精神的つまづき制限のその後

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 《精神的つまづき/Mental Misstep》(青/Φ) 
  インスタント
((青/Φ)は(青)でも2点のライフでも支払うことができる。)
 点数で見たマナ・コストが1の呪文1つを対象とし、それを打ち消す。


 1.初めに

 たった2点のライフを引き換えにするだけでマナを払わずして相手の呪文を打ち消すことができる。
 2011年5月に発売された「新たなるファイレクシア」に収録されたこの強力な呪文は半年も許されることなくレガシー環境で禁止となった。
 下の環境に行けば行くほど良質な低マナコストのカードの採用が増え、このカードで打ち消すことができる/打ち消したいカードが増えるためMtGのほとんどのカードが使えるレガシーという環境で許されなかったのは当然ともいえるかもしれない。

 だがそのレガシーよりもさらに使用可能なカードが広いヴィンテージ環境では2019年8月に制限されるまでの8年もの間様々なデッキで使われ続けた。

 この記事ではヴィンテージの風景の一部となっていたこのカードが制限によってどういう影響があったのかを考察していきたいと思う。

 2.制限前の環境について

 まずは8月30日に制限カード入りとなったその直前のメタゲームと精神的つまづき(MMs)の使用枚数を見てみよう。

制限前

(2019年7月1日~2019年8月30日のvintage challenge Top8のデッキタイプおよび精神的つまづき使用枚数およびデッキあたりの平均枚数)

 この時のヴィンテージ環境はモダンホライゾンに収録された《否定の力》、《活性の力》が加わりマナレスとして完成し頭一つ抜けたドレッジ

ドレッジ

 灯争大戦で《大いなる創造者、カーン》を、基本セットで《神秘の炉》を手に入れ、ドレッジとともに台風の目となったWorkshop

カーンフォージ


 《死儀礼のシャーマン》と《不毛の大地》によりドレッジに、《活性の力》とカウンター呪文によりWorkshopどちらにも対抗できるBUG(墓荒らし)が勢力を伸ばしていた。

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 また、それまでトップメタだった逆説的な結果デッキ(PO)が灯争大戦に収録された《覆いを割く者、ナーセット》によりドローを封じられ、さらに《大いなる創造者、カーン》や《活性の力》といった新たなヘイトカードの追加によりやや苦しい立場という環境だった。

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 さて、そんな情勢の中《精神的つまづき》はどのような役割だったかというとまずトップメタとして君臨するドレッジに不可欠なパーツだったことが挙げられるだろう。

 制限直前の2か月の間vintage challengeTOP8に入った17個のドレッジはそのすべてがマナレスドレッジであり、そこで使われた精神的つまづきの枚数は68枚、つまりすべてのデッキで4枚投入されていた。

 《否定の力》が加わったことにより守りを大きく強化することに成功したが《意思の力》とともにブルーカウントをかなりの枚数要求されるようになったこのデッキには《精神的つまづき》は苦手な《死儀礼のシャーマン》や《墓堀りの檻》への強力なアンチカードとして活躍できるだけでなくいつでも代替コストとして使用できるブルーカウントを安定させる要素としても大きく貢献した。

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 そんなトップメタのドレッジが《精神的つまづき》を4枚常備してくるのであれば対抗のデッキはどうするのが正解だろうか。
 
 1マナのカードを使わない?
 Workshopのようなデッキであればそれは正解であるだろう。しかしそれ以外の多くの「青いデッキ」は1マナのカードを使わずして強いデッキを構築をすることは非常に難しい。

 そうなると次に考えられるのはドレッジの使う《精神的つまづき》から《死儀礼のシャーマン》や《墓堀りの檻》を守るためこちらも《精神的つまづき》を使って対抗することになる。
 そう多くのプレイヤーが選択した結果、速度に特化したPO以外のすべての青いデッキで数多くの《精神的つまづき》が積まれることになり、ヴィンテージの青いデッキではこの《精神的つまづき》枠を抜いた枠で構築がなされるようになっていた。

 そして2019年8月30日、強くなりすぎたドレッジを弱体化するため、そして長い間ヴィンテージの数多くのデッキの固定枠となっていた(「税金」スロットとなっていた)《精神的つまづき》は遂に1枚制限リストに名を連ねることとなった。

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キャプチャ

 

3.制限後の環境について

 さて、次は制限リスト入りした後の環境を見てみよう。

制限後


(2019年10月1日~2019年11月30日のvintage challenge Top8およびplayoff top8のデッキタイプ)

 《ゴルガリの墓トロール》と《精神的つまづき》を失ったドレッジはやはり勢いを落とし、かわりに多種多様なデッキが多く出現したのが分かる。

 さて、皆さんはこのデッキの顔ぶれを見て気づいただろうか。デッキリストの多くは赤が入ったデッキだということを。そして前環境トップメタデッキだった墓荒らし(そう、赤くないデッキだ)が大きく数を減らしていることを。

 この原因はデッキリストの中身を見ることで判明した。

対比

(2019年10月1日~2019年11月30日のvintage challenge Top8およびplayoff top8のデッキタイプ別紅蓮破使用枚数および平均)


 《精神的つまづき》が制限により少なくなった枠に入り、大きく採用数を伸ばしたカードがある。それは《紅蓮破》だ。

 ヴィンテージの顔として挙げられるパワー9のうちの三枚が青のカードであることからもわかるようにヴィンテージでは青いカードが強く、青系統のデッキが多い。
 そして青いデッキとのマッチアップであれば《紅蓮破》があるというのは大きなアドバンテージになる。

 もちろん青くないデッキ相手には完全に無駄牌になってしまう《紅蓮破》をメインボードにいれてしまうのはリスクも大きいのではという懸念もあるだろう。
 しかし、そもそもこの《紅蓮破》が入る前のスロットは《精神的つまづき》であったことを考えるとそこまでリスクを負った選択でもない。
 例えば非青のデッキ代表であるWorkshop相手につまづきを打てる場所はメインボード戦では《太陽の指輪》くらいだ。呪文として考えた場合にはその差はほとんどないためメインボードに空いた穴に《紅蓮破》を追加したとしても相性差は制限前のデッキと比べ極端に悪くなってはいないだろう。

 このように考えたプレイヤーが《紅蓮破》を採用できる赤系のデッキを選択し、青いデッキ相手に優位を築いて結果を残していった。
 また、《紅蓮破》の当たらないエルドラージやDPSといったデッキが結果を残しているのもその強さの裏付けといえるかもしれない。(DPSに関しては《精神的つまづき》制限の影響も非常に大きい)


 4.終わりに(感想)
  長い間ヴィンテージ環境で飛び交っていた《精神的つまづき》の制限はヴィンテージの歴史の中でも一つの大きな変化点だと思っており、その前後でどのような影響があったのかに興味を持ち調べてみました。
 体感としてあった《紅蓮破》が増加して赤いデッキの地位が上がったことを裏付けとして形にできたこと、この機にPOが黒系から赤系になっていったこと、ドレッジが《暴露》型に戻っていったことや《紅蓮破》のみならず《稲妻》も数を大きく伸ばしていたことなどいろいろな発見があり調べていて面白かったです。
 こうやって当時の環境の背景やデッキの構造の変化を文字にすることは当時を知るプレイヤーには思い出として、知らない後のプレイヤーにも歴史として楽しんでもらえる読み物だと思うのでこれからも自分が体験してきた時代の気になる題材を取り上げていけたらいいなと思います。

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