【Vintage】Breachが流行っている理由考察
1.はじめに
《ウルザの物語》導入前のヴィンテージ環境ではメタ上位の一角だった『Breach』デッキでしたが、近年メタ上からめっきり姿を見なくなっていました。
しかし、ここひと月くらいで「MOでは今Breachが流行っている」という話を聞いたので、『なぜ今Breachが使われるようになったのか』の理由をいろいろと考えてみたいと思い、noteにまとめていきます。
2.そもそも何故Breachが居なくなったのか
自分が考える理由は二つあり、一つは「ウルザの物語」環境とのミスマッチ、もう一つは「白イニシアチブの台頭」です。
一つ目から見ていきます。
2.1《ウルザの物語》環境への適応
『Breach』の強みはなんといっても、そのコントロールデッキとしての強さです。
《意思の力》、《否定の力》、《紅蓮破》、《狼狽の嵐》…かなりの枚数スロットを割かれた各種カウンターで相手の動きを止め、デッキの名を関する《死の国からの脱出》によりアドバンテージを回復、あるいはそのまま《思考停止》+《Black Lotus》コンボにつなげて勝利します。
コンボパーツがアドバンテージ回復手段として使われる《死の国からの脱出》だったり、最強マナ加速カードの《Black Lotus》と、勝つためのフィニッシャー枠がそもそも必要スロットとして計上できるようなカードたちが多く、デッキの枠を節約できて妨害にその分のスロットを回せますし、それでいてコンボルートに入ったときの確実性も高いため、コントロールデッキとしてはかなりの完成度を持つアーキタイプと言えます。
そんな「Breach」の隆盛に陰りが見えたのは《ウルザの物語》の登場からでした。
環境初期こそコンボパーツである《Black Lotus》をサーチできる点、サブフィニッシャーとして《ウルザの物語》の構築物トークンを利用できるという相性の良さから、ウルザの物語環境にフィットできるデッキに見えた『Breach』でしたが、次第に《ウルザの物語》のカードパワーが想像を超えるほど強いことが判明したため、従来のデッキのサブプランとしての《ウルザの物語》を使うデッキを選択するという流れから、《ウルザの物語》を使うためのデッキはどれがベストか、というところへ環境研究が進んでいきます。
その結果プレイヤーのデッキ選択は
①《ウルザの物語》への最高の回答手段である《不毛の大地》をたくさん詰む
②攻めに特化して《ウルザの物語》のトークンによる圧殺が機能する前に勝つ
のいずれかを選ぶことになりました。
『Breach』は①②の条件をどちらも満たすことができず、環境にあふれる《ウルザの物語》デッキミラーというマッチアップになった場合、自慢の大量武装したカウンターは肝心の《ウルザの物語》に対しては打ち込むことができず、その上に自分の《ウルザの物語》は相手の《不毛の大地》によって一方的に対処されるため、多くの《ウルザの物語》デッキに不利な戦いを強いられる状況になった『Breach』は、ついには環境から姿を消すことになりました。
2.2 イニシアチブのもたらした変化
二つ目は『白イニシアチブ』の台頭です。
『統率者レジェンズ:バルダーズゲートの戦い』で登場したイニシアチブを持つクリーチャー達を駆使するデッキ『白イニシアチブ』は、登場するや瞬く間にその圧倒的な暴力によって、ヴィンテージ界のトップメタに食い込みました。
ヴィンテージの世界は、これまで『アーティファクト』『青いスペル』そして『墓地利用デッキ』、この三つの要素を主軸としたデッキが大多数を占める環境でしたが、そこに新たに割って入った『白イニシアチブ』は、その三つの要素をいずれも持たないデッキであり、それによってヴィンテージの世界に今までの価値観を変化させていくことになりました。
大きくその価値を変化させたカードといえば《紅蓮破》があげられるでしょう。
2020年ごろまでのヴィンテージは、今となってはおかしく感じるかもしれませんが、メインから当たり前のように《紅蓮破》が複数枚採用されており、それを誰もおかしいと思わないほど青の濃い環境でした。
当時でも主要なデッキである『アーティファクト』デッキや、『墓地利用』デッキに対しては《紅蓮破》の効果が薄かったですが、《紅蓮破》を採用しているデッキでは、サイドボードにそれらのデッキへの対策カードを大量に入れることで、対青デッキモード/対アーティファクトデッキモード/対墓地利用デッキモードと構成を大胆に切り替えることができ、そうした戦い方で環境のほとんどのデッキと渡り合うよう構成されていました。
しかし、ここに『白イニシアチブ』という、青も、アーティファクトも、墓地利用もしない第4のデッキが現れてしまったのです。
そうなっては今までと同じようなデッキの組み方では勝てなくなってしまいます。
青にしか効かない《紅蓮波》はデッキから抜けていき、その枠に普通の除去スペルをデッキに投入していくことになりました。
また、除去カードの選定についても『白イニシアチブ』の台頭は影響を与えています。
これまではタフネス3程度のクリーチャーが主体だったヴィンテージでしたが、『白イニシアチブ』のメインアタッカーたちは(ダンジョン補正込み)タフ4~6くらいになるクリーチャーたちで、しかも、これらは1~2ターン目に飛び出しては数ターンでゲームを終わらせていくほどのパワーがあります。
今までは《稲妻》や《削剝》で除去として十分な性能だった環境だったヴィンテージも、長期戦を見ていくデッキであれば、これらのクリーチャーを落とせるような除去を積んでいく必要が出てきました。
その場合、採用できるカードとしてピックアップされていくのは今までの火力ではなく、《致命的な一押し》《殺し》といった『黒除去』でした。
《紅蓮破》の不採用、火力呪文の信頼低下、これらにより、今まで(アーティファクト破壊スペルも多い都合上)サポートカラーとして第一順位の地位にあった『赤』は、その地位を降り、これ以降『黒』がサポートカラーとして第一順位に就き、それに伴いコントロールデッキも『Breach』から『UBルールス』などにとって代わられるようになりました。
3.なぜ今『Breach』が再び舞台に姿をあらわしたのか
ようやくの本題、ここからはなぜ『Braech』が復権したのかについて考えていきます。
3.1《ウルザの物語》制限
まず、一番大きい理由の一つは《ウルザの物語》の制限入りでしょう。
今までのヴィンテージ環境は《ウルザの物語》をいかに強く使えるか、ということに焦点がありましたが、これからは《ウルザの物語》に依存しない色々なデッキにチャンスが巡ってくることになりました。
『Braech』もそのデッキの一つになります。
3.2《紅蓮破》の再評価
《ウルザの物語》制限後、ヴィンテージ環境で頭一つ抜けたデッキが二つ存在しました。
『ジュエルショップ』と『ルールス』です。
どちらも《ウルザの物語》環境当時からトップ2に君臨しているデッキでしたが、制限後も以前とトップデッキとして君臨し続けました。
その内一方、『ルールス』の強さを支えたのが《超能力蛙》です。
《ウルザの物語》制限前は、その色拘束の厳しさからそこまでの威力を発揮していなかった《超能力蛙》でしたが、制限によって『色マナが出やすくなった』『フィニッシャーが欠けることになった』という二点を追い風に活躍し、環境トップを走るための動力となりました。
そこで、環境にあふれた《超能力蛙》の処理手段+青へのカウンターカードとして《紅蓮破》を採用する流れが再び戻ってきました。
3.3 パワーカードの採用
現在、トップメタを走る『ルールス』には、一つ大きな制約があります。
それは《夢の巣のルールス》を相棒に指定するデメリットとして、3マナ以上のカードを採用することができないというものです。
当然の前提といえばそうなのですが、これは『ルールス』とコントロールデッキとして競合する『Braech』にとって、かなり優位に立てる相違点になります。
具体例を挙げると《オークの弓使い》はドローカードに強力に作用しますが、相手がダメージもトークンサイズも気にせずそのターンで勝ち切るつもりで引こうとすれば、ドロー自体を制限することはありません。
しかし、ここを『3マナ』の《船殻破り》にすれば、ドローさせずゲームをコントロールし続けることができます。これは大きな違いです。
また、《ボーラスの城塞》を採用できることで《修繕》からの強力なフィニッシュルートを確保できることや、《ダク・フェイデン》のようなプレインズウォーカーが採用できるなどの点も小さくない違いでしょう。
しかし、メインボード以上に大きい差がでるのはサイドボード、《虚空うの力線》の採用可否だと思います。
《苛立たしいガラクタ》が存在した環境では、『ピッチヴァイン』『ドレッジ』といったピッチスペル軸のマナレス墓地利用デッキが大きく数を減らしていましたが、《苛立たしいガラクタ》制限により、これらのデッキが再びヴィンテージシーンに帰ってくることになりました。
と、なるとやはり欠かせないのは『墓地対策カード』で、中でも《虚空の力線》は強力な墓地対策カード代表として、登場時から長らく活躍し続けています。このカードを採用できるのとできないのとでは大きな違いがあるでしょう。
《魂標ランタン》《トーモッドの墓所》《イクスリッドの看守》《真髄の針》、『ドレッジ』に対抗するための手段は色々ありますが、「0ターン目」に「カウンターされず」「《虚ろな者》以外の勝ち手段を封じ続ける」というあまりに強力な《虚空の力線》の性能とは、《ルールス》で再利用できるメリットを組み込んだ上ですら、比べるべくもありません。
『ドレッジ』が復権した今、《虚空の力線》を積めるということは、『ルールス』ではなく『Braech』を手に取る大きなメリットとなりえるのではないでしょうか。
3.4 その他の小さな強み
独立して取り上げるほどではないですが、オマケで「ここいいな」というところも書いておきます。
①《水浸しの教え》
タップイン両面土地の青黒。タップインのデメリットはめちゃくちゃ痛いが、不要牌でありフィニッシュカードとして欠かせない《思考停止》を好きなタイミングで持ってこれる点、《紅蓮破》《致命的な一押し》《意思の力》などのカウンターをサーチしたり、やろうと思えば《吸血の教示者》経由で《死の国からの脱出》や《Black Lotus》をサーチできる有能スペルが土地枠で採用できるのがgood。数少ない更新ポイント。
②《記憶への放逐》が効かない
『ジュエルショップ』に刺さり、《狼狽の嵐》を無力化し、《タッサの信託者》での敗北を逆に勝利に変える有能スペルとして活躍中の《記憶への放逐》ですが、この『ブリーチ』にはほとんど効かないように見えます。
コンボスタートのための墓地を肥やすための最初の《思考停止》のストームを無効化するために打つくらいしか有効なポイントはなさそうで、それにしても《死の国からの脱出》を設置後に再キャストされることを考えるとかなり効果は薄そうだ。
③ダク・フェイデン採用
環境が少し低速化したからか、《ダク・フェイデン》が採用されている。
サイド後に《船殻破り》を除去しようと《アージェンタムのマスティコア》が飛び出してきたところをおいしくいただけるカードして活躍する可能性がある?訂正:マスティコアはプロテクション(多色)があるため対象にならなかったです。
主にルーティングによる手札の交換、《1つの指輪》のコントロール奪取、《船殻破り》設置後に相手ターゲットでハンデスなどの用途に使われるようです。
4.まとめ
ここまでいろいろと私なりに『Breach』が復権した理由を考察してきましたがいかがでしたか?(クソブログ特有の一文)
個人的には一過性のものではなく、『ルールス』と競合した上で採用できる「理」があるように思えました。
しかし、これからメタ上位であり続けるかどうかは『白イニシアチブ』や他のデッキとの兼ね合いにもよるのでわかりませんが、ヴィンテージのメタデッキのラインナップに多様性が出たのは良いことかなと感じています。
皆様のデッキ構築や選択の採用になれば幸いです。
謝辞
この記事を書く上で相談に乗って下さり、かなり参考になる意見をくださった友人、武漢さんに感謝を