(連載小説)「代表選挙~党内戦争~」第2話(全4話)
自分は公用車の中についてあるテレビで、品川が出馬表明の会見をするのを見ていた。
品川は黒のスーツに黄色のネクタイをして、会見に挑んでいた。
「今回、民主日本党代表選挙に立候補いたします。まず私が望む政治とは、国民が安心し、そして民主主義を一番大事にする政治です。私は、その中でも経済政策・防衛政策など様々なことを、もし総理になったあかつきには、続々と可決・成立するつもりです」
テレビは切り替わり、女性キャスターが務めるニュースへと変わった。女性キャスターが口を開き
「えぇただ今、品川副代表による出馬表明会見をご覧いただきました。いやぁ加山さん、まさか品川副代表が出馬するとは思わなかったですね」
女性キャスターは隣にいた男性政治評論家に話を伺うことにした。
「そうですね。私の予想では稲川副総理・そして畠山官房長官が立候補すると思っていたので、まさかの展開ですね。それにどうやら、松尾総理が品川副代表を支持をしているという情報もありますので、目が離せませんね」
テレビを切る自分。さすが政治評論家、耳に入れるのが早すぎる。でも自分には畠山という立派な後ろ盾がいる。
実はこれから会見を行った後には、稲川副総理に会談をし、支持を獲得するつもりだ。
稲川副総理は財務大臣を兼任しており、経済政策・金融政策の第一人者として可決・成立させた実力者であり、松尾内閣では最年長で議員歴も長い、そのため、松尾総理よりかなり後ろ盾は強くなる。そう思っていた。
すると前に座っていた沖田が
「そろそろ会見場に着きます」
「おう。ありがとう」
自分を乗せた車は、大きなホテルに到着した。そこはよく出馬会見などで使われる議員御用達のホテルである。
一応メディアや取材関係には連絡済みであり、あとはいつでも会見を行える状態になっていた。
自分は沖田に
「それより、メディア関係にはどう伝えてあるんだ?」
「それにつきましてご安心ください。水田防衛大臣による定例会見として、場所変更の連絡をしただけです」
さすが自分の最高の秘書官だと思いながら
「ありがとう。助かるよ」
しばらくして場面は会見場に移る。様々なメディアや取材関係者がいる中、あくまでも定例会見ということで、自分は冷静な顔をしながら、壇上に上がる。
男性司会者がマイクを使い
「えぇそれでは、水田防衛大臣による定例会見を始めたいと思います。それは大臣、よろしくお願いいたします」
自分は司会者に会釈をしてからマイクに向かい
「えぇ今日は、お忙しい中、そして急な場所変更にも関わらず、お集まりいただきありがとうございます。私から2点ご報告があります。まず、アメリカ軍と自衛隊の共同防衛練習の費用につきましては、今国会内で必ず、可決・成立させたいと思っています。これにつきましては、野党の強い反発やご批判もありましたが、私はこの日本を守るためには、一番大事なことだと思い、提言いたします。そして2点目は今回行われる、民主日本党代表選挙に立候補いたします」
周りがざわつく。それもそうだ、先ほど品川が立候補を表明したばかりだからである。驚くのも無理はない。同日に2人が立候補するのは異例中の異例だからである。
自分はそれでも冷静に保ち
「えぇ、先ほど我が党の品川副代表が出馬を表明したばかりでありますが、私は、防衛大臣としてこの国の守るトップとして、私は思いました。今の日本を変えなければいけない。そう思い、私が総理になったあかつきには、防衛予算を大幅増額し、もしものための緊急事態として、自衛隊に武器使用の許可をすぐに発令できるような法案を作成し、可決・成立させたいと思います。以上です、何かご質問はありますでしょうか?」
その頃、民主日本党本部の待機室では、品川が休憩をしていた。やはり先ほどの会見が長かったせいか、疲労が限界にまで達していたからだ。
すると代表代行の田口が入ってきて
「大変ですよ。品川さん」
品川は少し驚いた顔をしながら
「なんですか急に。それも田口さんじゃないですか」
田口は焦りの表情をしながらも
「挨拶は後で、とりあえずテレビつけてください」
品川の秘書がテレビを付ける。そこには丁度水田の会見映像が流れていた。
会見は丁度、質疑応答に移っており、男性記者の一人が水谷に質問をしていた。
「ということは、水田大臣は品川副代表と真っ向勝負に挑むと言うことでしょうか」
自分は至って冷静な顔で
「はい。確かに品川副代表には長年お世話になり、尊敬の念もあります。しかし、政策となったら違います。私は経済政策・防衛政策と共に、日本共存政策を行わなきゃいけません。つまり日本国民が皆平等で、それも安心して暮らせる、そんな日本を目指し、そして実現をしなければいけません。そう自分は感じています」
それを見ていた品川は少し怒りの表情をしながら
「あっあの小僧、立候補ならともかく私の直後に会見を開き、自分と真っ向勝負だと、尊敬もかけらも無いな!」
すると田口が少し困った表情をしながら
「それが、畠山官房長官が支持をしているそうです」
品川は目を見開きながら
「は?畠山長官が!?」
これは品川にとっては大誤算だ。本当はこの後畠山のところに行き、支持を獲得する予定だった。
そうすれば小野派の議員のほとんどが、畠山に尊敬や忠誠心を抱いているため、確実に他の立候補者がいても、勝てる。そう思っていた矢先だった。
こうなったら動きを強めるしかないと思い、秘書に
「すぐに松尾総理を呼べ!」
自分はその頃、会見を終えて、すぐにホテルの用意されていた待機室に戻ることにした。そこでは畠山が待っており、自分は驚きながら
「畠山さん。いらっしゃったのですか?」
畠山は笑顔で
「おう。これから副総理のところ行くんだろ、俺がいた方が気楽でいいかなと思ってな」
「ありがとうございます。心強いです」
少し畠山が重い顔をしながら
「告示まで2週間を切った。その間に出来るだけの支持を獲得するんだ」
「分かりました」
「あとな、吉報だ。うちの小野派閥の人間ほとんどが君に支持するそうだ。先ほど連絡があった」
自分は少し笑顔になって
「本当ですか!?」
「たとえ、松尾総理が支持してるからと言って、忖度しても意味ないからな」
「ありがとうございます」
2人はそのまま稲川副総理の所に行くことにした。
現在、稲川は財務省で書類の確認・そして財務省官僚と打ち合わせをしていた。現在、中小企業からの要望により、財政の支援を予算案に組み込むことを行うことについて話をしていた。
男性官僚が書類に目を通しながら
「えっとですね。まずここの8000万円を融資と言う形で日本銀行と提携を組んでいます。私たちが予算案に組み込むとなれば、あと2000万円増やすことも検討しています」
稲川は納得した表情をして
「そうだな。それで行こう、もし何か不具合でもあったら報告してくれ」
「分かりました」
官僚がそのまま部屋を後にする。それにすれ違い、畠山と自分が室内に入る。
「稲川さん」
畠山が笑顔で言うと、稲川は少し笑顔になって
「おぉ、これはこれは畠山くんじゃないか」
「お久しぶりです」
すると稲川が自分に気付いて
「おっ、水田君だね」
自分は久々に稲川に会うために、少し緊張感を持ちながら
「はい。お久しぶりです」
稲川は自分の方を叩きながら
「君も頑張ってるね。会見見たよ、とても良かった」
自分は笑顔で
「ありがとうございます」
と頭を下げた。すると畠山が稲川に
「それより稲川さん。少しお話があるんですけど」
「おう、座って話そうじゃないか」
3人は近くの長椅子に、稲川が畠山と自分に対面して座った。そして畠山が口を開き
「実はですね。その代表選挙のことなんですけど、是非稲川さんにお力添えをしてもらいたいなと思いまして」
「つまり、支持してくれと言うことか?」
畠山が自分の方を見る。つまり自分が喋る番だと言うことで、自分は
「はい。稲川さんにご支持を頂ければ、私は確実に代表になり、総理大臣になることが出来ます」
しばらく稲川が悩む顔をしながら
「分かった。支持をしよう。その代わり絶対勝ってくれよ」
自分は笑顔で
「分かりました。必ず勝ってみせます」
自分と畠山が室内に出る。すると畠山が少し重い顔をしながら
「あの様子じゃ、すぐ裏切るな」
「え?」
自分の耳を疑うということはまさにこういうことだ。でも畠山の顔を見て冗談を言ってるようには思えない。
自分は少し戸惑いながらも
「ど、どういうことですか?」
「1時間後ぐらいにニュースを見ろ。そしたら分かる」
「え?」
そのまま畠山は歩いて行った。自分は畠山が言っている意味が分からなかったが、一応畠山に黙ってついていった。
その後、1時間後に防衛省に戻り、執務室のテレビを付けると、丁度ワイドショー番組をやっており、男性キャスターが喋っていた。
「いやぁ、今回まさか同日に2人の立候補者が会見を開き、品川氏には松尾総理と稲川副総理が支持を表明、そして水田氏には畠山官房長官が支持をしているという情報が来ていますが、どう思われますか?」
一体どういうことだ。今の話を聞くだけでも稲川副総理が品川に支持を表明したというのは、畠山が言っていたことが実現になった。
あの時支持をすると言った、稲川がまんまと1時間後に支持相手を変えた。何故畠山がそれを予測出来たのか、すぐにテレビを消して、畠山に電話を掛ける。
「もしもし、水田です」
「見たか、テレビ」
「はい、見ました。一体どういうことなんですか?」
「誰にも言うなよ。ここだけの話、稲川副総理は汚職をしている。それも大規模な汚職を」
「え?」
「松尾総理にしてみれば、もうこれ以上汚職者を出したくないし、それもナンバー2だ。もしかしたら松尾総理自身の議員人生が危ぶまれる。それを防ぎたいから、実は松尾総理の指示で隠蔽にしたんだ。」
「だから、稲川副総理は松尾総理に頭が上がんない」
でもこのままだと確実に負けてしまう。総理と副総理が付くとなれば、小野派の議員がいくら自分に支持を表明したとしても、すぐに流れてしまう。それは防ぎたい、でも手段がない。どうしようかと思っていると畠山が
「でも一つ方法がある」
「え?」
「一人だけ、最強の味方がいる」
「誰ですか?」
「島田幹事長だよ」
~第2話終わり~