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【YouTube】「ブラインド・フューリー」タランティーノの先駆、愛すべき失敗作!(ルトガー・ハウアー版「座頭市」)

【概要】

1989年傑作バトル・アクション!『ブラインド・フューリー』(字幕版)【映画フル公開】 盲目の帰還兵が 悪党どもをたたっ斬る!
【あらすじ】 ベトナム戦争で視力を失ったニックは助けられた村人の元で刀の達人となり、20年ぶりにアメリカに帰国。かつての戦友フランクを訪ねるが、彼は麻薬組織に捕らわれていた。長剣のみを武器に、ニックは再び戦いに身を投じるのであった。「座頭市」をアメリカ版にアレンジした、傑作アクション!
【キャスト】
ニック:ルトガー・ハウアー
フランク:テレンス・オクイン
【スタッフ】
監督フィリップ・ノイス
製作ダニエル・グロニック
製作デヴィッド・マッデン
(YouTube解説より)

本編(ソニー・ピクチャーズ公式チャンネル)↓


予告編(英語)↓


【評価】

ソニー・ピクチャーズが昨日、また懐かしい映画をYouTubeで無料公開した。

少し前にレビューした「誰かに見られてる」同様、劇場ではコケたけど、ビデオレンタルで人気だった、ルトガー・ハウアー主演作「ブラインド・フューリー」(1989)ね。

これ、1967年の「座頭市血煙り街道」のリメイクです。

座頭市血煙り街道(1967)


座頭市が、ヤクザに誘拐された男の子を奪い返す、という物語。

座頭市と男の子のあいだに情が生まれ、男の子を家族に返した後、市は別れがつらくて涙を流すーーという最後まで一緒。ほぼ忠実なリメイク。


ビデオのパッケージからは、そういう映画だとはほとんどわからない。多くの人は「座頭市」のリメイクと知らずに借りたと思う。私もそうだった。

「ブラインド・フューリー」VHSパッケージ


ショー・コスギとの対決がクライマックス、なんてことも、わからない。(80年代、ショー・コスギはアメリカで大人気だった)

主人公がベトナム帰還兵ということだから、「ランボー」みたいな映画を想像したと思う。

で、見ると、想像したものとちがい、なんか安っぽく、なぜかコミカルで、話にも無理がありすぎ、ピンと来なかったですね。


でも、昨日見直して、やはり失敗作だとは思うけど、意外な魅力があると思った。

ルトガー・ハウアーが2019年に亡くなった(享年75歳)だけに、彼が懐かしく、彼の魅力を再発見することにもなった。

彼は、「ブレードランナー」(1982)以来、あまり役に恵まれなかった気がします。

この「ブラインド・フューリー」は、続編も予定されていたらしく、続いていけば、彼の代表作になったかもしれないと思う。

でも1作目がコケたから、続編がなくなったのは残念でした。

なお、監督は、ニコール・キッドマンの出世作「デッド・カーム」(1988)を撮ったオーストラリア出身のフィリップ・ノリス。


今だったら、

「ブレードランナー」のルトガー・ハウアーが「座頭市」を演じた!

というのが、いちばんの売りになって、パッケージの表に書かれそうだ。

でも、当時、それが売りにされても、僕らの心に響いたかはわかない。


この映画は89年製作だけど、公開は90年。

その1年前、1989年は、勝新太郎が16年ぶりに「座頭市」を公開した年でした。

日米で、ちょっとした「座頭市」まつりにはなっていたわけ。

座頭市(1989)


勝新の1989年版「座頭市」はヒットしたことになっているけど、撮影中に事故で人が死んだり、そのあと勝新がコカインで捕まったり(麻薬パンツ事件)、同時代にはあまりいい印象がなかったな。


とくに、当時30歳くらいの我々の世代には、「座頭市」は昔の古い時代劇で、同時代でオリジナルは見ていない。

「このどメクラが!」みたいなセリフが頻繁に出てくるオリジナルシリーズは地上波で放送されてなかったし。(その後、衛星放送で放映されるようになってから、私も見た)


まして、当時は、バブル真っ盛りですよ。いまさら貧乏くさい座頭市でもなかろう、という空気でした。

(2000年代に入って北野武が座頭市をリメイクし、また印象は変わったけれど)


しかし、海外には座頭市の熱烈なファンがいて、この「ブラインド・フューリー」のプロデューサーもそうなんですね。

ずっと座頭市を撮りたいと思っていて、やっと実現した企画でした。

座頭市あたりの、B級日本映画のテイストを愛好するアメリカ人がいるというは、当時は知らなかったですね。


そう思って見ると、この映画は、タランティーノの「キル・ビル」なんかの先駆に思える。

私が初見で、安っぽい、と感じたものは、アメリカ人たちが感じた、日本映画のB級テイストだったんでしょうね。

彼らなりに、座頭市のユーモアとか、愛すべき荒唐無稽さを、忠実に再現しようとしていたのでしょう。

それがわかると、なかなか味わいがあります。


いっぽう、当時は、日本経済が絶好調すぎて、ジャパン・バッシングの時期でもありました。

この映画もコロンビア社の映画で、ちょうど日本のソニーに買収された頃の作品です。


映画自体は日本映画へのオマージュだけど、当時のアメリカ人の「日本憎し」の思いもあって、それが最後のショー・コスギとの対決に象徴されていると思う。

主人公(ルトガー・ハウアー)がコスギの顔を触り、「ふん、日本人か」と言った後、コスギを倒す。

「ダイ・ハード」(1987)で、ナカトミ・ビルの日本人経営者(ジェームズ・シゲタ)が、テロリストに脳天ぶち抜かれるのと同じですね。

露骨ではないが、そこはかとない反日感情があって、当時のアメリカ人の観客には伝わったと思います。


ともあれ、勝新ともたけしとも、また綾瀬はるかともまったくちがう、ルトガー・ハウアーの「座頭市」像は、いま見ても魅力的です。

ナイーブで、さわやかで。B級の舞台の中で、彼だけがA級で輝いている感じ。

いろいろと、チグハグな印象がぬぐえない映画ですが、のちのタランティーノ映画なんかを踏まえると、時代に先んじすぎた傑作だったのかもしれないと思います。

改めて、ルトガー・ハウアー、レスト・イン・ピース、です。



余談だけど、1980年代終わりから1990年代にかけて、ビデオレンタル全盛時代には、ネットは普及していなかった。

ネットが使えたとしても、ネットの中に、まだ十分に映画の情報がストックされていなかった。

それなのに、日本未公開作品含め、膨大な量の映画のビデオが、レンタル屋には放出されていた。

どのビデオを借りるべきか、それを判断する、信頼できる情報源がなかったんですね。


それは、アメリカ人にとっても同様でした。

彼らが、ビデオを借りる時に参考にしていたのが、こういう分厚いビデオガイドです。


当時レンタル屋に流通していたほぼすべてのビデオ映画(洋画)を、5つ星で評価しています。(最低評価は、1つ星ではなく、ターキー=駄作=マーク)

日本では、こういうものがなかったですね。

だから私も、日本でアマゾンができる前に、アメリカのAmazonから毎年買っていました。(この1997年版だけ、記念にとっておいた)


この1997年版のビデオガイドで「ブラインド・フューリー」を見てみると、5つ星評価で3つ星(good 標準作)でした。



「度がすぎたバイオレンスで冗談半分のようなマーシャル・アーツ映画。やりすぎ感満載の掘り出し物」

という評価は、まあフェアではないでしょうか。


<参考>


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