【Netflix】「スパークス・ブラザーズ」アメリカが生んだビートルズの進化形!
<概要>
スパークス・ブラザーズ
2021 | 年齢制限:16+ | 2時間 21分 | ドキュメンタリー
唯一無二の存在として異彩を放ち続けるアメリカのロック・ポップデュオ、スパークス。ロックスターたちのインタビューを交え、彼らの50年の歴史に愛と敬意をささげる興奮のドキュメンタリー。
出演:スパークス、ベック、パットン・オズワルト
(Netflix公式サイトより)
https://www.netflix.com/jp/title/81436982
<評価>
141分は、ふだんの私には耐えられない長さだが、まったく退屈することなく、ただただ酔いしれた。
2年前、このドキュメンタリーのニュースが流れたとき、私は「SPARKSのドキュメンタリーを見るために生きていく」と書いた。
それをようやく見ることができて、感慨無量である。
思えば私の人生には、スパークスの魅力をともに語り合う友人が欠けていた。
このドキュメンタリーは、「スパークスって、いいよね!」と、ベックやらビヨークやらマイク・マイヤーズやらニック・ヘイワードやらいろいろ出てきて、飽きることなく語り合う。楽しいファンの夕べだ。
日本にも、スパークスのファンは一定数いるはずだが、散らばってるからなかなか会えないんだよね。
それとともに、このドキュメンタリーでは、スパークスの浮き沈みの激しい50年が振り返られる。
10代の私は、「キモノ・マイ・ハウス」を、「クリムゾン・キングの宮殿」や「イエスソングス」と一緒に、擦り切れるくらい聴いた(なぜ擦り切れるかというとレコードというものだったから)。
私は最初、レコードジャケットの印象もあり、ボーカルは女だと思っていた・・そう誤解した人は多いのではなかろうか。
あれから50年か・・。
スパークスは、イケメンのボーカル、ラッセル・メイル(弟)と、口ひげがトレードマークの作曲・キーボード担当、ロン・メイル(兄)の兄弟ユニット。
1974年、「キモノ・マイ・ハウス」収録曲「ディス・タウン」がイギリスで大ヒットしたとき、テレビで演奏を見たジョン・レノンが興奮してリンゴ・スターに電話した、という話が好きだ。
「おい、テレビを見ろ。マーク・ボランがヒトラーと演奏してる!」
のちにポール・マッカートニー&WINGSは、「カミング・アップ」のPVでスパークスをパクって、メイル兄弟を感激させた。
しかし、スパークスはその後、低迷する。
というか、ドキュメンタリーのなかで言われるとおり、「スパークスはしょっちゅう終わっていた」。
1970年代後半はパンク全盛で、彼らの音楽はすぐに時代遅れとみなされるようになった。
1980年前後にジョルジオ・モルダーとコラボしたエレクトリック・ポップは、一部のアーティストに影響を与えた。いま聴くとなかなかよかったりする。
しかし、同時代にはディスコミュージックへの迎合と思われたし、同じニューウェーブなら、トーキング・ヘッズなどが受けていた。
80年代から90年代はスパークスのどん底で、6年間、いくら曲をつくってもレコード会社に相手にされなかった。その間の苦労を語るスタッフが泣き出す場面にはこちらも泣ける。
売れていた時期のたくわえを、彼らがドラッグに浪費しなかったから、なんとか生活が保てたという。
スパークスの復活は、2000年の「ボールズ(Balls)」から始まったのだと思う。これまでのエレクトリック・ボップのセンスに、ミニマル・ミュージック的洗練がくわわり、無駄をそぎ落とした、21世紀のポップロックの形を示した。
「ボールズ」はもうひとつヒットしなかったが、次の「リル・ベートーヴェン(Lil’ Beethoven)」(2002)は批評家に絶賛され、スパークスの完全復活を印象づけた。
「リル・ベートーヴェン」は、スパークスの「サージェント・ペパーズ」だと言えるだろう。
私も、「リル・ベートーヴェン」に感激して、スパークスの過去作をあわてて買い集めたりした。私が聴いていなかった時代もふくめて、スパークスが試行錯誤ののちに、みずからの道を究めつつあることがわかった。
2010年前後に、私は渋谷のクラブでおこなわれたコンサートに2度ほど行き、感動した。すばらしいパフォーマンスだった。アルバム聞いているだけではわからないけど、ちゃんとかっこいいライブバンドですからね。
スパークスは、アメリカですら、イギリスのバンドと思われている、という話が最初に出てくる。
デビュー以来、アメリカでは受けず、ヨーロッパ、とくにイギリス、ドイツ、フランスで評価された。
「アメリカ人は、彼らのような音楽が好きではない」と率直に言う人も出てくる。
スパークスのテーマは「劣等感」だ、という話がおもしろかった。
スパークスの前面で歌っているのは、イケメンのラッセルだ。しかし、曲をつくっているのは、うしろでキーボードを弾いている、非イケメンのロンである。
だから、非モテ童貞の、ひねくれたファンタジーや妄想みたいな歌詞が多い。
「ぼくは自分自身と結婚したから一生幸せ」と歌う「リル・ベートーヴェン」収録曲、「I Married Myself」が典型だろう。
こういうのは、たしかにアメリカのメインストリームのロックがいちばん避けそうな曲調だ。アメリカンロック的な「かっこよさ」からかけ離れている。
下積み時代、アメリカの労働者(レッドネック)が集うパブでも、営業で演奏しなければならず、まったく受けないし散々な目にあったエピソードが語られる。
ただ、「劣等感」というより、メイル兄弟の「予定調和を壊したい」という反逆心が、どんな曲にも表れるのだと思う。
西海岸生まれで、ビーチ・ボーイズを生んだのと同じ環境に育ったのに、なぜこんな非アメリカ的バンドになったのか。
家庭は中流。父は、新聞のデザイン部門に勤めていた、自称「画家」だった。
メイル兄弟は、この父から芸術的感化を受けたが、兄弟が10歳のころ、その父を亡くす。
兄弟は、2人で母を支えて行こうと誓ったという。
その母が、車を駆って、少年の2人を、ビートルズのハリウッドボウル公演に連れていくエピソードが好きだ。
メイル兄弟にとって、ブリティシュロックと、子供時代の幸福な記憶は、固く結びついているのだと思う。
だから、スパークスの音楽の根本には、メイル兄弟が共有した、家庭的な「幸福感」がつねにあると思うんですね。
それが、2人の壊れない絆になっているし、その音楽も、そういう家庭的なスケール感で満足して、なんというか、小ぢんまりとしている。
「ディス・タウン」の歌詞、
「この町は、ぼくらには狭いけど、ぼくは出て行かない!(This town ain't big enough for both of us! But it ain't me who's gonna leave!)」
は、そういう彼らの姿勢を象徴していると思うんですね。
そういうところが、本質的にロックっぽくなく、大ヒットはしない理由かもしれない、と思う。
でも、彼らの音楽は、彼らがビートルズやブリティッシュロックから受け取った芸術性を、正統的に進化させていると思う。それは、彼らが「大受け」を求めず、自分の信じた音楽を続けたからこそ、できたことだとも思うんです。
いや、とにかくスパークスについて語り始めると止まらない。
私の宝物の一つは、メイル兄弟のサイン入りスパークス楽譜集だ。
サインをもらうとき、私はメイル兄弟と少し話をする機会を得た。
でも、緊張してしまって、私が言えたのは、
「あなた方は、なぜそんなに若いのですか」
だけだった。
ラッセル・メイルは、
「野菜です。あなたも野菜を食べるとよいですよ」
と答えてくれた。
その楽譜集、サインのインクが乾かず、ページがくっついて、二度と開くことができなくなったのが残念だ。
<私が好きなSparksクリップ集>
This Town Ain't Big Enough For Both Of Us(1974) *スパークス初期の代表曲。ジョン・レノンが「マーク・ボランとヒトラー」と言ったのがよくわかる映像。初期には「グラムロック」に分類されていた。「なんじゃコリャ」と戸惑う観客の表情が印象的
The Existential Threat(2020)*コロナ期にYouTubeで大ヒットした傑作動画。いま見てもコロナのテーマソングみたいな曲だ
The Girl Is Crying In Her Latte(2023) *ケイト・ブランシェットをフューチャーした今年の新曲
話題を呼んだライブ版
Funny Face(1981)*「みんなが僕のイケてる顔にあこがれるけど、顔が好きなだけで僕自身は愛されていない。ああ、僕はいっそ変な顔になりたい。顔なんて何だ。僕はただ幸せになりたい」と歌う。低迷期スパークスの名曲。
Bullet Train(2000)*日本の「新幹線」賛歌。「右に見えるは富士山だ。絶景だ。雲一つない、汚れなき~」と歌われる。
Aeroflot(2000)*これはロシアのアエロフロート賛歌 「ほら、シートベルトを締めな、アメ公」と、機知にとんだスチュワーデスは言う。アエロフロートに乗ったら、毎フロイトがアドベンチャーだあーーといった皮肉たっぷりの歌詞
Dick Around(2006)*「うろつきまわりたい。ただそれだけ」と大げさに歌う。スパークスのメッセージソングにして、トー横キッズのテーマソングみたいな曲
Can I Invade Your Country(2006)*「貴国を侵略してもよろしいか?」というアメリカ政治風刺曲。音源だけだと伝わらないかもしれないけど、ライブでは反戦的なメッセージが熱を帯び、いちばんカッコよかった曲でした
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