冬に挑む
捨てられないもの
この連休で押し入れ下段の
何年も手付かずになっていた収納箱の中を整理した
整理?
そう、初めは確かに整理だった
スペースが全くなくなったので、要らないものは捨てようと
使っていないバッグだとか、ハンカチ、ポーチだとかを見つけては眺め
結局は捨てられないと、また元のところに戻したりしていた。
ところが、乱雑に束ねられた年賀状や手紙をぱらぱら見るうちに
「そうだ、あの手紙はどうしたっけ?」となり
いつの間にか部屋中、他部屋にも及ぶ大捜索になってしまった。
なくなった手紙
それは次男が高校受験のときに
滑り止めで受けた私立高校の校長先生から
直々に本人宛てに送られてきたものだ。
お金の心配は要らない、志望大学へは全力でサポートする
スカウトみたいな内容だった。
本人は公立以外は全く眼中になかったが、親の私はとてもうれしかった
校長先生自らというところが
直筆というところが
そりゃ、大学の授業料免除、特別給費奨学生決定通知のプリントなんかより
ずっとずっと気持ちがこもって、心強くありがたかった。
彼があまり大事に扱わないので、私がこっそり記念に取っておいた
それが、半日家を捜してもとうとう見つからなかったのだ
何ということだろう。
奨学金申請の推薦状
代わりに、大学受験費の領収書類がたくさん出てきた
センターで受けた私立は3校と思っていたが、何と5校も受けていた
どこも行かずに済んだが
入学金は2校も払った
薄給だった私が、ずいぶんと貢いだものだ
合格通知もしっかり保管していたんだ、私。
1浪で志望大学に入学して財団法人の給与奨学金をもらうために
高校の先生が書いてくれた推薦状のコピーも出てきた
「母子家庭のため予備校にも行かず、孤独に耐えて独学で……」
「孤独に耐えて」というところが、胸にじんと響いた
先生のほうが、私よりもよく見えていたのだ
受験の日、予備校講師の応援団が大学で生徒を待ち受けて激励する
そのそばを通って試験会場に入ったと聞いていた
完全にアウェーだ
孤独なのか、不安なのか
正月過ぎたこの時期に、一度だけ涙ぐんでいたことがあった
こたつの中に頭まですっぽり入って
その夜、ふっといなくなり
長男と2人でにわかに不安になり、近くを捜したことがあった
本人はそんなことは、とうに忘れているだろう
息のこもった推薦状のおかげもあり、月6万円を頂けて
大してバイトもしないで済んだから授業料免除も獲得できた
能力だけではない
努力だけでもない
頑張る人を引き上げてくれるたくさんの力があったからだ
それを忘れてはいけない
私も、彼も。
パンデミック下の冬
ここ何年かは
どこかで子育てが終了したように感じられて
親としての気概もすっかり失せてしまっていた。
でも、これらの過去の証が
私をねぎらい、そっと奮い立たせる
もう一頑張りだ
いつも自分のことだけで精いっぱいの彼らが
どんな人間になっていくのかを見届けなくては
大学進学は10年以上前で、今よりもがんがん働いていたとき
でも、あのときはあのときで充実していて幸せだった
頑張れば良くなる未来が、今よりもたくさんあった気がする。
東北の大震災も、原発事故も、新型コロナもまだなかった
この激動期に子どもを進学させるのはどんなに大変だろうか。
感染の不安だけではない
経済の不安や、連動するさまざまな禍が
子どもたちの未来にも容赦なく響いてくるだろう。
ここに来て、身を締め付けられるようなすこぶる寒い朝が続いている
感染がじわじわと拡大するなか
今年もセンター試験が始まる。
2022.1.10