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オオサンショウウオの旅

動物(昆虫以外)が好きだ。幼少期から犬や十姉妹、金魚などと一緒に暮らし、ムツゴロウさんのTV番組はかかさず見ていた。犬と共に働ける仕事ができればいいなぁと思っていたが、一番好きなものより、不器用な自分でも役に立てそうな仕事はないものかと迷走し、ここにたどり着いた。

それでも、いろいろな生きものの文章を書く機会に恵まれたのはラッキーだ。コウノトリ、カワセミ、フクロウ、アナグマ、オオサンショウウオ……。

さらっと書いたが、オオサンショウウオは国の特別天然記念物。人類よりずっと前の3000万年前から地球に棲む大先輩だ。骨格がほとんど変わっていなくて、生きている化石といわれる。何よりスゴイのがその大きさ。全長1m50㎝にもなる“世界最大”の両生類なのだ。カエルやイモリの仲間が1メートル超えですよ。すごくないですか? 朝来市生野町を水源とする市川だけでも1500匹以上も個体登録されている。観光関係者の方々、もっと声を大にしてアピールした方がいいですよ!

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オオサンショウウオを初めて間近で見たのは豊岡市の「城崎マリンワールド」、10年以上前だったと思う。国内最大級の個体で、円山川水槽のぬしという風格。現在は4頭が暮らしている。同居の川魚がパクっといかれないかヒヤヒヤするが、給餌が十分なのかそんな姿は見たことはない。冷凍は苦手なので、魚をうまく動かして生きているように見せられるかが飼育スタッフの腕のみせどころ。給餌は1週間に1回(スゴイ省エネ!)なのでレアだが、岩のような生きものが岩の隙間にじーっとしているのを探すだけでも楽しめる。

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2009年には観光情報誌の取材で再会した。その名も「あんこうクッキー」。しるこサンド的なものではなく、この地方でオオサンショウウオを「あんこう」や「ハンザキ」とも呼ぶことから名付けられた。銀山のまちとして栄えた生野・口銀谷地区の観光拠点「いくのまちづくり工房井筒屋」や黒川温泉などで販売している。地元産の貴重な無農薬紅茶が練り込まれており、口に運ぶたびに優雅な気持ちになれる。しかも、このクッキー、見た目がかわいいだけじゃない。よく見ると前足の指は4本、後ろ足の指は5本とリアリティも追求されている。茶葉を入れたのは見た目を本物に寄せるためでもある。

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2013年にはオオサンショウウオ研究の第一人者・栃本武良先生にお会いする機会を得た。当時、うちの会社は企画出版をやっていて、書店などに配布する販促ツール『星の本』のインタビューだ。そのなかで、あんこうグッズの指の本数についてアドバイスしたのが、栃本先生だったとわかった。

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栃本先生は姫路市立水族館の館長などを歴任され、朝来市生野町の廃校に「日本ハンザキ研究所」を創設。平成17年に退職された後は研究所に住み込んで生態調査を続けられていた。上流は3km、下流は1kmも民家がないような場所で、あたりが暗くなる20時から朝5時まで川の中を歩き続けるなんて相当な気力と体力が要りそうな仕事だ。夜の川が怖くないか、お化けに会わないかという、私のくだらない質問にもブロッケン現象のことなどをまじえながらユーモアたっぷりに話してくださった。

研究を始めたきっかけを
〈展示していると「何歳ですか」「何年生きるんですか」っていう質問が必ず出ます。(中略)「分からない」というのは残念ですよね。(中略)姫路から1時間のところに世界的にも貴重な生き物がいるのに、生態さえも分からない。それならば調べないといけないんじゃないかなというのが、そもそものきっかけですね〉と語っておられる。
その後、謎の多いオオサンショウウオのこと知りたい、守りたいという想いで40年以上にわたり研究を続けられた。

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当時の取材音声から文字を起こしたものが出てきたので読み返してみた。
幕末にシーボルトが持ち帰ったオオサンショウウオが51年生きたのが最長飼育記録という説明のあと、航空写真を見ながら語られている。

「左上の生野ダムから右側の黒川ダムまで10㎞の市川で、1555匹登録してんの。僕らが捕まえたのがこんだけだから、何倍もいるわけ。その中で30年以上追いかけているのが8匹。最長で35年10ヶ月というのがいるんですよ。あと16年追いかけるとシーボルトを抜くんですけど、そこまでは生きてらんないからね。残念だなぁとは思うんだけど。うちの副理事長はこの川のオオサンショウウオは戸籍がたくさんあるから色々な研究ができるっていうんで、鳥取から2時間かけて通ってくれて、僕の跡を継ぎますと言ってくれているんです。3代目はね、京大の大学院から広島の動物園に就職した子が今31歳くらいで、自分もやりたいと言ってくれてる。3代目まで続けば、シーボルトは抜けるなぁと思ってるんですけどね。とにかく人間の方が何代もかけて対抗しないと、かなわない生き物なんです」

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栃本先生は残念ながら2019年に鬼籍に入られたが、先生からバトンを受け取った方々が研究所を守られている。


当時の誌面を掲載しておきますので、興味のある方はご覧ください。
『星の本』第2号(2013年1月発行)

このブログを書いている今日は、梅雨前線が活発でよく雨が降っている。オオサンショウウオは雨の日の夜、あぜ道を歩いていることもあるらしい。
但馬の日常、おそるべし!

                            (あむ)


[紹介施設]

●城崎マリンワールド

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入口からすぐの円山川水槽でハンザキ研究所ゆかりのオオサンショウウオに会える。体重を体感できる仕掛けもおもしろい。
http://marineworld.hiyoriyama.co.jp/
〒669-6192兵庫県豊岡市瀬戸1090
TEL 0796-28-2300

●生野まちづくり工房井筒屋

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オオサンショウウオのグッズはマスクや手ぬぐい、ピンバッチなど30種類以上に増加。いずれも細部までこだわって作られている。とくに本物のサイズ感を体感できる抱き枕がおすすめ。黒川温泉・道の駅但馬のまほろば・道の駅フレッシュあさご(朝来SA)・道の駅あさご村おこしセンターにも販売コーナーあり。

http://sasayuri-net.jp/users/izutsu-ya/
〒679-3301 兵庫県朝来市生野町口銀谷640
TEL 079-679-4448

●日本ハンザキ研究所
https://www.hanzaki.net/
調査研究や保護活動の拠点施設。
研究所ニュースのバックナンバーなどを公式サイトから閲覧できる。
注意)現在、見学は受け付けていません。

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