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【2117】ウェルネオシュガーの企業診断 - 2025年3月期 中間期 決算反映版
砂糖。そんな国民の必需品を主力商品としている【2117】ウェルネオシュガーを分析します。需要の安定感がある一方で、近年は利益率がやや低い印象です。私自身もポートフォリオに加えるべきかかなり悩んだ銘柄なので、分析の過程を残しておきます。
カキノタネの結論
高配当・バリュー株にはリスクがつきものだが、この銘柄も例外ではなく、リスクを考慮すると配当利回りとしては4%超を狙いたい銘柄だ。現在形成されているレンジ内であれば、将来の利回りも4%を超える可能性が高い公算なので、ポートフォリオのバランスを考慮してレンジ内で購入するのも悪くないと判断。
ウェルネオシュガーの事業内容
事業ポートフォリオ
ウェルネオシュガーは既存事業を強化しながら新規事業を育てており、いわゆる両利きの経営を行っている。大別すると2つのセグメント「Sugar」「Food & Wellness」に分けているが、2025年3月期の第2四半決算時点では、Sugarセグメントの営業利益が90%以上を占めている状態。
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また、簡単に両セグメントの事業内容を説明しておくと、ウェルネオシュガーのコアとなっているSugarセグメントでは、その名の通り砂糖の精製糖事業、Food & Wellnessセグメントでは、フードサイエンス事業、フィットネス事業、倉庫事業といった新事業に積極投資し、ポートフォリオの拡充にチャレンジをしている。
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製糖業界のシェア
製糖業界では業界再編が加速しており、同社も2023年1月に日新製糖と伊藤忠製糖の経営統合により、DM三井製糖ホールディングスに次ぐ、業界第二位に位置付けている。
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ウェルネオシュガーの財務諸表
損益計算書
基本的には成長市場ではないので、2014年あたりまでさかのぼっても収益としては450億円から500億円のレンジで安定している。しかし営業利益率は直近の決算では6%程度と少し物足りない。
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また、経営統合による影響を除くと、昨今は非常に緩やかではあるが減益基調のようにも見えるので起因を整理しておく。
21年3月期:減収減益
−) コロナ禍の緊急事態宣言により需要減による影響
22年3月期:増収減益
+) 緊急事態宣言解除により需要回復
−) 粗糖市況の高騰を受けコスト増
23年3月期:増収減益
−) 経営統合関連費用発生
−) 原料調達コスト増継続
+) コスト上昇に対する実売価格への反映
24年3月期:増収増益
+) 経営統合による業績反映
+) インバウンド需要回復
コロナ禍における緊急事態宣言のような起因は特殊なケースとしても、粗糖市況の影響を受けて利益にインパクトを与えるのは長期保有する上では懸念材料だ。しかし、昨今はインフレの流れもあり、コスト増分を実売価格に反映し、価格の浸透も順調に進んでおり、この懸念は緩和されるものと推測する。
貸借対照表
先述の通り、コロナ禍における減収などはあったが、赤字に転落するような大打撃は受けておらず、資本は横ばいを維持していた。また、23年3月期からは経営統合により大幅な資本増。
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キャッシュフロー
基本的には安定してキャッシュが増加しているが、2023年3月期は営業キャッシュフロー及びフリーキャッシュフローが一時的にマイナスになっている。当時の決算資料によると、棚卸資産と法人税が大幅に増加しており、経営統合により棚卸資産と法人税が増加したが、収益は第4四半期から連結計上したためと解釈している。
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配当
連結配当性向(DPR)60%、または親会社所有者帰属持分配当率(DOE)3%のいずれか大きい額を基準に配当
との方針。要するにベースとしては資本の3%を配当にあてて還元するが、配当性向60%で計算した方が大きかった場合は、後者の計算式を採用するということだ。
2023年3月期まではDOE基準で計算されており、貸借対照表のパートで先述した通り、資本は横ばいなのでDOE基準で算定されていた配当も横ばい。2024年3月期からは経営統合による増益により、配当性向基準が採用され大幅な増配となっている。
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ウェルネオシュガーの中期経営計画
骨子としては中期経営計画の説明資料の下記のスライドの通り。ポイントとしては成熟事業の中でいかに収益を拡大するかに尽きるが、投資予算のうち30~40%程度が成長投資に充てられており収益拡大に向けての本気度が伺える。
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フローラデザイン素材の積極拡大
新規事業の中で、現在はフードサイエンス事業に経営資源を集中させているようだ。主力商品の一つである「きびオリゴ」は直近の2025年3月期の第2四半期決算時点では予想に対して、増収である一方で、研究開発や人件費がかさみ利益としては当初予想を維持としている。新規事業はまずはトップラインが伸びることが重要なので、この戦略はまずは悪くない滑り出しという実績からの印象。
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統合シナジー最大化の推進
伊藤忠製糖及び第一製糖の吸収合併が完了次第、シナジーの最大化が極めて重要となる。また、業界全体としては再編の動きが引き続き継続しており、更なる基盤強化の動きも視野に入れており、現行の状況を踏まえたDX推進ができるかどうかが中計の目標の一つであるROEに大きく関与する。こちらに関しては、現時点では進捗不明。
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ウェルネオシュガーのリスク整理
為替リスク
引き続き為替が不透明で、決算資料の中では消費者物価上昇の懸念について触れられている一方で、実売価格への反映が進んでいる。また、回復基調と表現されているインバウンド需要に関しても円安がもたらしている一面もあるので、よほど急激な変動がない限りは影響は限定的と推測している。
粗糖先物相場リスク
こちらも為替が影響する面もあるが、それ以上に供給量に応じて粗糖先物相場が乱高下している。直近ではコスト増分の実売価格への反映が成功したことと、2024年9月に市況がピークアウトしており、一旦リスクとしては緩和されてきている。一方で今後の予測が難しい点と、現状の利益率では原料価格上昇のインパクトが大きいので、粗糖先物相場に関してはアンテナを張っておきたい。
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プライム市場上場廃止リスク
こちらは決算説明資料などでは特に触れられていないが、流通株式比率35.0%に対して、2023年3月31日時点で24.9%だったため不適合と判断された。同年6月に基準を充たすための計画書が開示され、2024年6月に計画書に基づく進捗についても開示されている。
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現時点では未達ではあるが、自己株式の償却に加えて、法人株主を巻き込んで持ち株が流動株式であることの確認書を取るような動きまで実施している。綿密な計画が立ってない状態で株主に確認書を依頼などできるはずもなく、下記のような大株主と連携して既に基準充足の算段は立てているものと推測している。
伊藤忠商事(35.32%)
住友商事(23.67%)
(参考)現在の状況と上場廃止までの流れ。
2023年3月:上場基準不適合。経過措置として緩和された上場基準(流通株式比率5%)が適用され、緩和条件を充たすことにより上場維持(今ここ)
2025年3月:経過措置終了。本来の上場基準(流通株式比率35.0%)が適用され、充たせなかった場合は1年間の改善期間に突入
2026年3月:改善期間終了。管理銘柄入りし、6ヶ月後に上場廃止
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ウェルネオシュガーの指標分析
PER
PERの推移を見ていると乱高下しているように見えるが、この銘柄は株価が安定しているため、EPSが減ればPERが上がり、EPSが増えればPERが下がるような傾向があり、過去の推移は参考にならない。業界最大手のDM三井製糖ホールディングスと比較した感じだと、現在はやや割安といったところだろう。
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配当利回り
減収減益が続いた時期はDOE基準で配当が計算され、66~70円程度で横ばいが続いていたが、その中で3%台の後半で利回りが推移している。経営統合後は配当性向基準で配当が計算され大幅増配となっているが、大幅増配後の配当が維持されるのかどうかが妥当な株価を試算するにあたり重要な要素になりそうだ。
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2025年3月期はEPSが152.54円予想で配当性向基準が採用され配当はEPSの60%にあたる92円と予想されている。中間期の決算ですでにEPSは105.69円に達しており、およそ70%の進捗率。後半の中間期で投資やコスト増が膨らんだとしても92円の予想は堅そうだ。
また、来期以降に関しても中期経営計画の中では2028年3月期までに利益40%増を計画しており、仮に全く成長できなかったシナリオを想定したとしても利益は横ばい、つまり配当も92円で横ばい。万が一、大幅な減益となり、配当がDOE基準で計算された場合は66円でダウンサイド。
ウェルネオシュガーの直近のチャート
ブラックマンデー以降に関しては、概ね2,150円から2,300円のレンジで安定的に推移している。
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カキノタネの投資方針
現行のPERは競合とも大きく乖離しておらず妥当なライン
配当は当期予想の92円程度が継続する可能性が高そう
成長投資次第ではアップサイドを期待
大幅減益となってもダウンサイドは66円程度
リスクのバランスを考慮して配当利回り4%ではやや足りず+αが欲しい
以上を踏まえると、現在のチャートのレンジの下限付近の2,150円あたりを狙っていきたい。2,150円で購入することができれば、可能性の高いシナリオである現在の92円の配当維持により4.27%の利回りを確保し、成長投資成功によるアップサイドの可能性も期待できる。また、可能性は低そうだが大幅減益となった場合も3%の利回りは確保できる。