよ、良いのよ」
なにが?

「なぜ皆さんタンクトップなんでしょうか?」
「良いのよ、大丈夫。良いのよ」

こわい、会話が成立しない。

「おにぎり、食べるでしょう?」
「あ、いただきます」
つい反射的に返事をしてしまった。というか、マダムの目を見ているとなぜか、「いただきます」以外の言葉が出てこなかった。

「じゃあ、脱ぎなさい」
極寒の中何故か私までタンクトップに。寒い通り越してもはや痛い。そりゃそうだ。豪雪だもの

何故タンクトップにされたのかを聞きたくても、歯がガチガチと鳴るだけで言葉が出てこない。

私をタンクトップ姿にしたマダムはバッグからおもむろにおひつを取り出した。そんなの入るスペースがどこにあったんだ。

マダムがおひつをあける。こんなに寒い中にも関わらず、炊き立てのように湯気のたつ米。もうこのおひつ、NASAの極秘技術とかを使っているに違いない。

いつの間にかマダムの手には水と塩が付いていて、手際良くおにぎりを握ってくれる。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

ほっかほかのおにぎりを頬張った瞬間、私の頭を世界の真理が駆け巡った。

言い表せない幸福感。一粒一粒にプライドが宿り、噛み締めるほどに甘みを増す米。糖質により上昇する体温。新潟の米の前では雪すらも無力で、私の肌に触れる前に私の熱で溶けてゆく。

これが、米。新潟の米。

「良いのよ、わかったでしょう?良いのよ」
「ええ、ええ」

先ほどまで成り立たなかった会話が成り立つ。
良いんだ。これで良いんだ。

そして私はマダムに別れを告げ、タンクトップのまま力強く歩き出す。

前からロングコートに身を包んだ不安そうなお姉さんが歩いてくる。

「あの…」
お姉さんは助けを求めるように私に声をかける。

「良いのよ、良いの。おにぎり、食べる?」

私は戸惑うお姉さんの服を剥ぎ、そこに「ある」と確信して鞄を開けた。


先ほどまで桃しか入っていなかった鞄にはたしかに、ほかほかのおひつが入っていた。

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