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【AMAZONオリジナル】「戦慄の絆」 血とヴァギナと絶叫の傑作スリラー

<概要>

amazonの2023年オリジナルドラマ。全6回。アマゾンプライムなどで見られます。

デヴィッド・クローネンバーグによる1988年のスリラーを現代風にアレンジ。本作「戦慄の絆」ではレイチェル・ワイズが一人二役で演じるエリオットとビヴァリーの双子の姉妹の姿を描く。2人はすべてを共有していた。ドラッグも恋人も、そして時代遅れの慣習に挑戦し、女性の医療の限界を押し上げるために、医療倫理を飛び越えることもいとわない強い思いも。(AMAZON公式サイトから)


<あらすじ>

ニューヨーク・マンハッタンに住む双子の姉妹、胎生学者のエリオットと産婦人科医のビヴァリーは、女性の考えにもとづいた革新的な産院を構想していた。

奔放な姉のエリオットと、生真面目な妹のビヴァリーは、いずれも独身で、性格上は衝突しながらも、強い絆で結ばれている。

女性投資家から莫大な資金を得て、姉妹は自分たちの理想の産院を開くことになるが、同時にビヴァリーに女優の恋人ができ、姉妹の間に亀裂が生じる。

ビヴァリーは、女優との仲を嫉妬するエリオットを次第に疎ましく感じ、投資家からも促されて、問題児の姉と決別しようとする。

一方、ビヴァリーを離したくないエリオットは、ビヴァリーの卵子を使って秘密の実験を始めていた・・


<評価>

女の「股ぐら」に関するレイチェル・ワイズのやりたい放題に拍手!

プロデューサーも務めるレイチェル・ワイズのひとり舞台。良くも悪くもやりたいことをやり尽くした感じのドラマで、私は非常に感銘を受けた。

女の、フロイト式に言えば「ウンコとしっこの間の穴」に、男は過大な性幻想を持つものだが、このドラマの前半は、その「穴」に関する男の幻想を全力で粉砕しようと襲いかかってくる。

このドラマは、生々しい分娩シーンから始まり、その「穴」が、女の運命の象徴であり、痛みの根源であり、何より男のものではない、女の所有物であることを主張する。

その意味で、ある種のフェミニズム映画だと感じた。男にとっては拷問のような、女の見たくない光景を見せられる。悪趣味で、攻撃的で、嫌がらせのようにも感じられるが、次第に、このドラマに真剣な「言いたいこと」があるのがわかってくる。

出産をテーマとしながらも、「母子の神聖な絆」といった方には向かわず、むしろこのドラマでは、母と子の距離が強調される。「子供を産めば女は幸せになれる」というのが幻想であることが示される。そのあたりに、このドラマの「言いたいこと」があるように感じた。

社会一般の倫理や価値観に反逆するドラマだが、「反倫理」が結論ではなく、人間の孤独とともに、侵しがたい尊厳を真面目に描いている。

全6回、約6時間におよぶドラマ。クローネンバーグ流のグロテスク志向に忠実とはいえ、気楽な「ホラー」を期待して見始めた人は驚いて見るのをやめるだろう。だが、真剣に付き合うに値する人間ドラマである。

役者陣の完璧に計算された演技と、脚本、演出、美術、音楽、すべてが高水準で目が離せない。終盤、物語の回収に急いでバタバタしてしまうのが残念だが、見終わったらぐったり疲れるような緊張感と熱量を持っていた。

ヒューマン・リーグの「愛の残り火」、リック・ジェームズの「スーパーフリーク」、ソフト・セルの「汚れなき愛」、ポール・サイモンの「母と子の絆」など、1970年代から80年代にかけての珠玉のヒット曲が散りばめられているのも、その世代の人間として楽しい。

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