オワタPは危機を脱したのか?ーリスナーとの戦いに身を投じたボカロPー
オワタPとは『トルコ行進曲オワタ\(^o^)/』『パラジクロロベンゼン』『アンチクロロベンゼン』『リンちゃんなう!』『ゴチャゴチャうるせー!』を含む140曲以上のボカロオリジナル曲を生み出し、ニコラジのMCやゲーム実況にも食指を伸ばしているボカロPである。
オワタPとそのリスナーの関係は、私が観測している2011-2024の間に3つのフェーズを経て変遷している。
今回はその変遷について記載する。
第1フェーズ『数字との戦闘』
『アンチクロロベンゼン』〜『ジエンド』『リスタート』『シャットダウン』
アンチクロロベンゼンを経て活動を完全に軌道に乗せ、どうやったら曲が伸びるかを理解した後からの時期。流石にここまでくると一発屋ではなく、有名曲をバンバン出すボカロPと認識され始める。この時期のオワタPは自分の曲の良し悪し(評価されているか否か)や、注目度(ファンから注目されているかどうか)を数字の変遷によって認識している節がある。
元来クリエイター至上主義の人間でもあり、知り合いのクリエイターのことは良く覚えているが、ファンを個人として認識していたかと言えばしていなかっただろう。我々ファンも彼のことを画面の向こうの人間として捉えており、お祭りに乗じてお囃子の一部として盛り上げるという形で応援していた。
『架空の有名P』『どうせお前らこんな曲が好きなんだろ?』がこの時期であることからも、完全に調子に乗っている様子が分かる。この時期はこの時期で可愛い。
この時期は『リビルド/再構築(2022/4/20)』にて過去のボクとして描写されている。
『また会ったねボクは嬉しいな。(ウソだよ、ボクはキミを知らない)』
『はいほらみんなチョロすぎるな(笑)』
『増えろ(増やせ)、伸びろ(伸ばせ)、熱くなれよ(熱くしろよ)』
まあそんな感じで完全にリスナーを舐めてるし、愛想を振り撒いてファンを獲得するような立ち回りだったので、味方も敵も多かったと認識している。アンチスレもなんとしててもコイツは引き摺り下ろさなければ、と息巻いていて元気であった。
またこの時期の彼は界隈を代表する有名Pとして、ボカロPの代表として立ち回ろうという行動指針があったと考えられる。法外な値段で依頼する企業は仲間に即共有。Twitterで晒し上げ。ボカロPを食い物にしようという企業にNOを突きつけることを美徳としていた。これはオワタPの本業がそこそこ安定した収入を得られるためであり、当時としては企業の下手に出る必要がなかった珍しい有名Pだったためでもある。
そこにつけ込まれて『ジエンド騒動』が勃発した。スズム氏にカゲプロを取り巻く企業の黒い噂を囁かれたオワタPは、ソースも確認しないまま『ジエンド』を作り、あろうことかV♡25というニコニコの公式CD企画で投稿したのだ。その騒動についての詳細は陳述しないが、これ以降「有名だから」でついていたリスナーが離れていくことになった。 正義感に踊らされて、鬼に仕立て上げられた人の首を取りに行く荒らし行為は嫌いって自分が言ってたのにね。
第2フェーズ『ファンとの戦闘』
『カタリテ』〜『シュガーアンドサッカリン』
オワタPの承認欲求はやむことを知らない。ジエンド騒動から目に見えてファンの数を減らしたオワタPの、渇望と絶望が見える時期である。かわいいね。
この時期のオワタPはことあるごとに「飽きたらやめる」「来年も活動しているか分からない」と言っていた。承認欲求モンスターが評価されない状況に耐えられるはずがないため、発言の意図としては、辞められたくないならちゃんと推せよというファンへの脅しや、評価されないくらいなら活動を辞めた方がいいという自分への言い聞かせ辺りが考えられる。
そしてこの時期になって、ファン視点ではおかしなことが起こり始めた。
①お手紙紹介生の開始
2016年、イベントで貰ったファンレターをオワタPが読み上げてコメントする「お手紙紹介生(通称:公開処刑)」が始まった。今でも続くこの文化は『一方通行だったファンの言葉が受け取られ、返事として貰えた』最初の出来事であった。オワタPとしてはこの放送をきっかけとして、より多くのお手紙を貰おうとしたのかもしれない。ただ今日(2024年)まで続いている企画だということは、この形のコミュニケーションが双方にとって良いものであったに違いない。
②検索避けワードの看破
オワタPが最もエゴサーチを嗜んでいたのはこの時期である。本人にツイートで感想を届けるという意識がなかったリスナーたちは、検索避けを使って感想を言い合っていた。評価に飢えていたオワタPがそんなツイート群を見逃すはずがなく、次々に検索避けは見つかっていった。我々ファンが検索避けを開発し、オワタPがそれを探し、また新たな検索避けを作るというイタチごっこをしていたのである。
③生放送でキレる
オワタPがFRESH! by AbemaTVにてシムシティ実況をしていた話をする。当該生放送のコメントは荒れていた。どう荒れていたかと言うと、自分語りコメばかり残す人がいたのである。初めてオワタPが本気でキレた。
「なあさっきから何なんだよ、この放送は俺の放送なんだよ」
「俺が主役の配信だろ!自分を見て欲しいならお前がやれ、俺の視聴者は俺を見ろ!!」
「誰も見てないんだったらやめていいか?」
怖っ……。
普通に声のトーンがガチで、放送アーカイブは即消されてしまう。ひとしきりオワタPのガチギレに恐怖した我々は、正気に戻った後Twitterで大歓声を上げた。「ありがとう、我々が言えなかったこと、こういうのガツンと言えるオワタPが好きなんだ」と。このエピソードこそ、最もオワタPのメンヘラの素質を表現している。たった一度、我慢できずに視聴者の前で怒りを顕にした瞬間が『自分が見られていないと思った』ことであるためだ。
④シュガーアンドサッカリン
問題曲。
この曲は特定のリスナーに対して突きつけられた、と考えてもおかしくない歌詞をしている。この年にはリスナーもオワタPにツイートを見られていることが分かっているため、私たちのせいだと心を痛めて大声で泣いた。該当ツイートがこちら。
ここで『シュガーアンドサッカリン(2018/9/14)』の歌詞を見てみよう。
『誰も文句は言わせない 私のだからね』
『かつて生み出した世界 人は変わるホントね もう生み出せない世界 やめてそんな目で見ないで』
『君は落ち着いたね つまらなくなったね 良いか悪いかはわからないけど』
『君を好きな人たちを裏切らないでね』
歌詞の火力が高すぎる。
そしてシュガーアンドサッカリンを受けた当時のリスナーは、我々を数字でしか見ていなかったオワタPが完全に変わってしまったことを理解した。我々の感想は既に風の音ではなくなった。オワタP本人が、感想を受け取りにわざわざやってきて一喜一憂し始めたのである。
大丈夫、実はずっと好きだよ。
⑥ファンのオフ会に参加しようとする
オワタPは伝説のオフ会少年である。大学生の頃は10日連続でオフ会に参加していたヤバい人だ。彼はファンのオフ会を目敏く見つけ、あろうことか参加したいなという態度を取ってくるようになった。我々はシュガサカで敵認定されたんじゃないのか。流石に怖い。
この時期が終わる頃には我々ファンは検索避けをやめて積極的に「好き」を伝えるようになり、オワタPは隙を見てリスナーに接触してくるようになったのである。
第3フェーズ『ファンとの共闘』
『3分の曲を聴くのにかかる時間は3分』周辺〜
この時期には本格的にファンと交流を始める。pixivファンボックスを活用し、支援者(いわゆるファンクラブ)のリスナーと遊ぶようになった。2021年からはDiscordで支援者鯖の運営を開始するに至り、通話付きで遊んだり、Twitterには上げられない日常の裏話を共有したりするようになった。
いわゆる有料会員の特典である。
オワタPはこの支援者たちのことを『身内』と呼び始めた。頒布イベントで見た面白い人たちを晒しあげるツイートに関して「身内の人たちはピックアップに載せないようにしてる」と言った。支援者鯖は、気軽に感想を求められる場、作品を待つ人がいる場、お金を払ってまで彼の情報や時間を求める人がいる場である。それが承認欲求を満たす一助になったのか、第二フェーズにあったような絶望は見られなくなる。
あんなに飽きたらやめると言い、いつ引退してもおかしくなかったオワタPが、5年後の話をするようになった。ファンである我々に「本業が副業(ボカロP活動)に支障を来たしたら本業を辞めると言ってあります」と伝えるようになった。
オワタPが引退の危機を乗り越えたのだ。
こうして関わり方が随分変わったとはいえ、『自分を見てて欲しい』という中身は変わっていない。
リスナーが「セピアさんの配信が終わったら行きます」と言えば不貞腐れながら募集時間を変更するし、「空想庭園依存症ブートレグが!」と叫ぶリスナーがいれば「ボクと遊べば情緒回復するかなあ」と突発でゲーム企画を始めるような人である。
やっぱりオワタPは可愛い。
推しは構ってちゃんなくらいが丁度いいね。
それではこの辺で、しまいFaceTime!