自分の思いを伝えよう! 「話す力」は、世界に羽ばたく勇気をくれる
お話をうかがったのは……
武岡智子さん(一般社団法人HANASO Speech Academy代表理事)
小林恵子さん(同代表理事)
高橋みきさん(同理事、講師)
お三方は、子どもたちに話し方を教える「HANASO LAB(ハナソラボ)」の講師であり、フリーのアナウンサーとしても活躍されています。ハナソラボの話し方教室は、2018年の開講以来、口コミで評判が広がり、幼児から中学生まで、現在70名以上の生徒さんが在籍しています。オンラインクラスもあり、いろいろな地域から通ってくること、幼児から長年通っている生徒さんがいることも特徴の一つです。
スピーチやプレゼンに苦手意識を持っている子どもが多いと言われる日本で、子どもがにこにこ楽しく人前で話せるようになる、ハナソラボの秘密をうかがいました。
やる木族の「HANASO LAB」太鼓判ポイント
人にちゃんと伝わる話し方が身につく
論理的に考える力を育て、面接試験など、新型入試への対応力が身につく
レッスンを受ける中で学年や地域を越えたつながりができ、多様な考え方や表現方法に触れられる
先輩やる木族ヤマガタ(以下ヤマ) はぁ……。(深いため息)
見習いやる木族ミムラ(以下ミムラ) ヤマ先輩、どうしたんですか?
ヤマ 今度、新規プロジェクトのプレゼンがあってさ……。僕、プレゼンって昔から苦手なんだよ……。
ミムラ えぇぇぇ! ヤマ先輩、ぜんっぜんそんな風に見えないですよ。だってこの間のプレゼンでは、会議室を端から端まで颯爽と歩き回り、身振り手振り使って話してましたよね? まるでスティーブ・ジョブズみたいでしたよ。
ヤマ 苦手だから、プレゼンの時だけジョブズになるっていう技を編みだしたんだよ。
ミムラ ジョブズ憑依型プレゼン……。す、すごい……。
ヤマ それでも、人前で話すのが怖いっていう気持は消えないんだよ。本当は心から楽しんでプレゼンできたらいいのにと思ってる。
ミムラ 本日のゲスト「HANASO LAB(ハナソラボ)」さんは、子ども向け話し方教室を運営されています。ハナソラボの生徒さんには「しゅくだいやる気ペン」のCM制作にご協力いただきました。ハナソラボに通うと、人前で話すのが好きになると評判なんですよ。きっと、プレゼンを楽しむヒントを教えてもらえると思います!
「アナウンサーが教える話し方教室」って、どんなレッスンをするの?
HANASO LAB(以下、ハナソ) ヤマガタさん、ミムラさん、こんにちは~。
ヤマ・ミムラ ようこそ!
ハナソ 今日はよろしくお願いします! 私たち、話すのが好きすぎていつも喋りすぎるので、ストップ! ってちゃんと言ってくださいね。
ミムラ たくさんおうかがいしたいことがあるので、お喋り大歓迎です。さっそくですが、ハナソラボでは、どんなレッスンをするんですか? やっぱり、アナウンサーのように早口言葉とかを練習するんですかね?
ハナソ 「アナウンサーが教える」というと「発声練習」とか原稿を正確に読む訓練がメインだと思う方も多いですよね。でも、ハナソラボでは、それらは準備体操のようなもので、最初の15分ほどで終わります。残りの時間はすべて「自分で考え、言葉にして、発表する」ことに費やします。
ハナソ 発表課題は、毎月変えています。その時期の旬の題材や、子どもたちが興味を持って発言してくれそうなテーマを講師が探してきて、授業を作るんです。
ハナソ 同じ授業をすることはほとんどありません。長く通ってくれる子が多いので、飽きさせたくないんです。つねに内容をアップデートし続けるのは大変でもありますが、もともと流行のもの、新しいものが好きだというアナウンサーの取材力が活かされていると思います。
ハナソ 夏には隅田川の花火大会、秋にはハロウィンのお菓子づくりを題材にしました。11月は初めての試みとして「詩の暗唱コンクール」にも挑戦しました。
ヤマ 子どもたちが選んだ一番好きなレッスンが「プレゼンテーション」だとうかがって驚いています。
ヤマ 僕が小学生のころにも発表の授業はありましたが、ほとんどの子が嫌々やっているような雰囲気でした。どうしてハナソラボの生徒さんは、プレゼンが好きになれるんですか?
ハナソ ハナソラボには「アナウンサーになりたい!」という積極的な子もいますが、「話すのが苦手」「声が小さい」というお子さんもいます。そういうお子さんを心配して、親御さんが連れてこられるケースが多いです。ヤマさんのように「人前での発表がとにかく嫌い、怖い」という子ももちろんいます。
ハナソ でも、どんな子にも「自分の思い」というのはあるんですよね。だから、どのレッスンでも「自分の思いを自分の言葉でまとめること」に時間をかけるんです。
ハナソ 人にちゃんと伝えるには、ただきれいな発音で正確に原稿を読めばいいというわけではないと私たちは考えています。やっぱり、自分の頭で理解して、自分の言葉で伝える必要があるんですよね。この価値観は、私たちが「地方局」のアナウンサーとして、取材、編集という最初のところから報道の現場を見てきた中で培われたものだと思います。これだけのたくさんの思いが集まって番組ができている。だから、ちゃんと届けたいという思いを強く持っていました。
ハナソ 特産品を紹介するとき、たとえ2~3行の原稿であっても、そこには作り手の思いを感じられます。それをまずは自分の心で受け止め、どうすれば伝えられるか考え、自分の言葉で届けるということをやってきました。だから生徒さんにも、自分の言葉で話すことを何より大切にしてほしいと思うんです。
ハナソ でも、自分の思いを言葉にするってやっぱり大人でも難しいんですよね。だから私たちがサポートします。たとえば、好きな食べ物についての発表を子どもたちにしてもらうとき「ピザ」という一言しか出てこない子もいます。でも「ピザ」という言葉の中に、その子の思いがちゃんとたくさんある。
ハナソ 「ピザが好きなの? どんなピザ?」「上に何がのってるの?」「すてきだね! おいしそうだね!」「誰とそのピザを食べたの? その時どんなことを思ったの?」私たちは、いつも、子どもにたくさん質問します。大人も同じだと思いますが、人って、質問されてはじめて、自分の言葉が出てくることが多いですよね。アナウンサーは「インタビューしても何も話してくれない……どうしよう」という難しい仕事も経験しますから、腕の見せ所でもあります。
ハナソ 6歳を過ぎたころの子どもたちは、自分の頭の中にある思いや考えを、だいたい8割くらいは言語化することができる。十分な語彙があるんですよね。だから、必要なのは、アウトプットに慣れることなんです。自分の思いをみんなに聞いてもらって、ほめてもらえるから「話すのが楽しい」と思える。「発表って楽しい」という体験を積み重ねられることが、ハナソラボに通ってもらう意義だと思っています。
ハナソ 発表の様子は、親御さんにも見学してもらっていますが、お子さんが話す姿を見て、涙を流される方もいます。「うちの子がこんなに話せるとは思わなかった」って喜んでくださるんです。お子さんが一生懸命、自分の思いを伝えようとする姿って、ほんとうに人の心を打つんですよね。話し方教室をはじめて良かったと感じる瞬間でもあります。
自信が持てる「何か」を一緒に見つけよう
ミムラ ハナソラボのレッスンで特に大切にしていることは、「にこにこ笑顔」「しっかり目を見て」「大きな声ではきはきと」の3つだとうかがいました。この3つが大切なのはどうしてでしょうか。
ハナソ 身体の動きと、心って連動していると思うんです。笑顔で、背筋をぴんと伸ばしているときに、ぼそぼそ小さい声なんかで話せないんです。逆に、自信のある子は誰でも、笑顔で目を見て大きな声で話します。
ハナソ だから、私たちは「話せない子」なんていないと思っているんですよね。声が小さいのは自信がないだけ。不安がその子の声を小さくしてしまっているだけじゃないかと。
ハナソ だから、話す力の前に、子どもたちに自信をつけること、不安を取り除くことがやっぱり大事。先日も、幼児の頃から通っているある女の子の成長を見て、そのことにあらためて気づかされました。
ハナソ その子の親御さんは「この子は喋らない」「声が小さい」とすごく心配しておられました。でも、その子と話すうちに、お花が好きということがわかったんです。だからご家庭で「お花の図鑑」を作ることを提案しました。家族で一緒に散歩をして、見つけた花を調べ、スケッチブックに絵や写真を貼ってまとめ、自分だけの「お花の図鑑」を作ったんですよね。
ハナソ その子は、もうすぐスケッチブックがなくなりそうというところまで図鑑づくりを頑張りました。そして、みるみる大きな声で話せるようになっていったんです。「わたしの好きなものはお花です。いつもお父さん、お母さんと一緒に、お花の探検に行きます。いちばん好きな花はひまわりです。太陽に向かって咲くところが好きです!」と大きな声で元気よく発表してくれたときは、私たちもうれしくて胸がいっぱいになりました。
ミムラ いいお話です。大きな声が出せない子なんていない。大事なのは自信をつけることなんですね。
世界に羽ばたく子どもたちを育てたい!
ミムラ ハナソラボさんは「世界に羽ばたく子どもたちを育てる」ということも掲げておられます。「世界に羽ばたく」と聞くと、つい英語力を想像してしまいますが……。ハナソラボさんの考える「世界で通用する力」ってどんなものなのでしょうか?
ハナソ 「世界に通用する力」とは「自分の思いを伝える力」だと私たちは考えています。それは英語でも日本語でも同じ。まず、自分の思いに気づき、言語化して、伝える。それが、世界に羽ばたく力だと思うんです。
ハナソ 「HANASO LAB」の設立のきっかけは、小学校へ通いはじめた自分の子どもへの思いからでした。授業参観で、発表しても聞こえないほど小さな声で話す子どもたちを見て、ショックを受けたんです。
ハナソ インターナショナルスクールなどでは当たり前に取り入れられているスピーチやプレゼンといった「話し方」の教育が、日本の公立小学校には極端に不足していることにも気づきました。このままでは、子どもたちが社会に出たときに、コミュニケーションで困ることがあるのではないかと感じました。それで、アナウンサーのキャリアを活かして、話すことの楽しさと、伝えるスキルを子どもたちに教えたいと思いました。
ヤマ レッスンを見学させてもらいましたが、クラスメイトの発表を聞く子どもたちがみんな真剣で、ふざけたり、からかったりする子がひとりもいないというのも驚きました。先生にやらされているのではなく「発表がしたい」という思いを一人ひとり持っていると感じました。
ハナソ ちゃんと話を聞いて! と生徒に注意するようなことはほとんどないんです。みんながどうやったら楽しんでくれるか。そればかりを考えていたら、自然と今のような雰囲気になっていました。
ハナソ クラスは低学年と高学年に大まかに分かれていますが、かっこよく発表する年長のクラスメイトを見て「あんなふうに話したい」という憧れの気持が生まれることもあります。うまく発表できたときの達成感とか、ほめてもらえてうれしかった気持というのも、子どものやる気になりますよね。
子ども自身が「ちゃんとやりきって帰りたい」という姿勢でレッスンを受けてくれているのを私たちも感じています。私たち自身が子どもたちの発表を聞かせてもらうことを心から楽しんでいることもポイントなのかもしれません。
プロが教える、お家でできる「話し方」の練習
ミムラ 最後に、ご家庭でもできそうな「話す力」を身に着けるコツを教えていただけないでしょうか。
ハナソ 低学年のご家庭ではとにかく、親御さんと話すということが大事だと思います。やっぱり話す力のベースは家庭にあると思うんですよね。お母さんが「やばい」という言葉ばかり使っていると、お子さんも同じような表現になります。だから「やばい」で片づけずに「危うい」とか「困り果てている」など、いろいろな表現を、普段の会話の中で聞いて話すことが大事かなと思います。
ミムラ なるほど。あえて四字熟語を使ってみるのも良さそうですね。「お母さん今、怒髪衝天よ」とか。
ヤマ お母さんがそれ言ったら、めちゃくちゃ恐いし、絶対その四字熟語忘れないね(笑)。
ハナソ すごく良いと思います(笑)。アナウンサーって、その場にしっくりくる表現を、常日頃ストックするようにしているんです。「おいしくない」とか「汚い」とかストレートには言いづらい場面で「珍しい」とか「新しい」と言い換えてみる。人を傷つけない表現も、家庭での対話で学べると思います。
ハナソ プレゼンテーションの練習ということであれば、おじいちゃんやおばあちゃんへのビデオレターもおすすめです。「水族館へ行って、サメを見たよ。すごく大きくて近づいてきたときにドキドキしたよ」とか「クリスマスプレゼントのマフラーうれしかったよ。とくに、色が気に入ったよ」とか。何をどう伝えるかをちゃんと考えて話す練習になります。
ヤマ いきなりプレゼンを上手くやろうとするのではなく、普段の会話で、自分の思いを自分の言葉で人に伝えることを意識して話す。それが話すことへの自信と経験になっていくということですね。そうかぁ……僕もやってみます!
ミムラ ハナソラボさん、ありがとうございました。では、最後にヤマさん、締めの言葉をお願いします。
ヤマ それでは、大変僭越ながら……。「ハナソラボ」にやる木族の太鼓判、押させていただきます!
ハナソ 楽しかったです~。ありがとうございました!
(続く……)
取材・執筆 岡田寛子