(連載小説)「影の総理~官房長官の政治人生~」第4話「追及」(全5話)
谷岡に辞職を勧めてから1か月後、本来なら内閣総辞職の期限にかなり迫ってきており、花田も少しだけ自信と期待を持っていた。そして午前11時に行われる官房長官定例会見を行うために、花田は記者会見室の壇上で話していた。
「えぇ、先週行われました閣議にて、国民投票義務法案を今週にも今国会内で議論・採決・成立を目指すつもりでございます」
しばらくして午前の定例会見を終了して、しばらくしてから午後の内閣委員会に出席するべく、首相官邸の長い廊下を歩いていると、向こうから総理大臣の男性秘書官が花田に来ているのが分かった。
「花田長官」
秘書官が来ると言うことは、完全に谷岡が呼んでいるということだ。少し重い顔をしていると男性秘書官が近づき
「谷岡総理がお呼びです」
「分かった」
少し不機嫌そうな顔になって言ったが、逆に好都合だった。自分も谷岡に伝えたいことがあったからだ。そのため、少し落ち着いてから総理大臣執務室に向かった。
しばらくして中に入ると、谷岡が長椅子に座りながら、少し表情を暗い顔にして
「おぉ待ってたよ。座って」
対面の席に座る花田。すると谷岡が少し涙目になりながら
「頼む。例の総辞職の件は無かったことにしてくれ」
何を言い出すかと思いきや、そのことか。少し不機嫌な顔になりながら
「何を言い出すかと思いきや、笑わせますね。答えは当然却下です」
すると谷岡が言語を強めにして
「こんなことで総理職を失いたくないんだよ!やっとの思いでなったのに」
すると花田は少し微笑みながら
「いいですか谷岡総理。この世には総理大臣というトップに成り上りたい人は沢山います。しかし、あなたは贈賄を、見て見ぬふりをして隠した。これは立派なルール違反でもあり、共犯者だ」
完全に涙目になっている谷岡。こんな彼を見たのは初めてだったが、自分にとって一番の邪魔者はあんただ。そんな涙目になられても困るだけだ。そう思い、少し声のトーンを落としながら
「いいですか。今日の内閣委員会で総理、そこで総辞職を発表してください。そして、国会議員を辞職してください」
「はぁ?」
少し驚きと怒りなのか、完全に谷岡の表情が変わったのが分かった。しかし、花田はブレずに
「今回の内閣委員会で、野党である国民共和党は今回の贈賄問題を追及する予定です。その時にあなたは内閣総辞職を決定したと公言してください。そしたら、次は私付けで辞職勧告を送るので、国会議員を辞職してくださいということです」
「ふざけるな!まだ内閣総辞職は良い、なんで国会議員まで辞職しなきゃいけないんだよ!!」
完全に激昂した谷岡。すると花田は微笑みながら
「じゃあ週刊誌にバラまいてもいいんですよ。そしたらあなたは無理にでも国会議員を辞めなきゃいけない。それも完全に野党からの反発を買い、政権交代だ。そしたらあなたは二度と政界に戻れなくなるかも。それだったら、自分から辞めて、おとなしく身を退いてくれれば、こっちで何とかしますよ」
谷岡は少し黙ってしまった。もし国会議員を辞めたとしても、政界に二度と戻ってこられないわけではない。でも今花田が言った通り、このことをバラまかれたら、完全に政治人生終わったも同然だ。それは確実に避けたい。そう思っていると、花田が続けて
「それではよろしくお願いしますよ、もし裏切ったらどうなるか分かりますよね」
少し笑顔になりながら花田は部屋を後にした。谷岡は少し落胆した顔になりながら、ただ椅子に座ってるしかなかった。
しばらくして、国会議事堂委員室で内閣委員会が始まり、内閣総理大臣の谷岡、副総理の橋本、そして官房長官である花田が出席し、野党である国民共和党からは代表の西郷太郎が代表質問者として壇上に立つことにした。
まず男性内閣委員長が席に座り
「えぇただ今から、内閣委員会を開会いたします。内閣の政策を議題とし質疑を行います。質疑のある方は順次ご発言願います」
すると西郷が手を上げる。委員長が
「西郷三郎君」
西郷が壇上マイクに近づき
「えぇ国民共和党の西郷三郎であります。まず谷岡内閣総理大臣に2点質問があります。まず1点目は笹谷前総理が先月に突然国会議員を辞職なされました。どうやら、谷岡総理や花田官房長官が議員辞職を命令したという情報があるのですが、それについてはどう思われますか。それと2点目、笹谷前総理の贈賄問題で、どうやら谷岡総理がその贈賄を、見て見ぬふりをして隠ぺいをしたという情報が来ていますが、これについてどう思われていますでしょうか。お願いいたします」
途中言語を強めて言った西郷。この情報を国民共和党が知っていることは、花田は既に知っていた。これについて谷岡がどう答えるか、少し微笑みながらいると、谷岡が手を挙げて委員長が
「内閣総理大臣・谷岡義秀君」
谷岡が立ちあがり、壇上マイクに近づけて
「えぇ、笹谷前総理が辞職なされた件は、一切私や花田官房長官が関わっている事実はございません。笹谷前総理は、ご自身の意向で辞められたと聞いています。それに笹谷前総理の贈賄の件につきましては、一切私は関係しておりません。以上です」
やはりそう回答するとは予想済みであった。あとは辞職発表をいつするか、少し見ごたえがあるなと思いながら花田は聞いていた。すると西郷が手を挙げて、委員長が
「西郷三郎君」
西郷が壇上マイクに近づき
「総理それはないでしょ。いいですか、実際に贈賄の件は、これ立派な証拠もあって、暴力団組織の会員が確かに笹谷前総理から50万円渡されて、挙句の果てにその場には総理も居たって言ってるんですよ。これね、逃げられないですよ。これは総理がただ単に責任を取る問題じゃないですよ。これ総辞職問題じゃないですよ。本当に。その点についてはどう思われてるんですか?」
西郷が席に戻り、入れ違いに谷岡が手を上げる。委員長が
「内閣総理大臣・谷岡義秀君」
谷岡が壇上マイクに近づき
「えぇ贈賄の件は本当に関係ありませんが、責任を取ります。えぇ明日を持ちまして代表を辞任して、内閣を総辞職します」
会場が驚きの声に包まれる。それもそうだ。この決意を知っているのは花田と谷岡だけだからである。当然、日本平和党員や閣僚も知らないことのため、驚きの顔を隠せないでいた。西郷が壇上マイクに近づいて
「総理。それは本気で言っておられるんですか。総理をお辞めになられるんですか」
谷岡は本格的に総辞職を発表した。世間は大騒ぎして、花田も首相官邸の官房長官室でテレビを見ていた。女性ニュースキャスターが原稿を読んでいた。
「えぇ、速報です。今日の内閣委員会で谷岡総理大臣が突然の内閣総辞職を表明されました。えぇ先月発足したばかりの内閣を総辞職することは、憲政史上最短記録を更新することになります」
画面は谷岡に取材する映像に変わる。谷岡は取材陣から
「本当に総理をお辞めになられるんですか。いくらなんでも急じゃないですか」
すると谷岡が少し言語を強めて
「もう決めた事です」
「次期総理はお決まりになられてるんですか?」
すると谷岡が立ち止まって
「次期総理は、花田君を指名することにします」
場が大騒ぎとなる。それを見ている花田は笑っていた。どうせ脅された人間は操り人形に過ぎない。テレビを消して、すぐに花田は携帯から電話を掛けた。相手は自分が所属する派閥の代表である内田だった。
「もしもし花田です。はい、例の件で、お願いします」
花田の笑顔はもう頂点に上り詰めたと感じていた、悪人の笑顔だった。その後2週間後、緊急の日本平和党代表選が行われ、見事花田が当選し、谷岡内閣は総辞職して、花田新内閣が発足したのであった。
~第3話終わり