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鉛筆削り
世の中には様々な鉛筆削りがある。大きくてどっしりしたもの、電動のもの、コンパクトサイズ、筆箱に入れて持ち運びできるミニサイズもよく見かける。中には文字の筆記用と絵を描く用で分けられている鉛筆削りなんかもある。私には文字を書く用途と絵を描く用途で鉛筆の削り方にどう違いがあるのかは分からないけれど。
鉛筆削りの姿形もたくさんあって面白い。四角くて、取っ手があって、という鉛筆削りだけでなく、鉛筆の形をしていたり、車の形をしていたり、色もバリエーションが豊富だ。
いや、鉛筆削りなんて使わない、ナイフで削るのだ、という人もいるかもしれない。1本の鉛筆に向き合い、ナイフで鉛筆を削っていく様は、さながら料理人が包丁を研ぐような、あるいは書道家が墨をするような趣がある。ナイフで削るなら鉛筆の芯の形も思い通りに調整できる。玄人志向はナイフの方が鉛筆の力をより引き出せるのかもしれない。私には鉛筆の潜在能力は分からないけれど。
昔、鉛筆削りを買ってもらった。きっと小学生になってからだ。学習机に置かれた、当時小学生の手には大きい黒色の鉛筆削り。もちろん電動なんて上等なものではなく、ボディと同じ色のハンドルを回して鉛筆を削るタイプだった。
自分専用の鉛筆削りに嬉しくなって、またそれを使って鉛筆を削ることが誇らしくなって、やたらと鉛筆を削った。
鉛筆を差し込む前に、鉛筆を固定するように前面を引き出す。ガチっと固定されたらつまみを指で挟んで鉛筆を入れる穴を開く。分かるかな。小さい子供には少し固いつまみ。ちょうど小学生くらいになると操作できるようになるような。
鉛筆を差し込んだら、いよいよハンドルを回して鉛筆を削る。ガリガリといい音がして鉛筆が削られていく。ほどよい抵抗感を手に感じながらグルグルとハンドルを回す。
ガリガリ、ガリガリ、……。
鉛筆を十分に削れると、鉛筆が刃に当たらなくなるので、それ以上鉛筆は削れない。延々と削られるようになっていたらあっという間に鉛筆がなくなってしまう。それ以上削れなくなると抵抗感がなくなる。ガリガリという音もしない。カラカラと空回り。それでもグルグルとハンドルを回す。
カラカラ、カラカラ、……。
もっと鉛筆を削りたいのに、鉛筆を削る時間はすぐに終わってしまう。物足りない。
たくさん文字を書いて、たくさん計算をして、たくさん絵を描く。とがっていた鉛筆の先がだんだん丸くなる。するとまた鉛筆を削ることができる。ガリガリという鉛筆が削られる音、鉛筆削りのハンドルに伝わる抵抗感を楽しむ。
長かった鉛筆は小さく、小さくなった。鉛筆が小さくなるほどに、私は大きくなっていく。
鉛筆削りに夢中になる私は頭を撫でられながら、温かい声を聞いた。
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以下,覚え書き
なんとなく,ふと鉛筆削りのことを書きたくなりました。鉛筆削りを買ってもらって,夢中で鉛筆を削っていたことを思い出します。底面の滑り止めがはがれてしまったり,ボディを傷つけたり,それでも鉛筆削りは壊れなかったので,丈夫だなと感じます。鉛筆を使わなくなってから随分経ちます。鉛筆削りが壊れるより先に鉛筆を使わなくなるとは思いませんでした。
お題企画「#やさしさを感じた言葉」with 再春館製薬所に合わせて投稿してみました。優しさを感じる言葉とはどういうものでしょう。おそらくこれという画一的な答えはありません。たとえ同じ言葉であっても、やさしさを感じることもあれば、そうでないこともあります。つまり、やさしさを感じるのは「言葉」そのものにではなくて、状況や関係性に対してなんでしょうね。ですので上記掌編でも、やさしさを感じた「言葉」自体は書きませんでした。読んだ人にやさしさを感じた言葉が聞こえたらいいな、と思います。
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