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【8593】三菱HCキャピタルの企業診断

連続増配期間ランキング3位の【8593】三菱HCキャピタルを分析します。自明ではありましたが、連続増配25年は伊達ではなく超優良企業でした。しかしながら、ここ数ヶ月ほど株価は上にも下にも大きく動かず、私も含めて多くの投資家がヤキモキしているのではと推測しています。今回はこの原因の特定と現在のレンジを抜ける可能性を中心に分析していきたいと思います!


カキノタネの結論

超優良企業であることは間違いないが、コロナ禍という特殊なケースでは流石にリスクを読みきれず爆弾を抱えてしまっている。踏まえると1,000円の反発ラインはブレイクし952~972円程度まで底を探りにくる可能性は十分にあり、安全重視でこの水準を待ちたい。また、2月発表の第3四半期決算に関しては爆弾が残っているかを推測する上で重要な決算になりそうだ。

三菱HCキャピタルの事業内容

事業ポートフォリオ

三菱HCキャピタルは下記の7つのセグメントで事業ポートフォリオを組んでいる。

  • カスタマーソリューション(国内顧客・事業基盤)

  • 海外地域(海外顧客・事業基盤)

  • 環境エネルギー

  • 航空

  • モビリティ

  • 不動産

  • ロジスティクス

国内・海外それぞれで顧客・事業基盤から安定収益をあげることができる土台を整え、その土台に市況の影響を受けやすいが相応に収益性の高い5つの専門セグメントを乗せている。また、この5つのセグメントが市況の影響を同時・同程度に受けないような事業が選定されており、全体で見ると安定した事業ポートフォリオとなっている。
また、各セグメントではいくつかの事業を持っているが、基本的にはリース・レンタル等のファイナンス関連事業を中心に据え置き、クライアントのアセットの有効活用や処分、不動産投資など派生した事業も展開している。

三菱HCキャピタルの事業ポートフォリオ

リース事業のビジネスモデル

では、ベースとなるリースとはどのような事業なのか、財務諸表をチェックする前にビジネスモデルについておさらいしておきたい。

端的な説明としては、初期費用が高額な機械や設備などの物件をユーザーの代わりに購入し、その物件をユーザーに貸し出す対価としてリース料を受け取るモデルとなる。

リース事業のビジネスモデル

また、リース会社は物件の購入が先行し、後からリース料が少しずつ入ってくるモデルなので収益の原資は購入した物件と言える。そのため、リース会社は物件の資産残高を事業KPIに設定し各セグメントでこの指標を追っている。この指標が増加している限り増収基調は基本的には継続していくことになる。仮に新規の営業を完全にストップしても、資産残高が残っていれば収益は止まらず数年は収益をあげ続けることができる。

三菱HCキャピタルの財務諸表

損益計算書

近年は悪くない成長率で利益成長を続けていることがよくわかるが、2022/3月期からセグメント別の利益の推移を見ていると、安定収益基盤と謳っている海外地域セグメントが減益基調となっている。また、その減益分を補填しているのが航空セグメントの増益である。ただし、航空セグメントは市況の影響を受けやすいため、全体としては増益が続いているものの、内容としては安定感が低下しているようにみえる。
※2022年3月期からセグメントが見直されている

セグメント別の連結純利益の推移

貸借対照表

収益の源泉となる資産残高をみてみるが、こちらは着実に残高が積み上がっている。その他の指標も確認し財務の健全性についても判断していきたいが、三菱HCキャピタルはリース事業の競合の中でも高水準の格付けをキープしており、ここでは分析を割愛する。

セグメント別の資産残高の推移

配当

三菱HCキャピタルは25年連続増配の実績があり、これは連続増配期間のランキングで国内3位に位置付けており、各種メディアの高配当・増配特集では常連だ。当期に関しても配当40円と3円の増配を予定している。

2026年3月期までは配当性向40%以上の方針としているが、リーマンショック、コロナ禍などの厳しい局面でも増配を維持してきている実績から、よほど大きく経営が傾かない限りは当面は増配は継続すると考えて良さそうだ。

三菱HCキャピタルの配当・配当性向推移

三菱HCキャピタルの中期経営計画

中期経営計画の中でも特に重要なのが純利益1,600億円の部分。この数字が発表された直後に、市場は即座にこの数字を織り込み株価が急騰した。適正株価を算定する上でも重要な要素となるので、算定時にこの数字は深掘りたい(後述)

三菱HCキャピタルの中期経営計画骨子

セグメント別の事業戦略についても説明されているので、これらは頭に入れておきたい。特に安定収益基盤としているカスタマーソリューションと海外地域。海外地域セグメントの減益を大幅増益により支えている航空セグメントあたりは重要。

また、次世代のテーマに向けてもセグメント横断で取り組みを始めている。即座に株価や配当に大きな影響は与えないが、将来の収益源として長い目で進捗は追っていきたい。

三菱HCキャピタルのリスク整理

リスク管理のプロフェッショナルだけあり、盤石な体制でリスクマネジメントを行なっている。今回は、その中でいくつか整理しておくべきリスクをピックアップしたい。

信用リスク

リース事業ではリース契約を締結する際に、ユーザーが契約期間にリース料の支払いを継続できるかの審査を行う。審査時にあらゆるリスクを折りこむわけだが、景気動向や金融情勢が想定以上に変化することで、貸倒関連費用が発生する。
このリスクについて把握した上で、改めて海外地域セグメントの連続減益の事象を紐解きたい。

先に触れた通り、中期経営計画では海外地域セグメントは大幅増益を見込んでいるにも関わらず、同セグメントでは減益が続いている。資産残高が増加しているにも関わらず減益となっているのは下記のような一過性の損失が計上されているのが原因である。

  • 2023/3月期

    • 政策保有株式の評価損

    • 前期に計上した制作保有株式の大口売却益の剥落

  • 2024/3月期

    • コロナ禍で好況だった運送セクターの市況悪化を背景として貸倒関連費用が増加

    • 前期に欧州で計上した 有価証券評価益の剥落

さらに各論となるが、運送セクターの貸倒関連費用の増加は一過性の要因とは言い難い。この問題は、コロナ禍で好況だった運送セクターの市況悪化を背景としており、同時期のリース契約は同様の審査基準で契約をしている可能性が高い。すなわち、この時期に締結されたいくつかのリース契約は同等の信用リスクを負っていて、同様の問題が残っている可能性がある。実際、直近の2025年3月期の第2四半期決算でも同様の貸倒関連費用が計上されている。

具体的な原因は商用トラックの需要減少だったが、需要が回復に転じ始めていると説明がされている。しかし、コロナ禍の需要と比較するとまだ遠く及ばず、この課題に関しては楽観的に考えるべきではなさそうだ。

2025年3月期第2四半期決算説明資料

信用リスクに関する一例を掘り下げたが、審査時のリスクを見誤るとその契約が爆弾となり、数年先に同時多発的に被害を受けるようなケースがある。特に表面的な好景気により新規契約が急増しているシチュエーションでは、それらの契約が今後の爆弾にならないか警戒が必要だ。

金利変動リスク

世界各国で金利の調整が注目されているが、金利変動リスクについては限定的と考えて良さそうだ。リース事業では物件購入費用のための借入に対する金利は一部変動する形となる一方でリース料は固定なので、金利上昇局面では収益性が悪化する。一方で三菱HCキャピタルは国内・海外の売上や利益比率に極端な開きがないので、金利が上昇方向である国内と、下落方向である北米・欧州でバランスが取られ、影響を適度に打ち消しあうことが推測される。

為替変動リスク

同じく話題に事欠かない為替。こちらは連結決算で外貨建ての利益を円換算するときの計算に使用しているため、円高方向に為替が動くと、連結決算では海外であげた利益が小さく換算される。なお、現地で物件を購入する際は、外貨建てで物件購入資金を借り入れて、リース料も外貨が入ってくるため為替変動によりビジネスの実態に影響を与えない

三菱HCキャピタルの指標分析

株価

  • 2023年5月: 中期経営計画開示

    • 2026年3月期に利益1,600億円(EPS: 111.5円)の大幅増益を計画していることが示される

    • 市場はこの数字を織り込んで株価が推移し始めた

  • 2024年7月: 高値更新

    • さらに1,100辺りを高値にレンジを形成

  • 2024年11月: 第2四半期決算開示

    • 利益目標に対する進捗率の低下が嫌われ上値が重くなる展開

    • 一方で下値に関しては1,000あたりの反発ラインをキープ

PER

過去のPER推移としては概ね7~9あたりを中心に形成され、しばしば10を超えることもある。中期経営計画発表後に株価が1,100円あたりまであげたことを踏まえると、3年後の利益1,600億円を織り込んだ換算でおよそPER10あたりまであがったと見ることができる。しかし直近の業績不振からこの水準には戻れなくなっているようだ。

配当利回り

今期の予想配当は40円。また、中期経営計画を完遂した場合はEPSは111.5円、配当性向方針が40%なので、2026年3月期には46円の増配が見込める。現在の反発ラインである1,000円はちょうど4%は堅く、計画実現により4.6%が狙えるラインとなっている。

カキノタネの投資方針

ポイントとしては当期の利益予想1,350億円、来期の利益予想1,600億円の実現度をどのように考えるか

  • 2012年以降、利益予想を常に達成している超優良企業

  • 一方でコロナ禍という特殊な市況が起因した貸倒関連費用の発生を食い止めることができるのか

本来であれば過去の実績から目標が死守されることを前提に考えるべきだが、今回はあまりに原因が特殊なため、少し警戒して第3四半期の決算発表を確認してから判断するべきだ。決算発表前から買っていくとしたら、計画から下記の通り5%程度シビアに見積もっておきたい。

  • 26年3月期は目標未達で純利益は1,520億円(EPS: 106円)

  • 26年3月期のEPSを織り込んだPERで8.6がボトムライン

    • PERは成長率が鈍化すると一般的に低下するため同様に調整

  • EPSとPERから算出する株価のボトムラインは972円

  • 配当利回りは4.2%程度がボトムライン

    • 配当利回りも成長率が鈍化すると、上昇するため同様に調整

  • 当期の予定配当と配当利回りから952円

以上から、株価は1,000円の反発ラインをブレイクする余地があり、952~972円あたりまで底を探りにくるのを待ちたい。また、2月上旬の第3四半期決算で諸々のリスクが緩和されているようであれば、現在の1,000円の反発ラインをブレイクする可能性は大きく引き下がるので、現在の水準の株価でも投資妙味は十分だ。

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