【2801】キッコーマンの企業診断
家庭ではお馴染みの【2801】キッコーマン。いわゆる一般的な高配当・バリュー株ではないですが、安定成長を継続している優良銘柄の株価がゆるゆると続落していたのを発見し調査することにしました。続落はまだ続くのか!?今の株価は本当にお手頃価格なのか!?詳しく見ていきたいと思います。
カキノタネの結論
⛔️好調な米国市場が陰りはじめ続落
⛔️さらにインフレ再燃による状況悪化懸念
ℹ️欧州・アジアなどで増産を進め米国依存脱却中
✅過去10年でPER最低水準でやや売られすぎ
少しリスクが残るが私のポートフォリオには少ないタイプの銘柄なので、1,580円前後を狙って打診買いをしてみたい。
キッコーマンの事業内容
事業ポートフォリオ
キッコーマンの事業は大きく分けて、国内と海外に分かれている。国内の事業はしょうゆ、食品、飲料、酒類の製造・販売が中心だ。海外はしょうゆと子会社であるデルモンテの製造・販売に加えて、東洋食品等の卸売販売の二つの事業を持っている。
各事業の収益の割合についてだが、最初に注目するべきは収益の77%を海外からあげていることだろう。そして、国内は製造・販売による収益が94%を占めており、内訳としてはしょうゆ、食品、飲料が同程度の割合を占めている。一方で海外では食料品卸売業が74%を占めており、製造・販売は30%で、その内容は90%がしょうゆ、デルモンテ製品が6%ほどだ。
一方で事業利益の切り口で内訳を見ると少し見え方が変わってくる。事業利益では海外の占める割合が89%を占めており、そのうち製造・販売(しょうゆメイン)が過半数を占めている。また、営業利益率も23%と海外製造・販売事業は収益性の高い事業であることが示されている。
さらにエリアの内訳を見ると北米の収益・事業利益の占める割合が70%以上と北米の重要度が高く、海外(特に北米)の動向については注視が必要な事業ポートフォリオと言える。
キッコーマンの財務諸表
損益計算書
収益・事業利益・純利益の推移を確認するが、世界共通の会計基準であるIFRS基準でデータが公表されている2019年度以降のデータをグラフにすると、ほぼ増収増益を継続していることがわかる。
貸借対照表
さらに、資本面に関しても自己資本率も70%以上という健全な水準で、着実に積み上げている。
キャッシュフロー
キャッシュの出入りに関しても、営業キャッシュフロー・投資キャッシュフロー共に増加させながら、フリーキャッシュフローも十分な量を確保しており、とても理想的に推移している。
配当
安定した財務基盤があるため、危なげなく連続増配を継続している。
キッコーマンの中期経営計画
2024年度の財務目標としては売上成長率年平均5%以上、事業利益率10%以上、ROE11%以上を掲げており、販売を強化しながらも生産性を高めていくようなオーソドックスな内容となっている。
具体的な方法としては、まだまだ成長余力の大きい海外でしょうゆ増産・卸拠点を拡張することでトップラインを引き上げ、国内に関しては生産性の向上に努める方針だ。また、新規事業、設備・IT投資、M&Aなども視野に入れている。
海外しょうゆ事業
大きな収益源となっている本事業の具体的な戦略としては、収益源となっている北米の安定収益化、現地生産をすでに始めている欧州やアジアの生産体制強化、輸出メインとなっている南米・インド・アフリカでは現地生産へのシフトなど、多角的に収益力を高めていく方針だ。
海外卸売事業
海外卸売事業も年平均成長率9.0%の事業でありまだまだ成長余地が大きく、取り扱う商品のバランスの調整や、拠点の整備・拡大、調達力強化など、安定成長を継続する体制を作っていく。
国内事業
市場は成熟しており、成長余地はあまり残っていないため、生産性を高める方向で利益貢献を目指している。
キッコーマンのリスク整理
原材料相場変動リスク
しょうゆの原材料はおよそ大豆と小麦が半々となっており、大豆や小麦の価格が上がると利益が圧迫されることになる。実際、2022年の前半はロシアのウクライナ侵攻をきっかけに大豆・小麦の相場が上昇し、キッコーマンの利益を圧迫した。また、それ以上に株式市場はこの二つの相場に敏感に反応し、同年は株価が続落している。近年は原材料相場が直近10年の最低水準まで下がっているため懸念は緩和されているが、この大豆・小麦の相場の動向にはしっかりとアンテナを張っておこう。
為替変動リスク
為替変動リスクとしては連結決算で外貨建ての利益を円換算するときの計算に使用しているため、事業自体には影響はないが、円高方向に為替が動くと連結決算では海外であげた利益が小さく換算されてしまう。逆も然りで、直近3年は大きく円安方向に為替が動いたので、大半の利益を海外であげている同社は、下記の通り為替による利益貢献により収益・利益ともに高い成長率で推移している。
2021年度: 23億円
2022年度: 75億円
2023年度: 39億円
為替を読むのは至難の業だが、昨今の世論としては円高方向への動きを予想しており、例えば直近のUSDの為替レート151.41に対して円高に進むと事業自体が順調でも連結決算の数字に悪影響を及ぼすことになる。
米国新大統領政策リスク
新大統領であるドナルド・トランプは輸入関税を設定する方針を表明している。この関税により、抑え込みつつあったインフレ率が再度上昇する可能性があり、元々単価の高かった現地の日本食レストランの需要が下がる懸念がある。近々の決算では米国での成長がやや鈍化していることが確認されており、原因としては日本食レストランの需要低下と説明されている。合わせて、需要が回復し始めているとの説明もあるが、近年の成長率は日本食ブームに支えられていた面も大いにあるので、この課題を無視することができない。
また、関税による直接的な原因として、しょうゆ事業に関しては大豆や小麦は現地で仕入れることができる一方で、利益のおよそ3割を占める卸売事業では東洋食品を輸入しているため、場合によっては無視できないダメージを受ける懸念がある。加工食品に対する関税設定は優先度が高くないと推測しているが、米国の政策には注意を払いたい。
キッコーマンの指標分析
株価
2023年の11月に通期利益の上方修正を発表して株価の底が一段階引き上がったが、ブラックマンデー以降、上値が重く2024年の11月に同様に上方修正を発表したが、その日に大きな上ひげを形成して下落トレンドとなっている。週足で見るとうっすらとトレンドラインが見えるが、現時点ではどこまで強いトレンドラインなのか判断が難しい。
PER
概ね27から30あたりにおさまっているキッコーマンのPERだが、ブラックマンデー以降、しばしば25を切る場面も増えてきた。ここまで低水準に下がる理由としては、好調だった米国市場に陰りが見え始めたことが大きな原因と推測しているが、これ以上の下値は限定的であり、現在の25付近のPERは妥当な水準と考えている。
配当利回り
概ね1%前後を推移しており、配当性向は35%方針。ただ、キッコーマンは高配当銘柄ではないので、そこまで利回りは意識する必要はないだろう。
カキノタネの投資方針
いくつかの課題やリスクが潜んでいるため、昨今は株価が続落しており、PERとしては最低水準まで売られているように見える。楽観的に考えることはできないが、課題は解決に向かっていることが直近の決算で説明されていることも踏まえると、さらに下値を探ったとしても限定的であると推測している。
その前提と私のポートフォリオは高配当・バリュー株で埋め尽くされているのでバランスを取るためにも、現行の水準から打診買いをしてみたい。細かい部分はチャートを見ながらになってしまうが、例えばトレンドラインを頼りに1,580円前後(PER: 24.5、配当利回り: 1.3%)を狙う。万が一ブラックマンデー時の安値である1,400円まで下がったとしても、最大10%程度の含み損なので我慢して回復・上昇を待つという方針でいきたい。