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【7164】全国保証の企業診断

人気銘柄を一通りポートフォリオに組み込んで、マンネリ化している方に是非みてもらいたいのが【7164】全国保証です。良くも悪くも地味な事業を展開しているので知名度は低いのですが、実は隠れた優良銘柄です。ここ数ヶ月下落トレンドを形成しており、改めて妥当な価格帯を考えてみたいと思います。


カキノタネの結論

上場企業の中でも最高水準の利益率を誇り安定的な事業を展開しており安定感はトップクラス。現在はここ数年と比較して少し割高水準にあるように見えるが、事業の状況を紐解いてみると妥当な価格帯と見ることができる。市場の状況をみながら、現行の価格帯から購入を狙うのは投資妙味がある

全国保証の事業内容

事業ポートフォリオ

事業はただ一つ住宅ローン保証事業のみ。本事業を端的に説明すると、住宅ローン契約時にその債務を保証するサービスを提供しており、顧客は一定の割合の保証料を支払うことで、連帯保証人を立てる必要がなくなる。金融機関としても信用力の調査などの手続きが省略され、住宅ローンの手続きを滑らかにしている。

全国保証の財務諸表

【前提】収益の原資について

損益計算書や貸借対照表の理解を深めるために、収益の原資といくつかの会計項目について理解しておきたい。

全国保証は住宅ローン契約時に顧客から保証料を受け取り、この保証料が主な収益源となる。しかし、この保証料は一括で売上として計上するのではなく、下記のような流れで保証期間内で分割して計上されている。

  1. 保証料を受け取る

  2. 保証料を貸借対照表の前受収益という負債の科目に計上する

  3. 前受収益を保証期間で切り崩しながら分割して売上を立てる

このフローが意味するポイントとしては下記の通り。

  • 売上の原資は大部分が長年積み上げてきた保証料

  • 前受収益の残高から将来の具体的な売上予測ができる

  • 前受収益の残高増加が収益の成長を意味している

  • 前受収益と相関のある保証債務残高が事業のKPI

損益計算書

全ての四半期で前年、前四半期に対し増収・増益と安定感のある業績を実現している。さらに、全国保証は営業利益率75%超最終利益率50%超と素晴らしいビジネルモデルを確立しており、この数字もまた滅多にお目にかかれない。

2025年第2四半期の収益・EPSのハイライト

収益安定性に関しては素晴らしいが、一方で少し期間を伸ばして収益の推移を確認すると、成長率が急激に鈍化しており、持続成長性という観点からは懸念が残るが、現在課題解消に向けての取り組みを進めている(後述)。

貸借対照表

先述の通り、収益の原資は前受収益なので残高の推移を確認すると、残高は右肩上がりに推移しているものの、近年の増加率は収益鈍化の1年ほど前から鈍化し始めている。

その他の財務指標に関しては、前受収益が負債扱いなので自己資本比率が高くないように見えるが、無借金経営に近い非常に健全な財務を実現している。

キャッシュフロー

フリー・キャッシュフローに関しては2010年以降、常にプラスを維持しており差し当たって問題はなさそう。貸借対照表やキャッシュフローを見ていると、高収益率を維持することの大切さがよくわかるお手本のような経営と言える。

配当金・配当性向

財務が安定しているので、配当余力も十分。2025年3月期は197円を予想しており、予想配当利回りとしては3.5%を超えている。配当以外にも自社株買いにも積極的で株主にも顔を向けて経営をしていることがよくわかる。

全国保証の中期経営計画

前中期経営計画振り返り(FY20-22)

振り返りの説明資料を見つけることができなかったので、前中期経営計画の主要な部分だけ簡単に振り返りをしておくが、結論としては保証債務残高16.8兆円(+3兆円)目標に対して、15.9兆円(+2.1兆円)の着地で対目標比-30%と大幅な未達

23年3月期の目標は16.8億円
23年3月期の実績は15.9億円

おそらく21年、22年も計画から特に新規保証実行件数がビハインドしていたようだが、23年3月期に決算説明資料からは資材価格高騰や住宅価格の高騰などを背景に消費者の住宅購入意欲が低下しているという説明があり、これが計画から乖離した大きな理由のようだ。

新中期経営計画(FY23-25)

最新の中期経営計画の内容はどうか。大きく変わったポイントとしては、以前までの計画にはなかった積極的な投資姿勢が見られる。良くも悪くも投資は控えめで高収益率のビジネスモデルを手堅く継続している会社のイメージだったが、現状を打破すべく殻を破ろうとしている印象だ。内容の中核としては下記。

  • 従来通りの基幹事業を川中と表し、従来通りの成長戦略に加えて資本を活用したM&A戦略が加わっている

  • 川上、川下では従来とは全く異なるビジネスモデルを構築しようとしており、ここでも資本の活用に加えて、外部企業との積極的な連携を進める

また、このタイミングで急に投資に積極的になったのには二つの理由により資本の積み上げを優先していたためだ。

  • 保証ビジネスを進める上での必要資本が不足

  • 信用格付が格上げされるために資本が不足

これらの課題が解決されたため、必要資本に対する余剰資本を積極的に活用する新たな戦略に舵が切られた。また、この資本は成長のための投資だけでなく、増配(配当性向の引き上げ)の原資の役割も担っている。

代表取締役の異動

ちなみに、この新中期経営計画開始のタイミングで代表取締役の異動人事が行われた。新代表は全国保証で20年近く経営企画を中心にキャリアを積んでいる。新中期経営計画に関しても新代表から説明されている。

全国保証のリスク整理

全国保証はリスクマネジメントのフローを確立しており、既に主なリスクは整理されている。

細分化されて整理されているが、特に直近で注意すべきは中期経営計画の実現性、特に基幹事業の成長に関連するリスクである。基幹事業が盤石であれば、他の部分に多少問題があったとしても、即座にあるいは急激な株価下落や減配を引き起こす要因とはならないはず。

基幹事業成長リスク

過去数年の決算資料を読んでいると、特に住宅ローン需要が減少したタイミングで大きく成長が失速しているようだ。住宅ローンは単純に住宅に必要な金額が増えることにより需要が減少する。住宅に必要な金額は、物件価値の上昇建設費の上昇金利上昇など様々な外部要因の影響を受けるため、各項目注視しておきたい。

一方で現在は既存のオーガニック成長モデルだけでなく、M&Aや債権の証券を購入するなど、資本を積極的に活用し保証債務残高を積み上げるインオーガニック成長戦略も推進している。こちらは現在の住宅ローン需要に大きな影響は受けないため、リスクヘッジにもなっている。

全国保証の指標分析

PER推移

先述の通り近年は成長率が鈍化しており、PERが10から13のレンジを推移していた。そのため、ここ数ヶ月常にPERが13を超えている状況は、一見割高な印象を受ける。しかし、新中期経営計画の成長戦略により新たな形での成長の兆しが見えてきていることを踏まえると、少なくともPER10から13のレンジは抜けて然るべきなので現行の価格帯は妥当なラインと言える。

2020年以降のPER推移

配当利回り

配当に関しては成長中はもちろん、成長鈍化しながらも、配当性向を高めながら増配を続けている。また、先々の配当に関しても、利益成長および配当性向引き上げにより、243円までの大幅増配を計画している。この増配計画に関しては、仮に利益成長に失敗し現行のEPS419.08円が現状維持、配当性向50%までの引き上げのみの実現だとしても、2026年3月に配当は約210円に達する。配当性向の上昇は計画通りに進めてきた実績もあり、この数字は信頼できる。ビジネスモデルが堅く、累進配当を続けている銘柄であれば、約1年後の予想配当を利回り4%程度で確保できれば悪くない

新(2023-2025年度)中期経営計画の配当計画

全国保証の直近のチャート

8月のブラックマンデーで5,225円まで下落した後は、下値は切り上げながらトレンドラインが形成されつつある。

カキノタネの投資方針

  • 現行のPER13近辺は妥当

  • 配当は26年3月期の配当を堅めに予想し210円あたりを意識する(会社予想は243円)

  • 累進配当を続けている銘柄の1年後の配当は、利回り4%程度で投資妙味十分

以上から、5,250円(1年後の利回り4%超、PER12.5)あたりを理論的な底と考えるが、5,250円より上で形成されている直近のトレンドラインも無視できない。そのため、トレンドライン近辺(現在は5,350円程度)で目標ポジションの半分程度を買い、トレンドラインをブレイクするようであれば、5,250円あたりで残りの半分を買い増しする方針で進めたい。

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