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【初心者向けミリタリー】戦車の歴史あらかると/Panzer027【M10ブッカー軽戦闘車】

(全3,333文字)
皆さんこんにちは。

毎週木曜日の昼は、かけうどんの趣味の軍事・ミリタリーに関連する記事を投稿する時間にしております。

この『歴代戦車あらかると』シリーズでは、世界各国の歴代戦車を”単品”で取り上げてみたいと思います。

今回は『M10ブッカー/米』について書きたいと思います。

過去のミリタリー関連記事はこちらのマガジンにまとめています。

【M10ブッカー軽戦闘車】


1.概要

M10ブッカー戦闘車は、米GDLS(ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ)社が開発した、米陸軍向けの軽戦闘車両です。

「え?コレ戦車じゃないの?」と言われる方が多いのではないかと思いますが(笑)

見た目は戦車そのものなのですが…。

米陸軍では本車を戦車と言うカテゴリーではなく、『MPF/機動防護火力』と言う兵器として位置づけていて、敵戦車と正面から戦うためのものではなく、歩兵部隊に近い位置を着いて行きながら、敵の火点などを制圧する【火力支援任務】を行うための車両としています。

2.開発経緯

そもそも、MPF計画の前身となる『軽量コンパクトな火力支援車両の開発計画』は過去に何度も立ち上がっており、採用される寸前まで行っては延期または中止を繰り返してきたと言う経緯がありました。

最初にこの計画がスタートしたのはベトナム戦争です。

ベトナムは密林・ジャングルと言う地形的な特性があり、敵は本格的に戦車を投入して来ないだろうとの予想から、主力戦車の出番はないとされ、米軍は歩兵部隊の火力支援にM551シェリダン空挺戦車を運用していました。

そもそも、空挺部隊の火力支援用として、緊急展開用に開発されたM551。場面によっては、火力、機動力、装甲防護力、いわゆる戦車の3大要素の全てにおいて不十分なのは否めず、その後継装備を望む声が高まります。

しかしながら、空輸を前提とした軽量戦闘車両の開発は、【小・中型輸送機でも運べる軽量小型コンパクト】と言うコンセプトと、【撃たれてもやられず撃っても強い】と言う相反する性格を両立させることが難問でもあり、なかなか形にするのが難しい。

1992年にやっとM8AGSとして採用されようとしていた新軽戦闘車は、冷戦の崩壊とともに大幅に陸軍の予算が削減されたことから撤回となり、あえなく計画は中止されます。

そして、2000年代はテロとの戦いが始まりますが、歩兵部隊にはどうしても火力支援車両が必要なことは変わらず、苦肉の策ではありましたが、M1128ストライカーMGSをもってこの手の火力支援任務用の車両として運用することが決まります。

アフガニスタンではある程度の成果があったとされるものの、ストライカーは、もともとはタイヤ式の装甲車です。

エスカレートする敵の火力の増大に対して、装甲防護力を向上させるだけのキャパシティーが圧倒的に不足していました。

重量増加と言う問題改善のため、仮にエンジン出力を上げても、駆動方式がタイヤなので根本的に機動力に限界がありました。また、ストライカーMGSは、自動装てん式のメカ部が良く故障すると言う泣き所も…。

これらの教訓をもとに、新しい軽戦闘車には、主砲の威力はそのままに、武装システム全体での軽量化が必要との結論を得ます。

緊急展開のためには、輸送機での空輸が最も早い輸送手段になるものの、MPF計画では技術的制約事項などを考慮して、あえて重量制限にこだわらなかったことから、現状の戦場環境に最低限耐え得る火力支援用の軽戦闘車両の形が具体化されたことになります。

3.構造・機能など

(1)基本スペック

★主武装:M35/105mm戦車砲
★速度:72km/h
★馬力:約1,000馬力
★行動力:400km~560km

(2)走・攻・守

★走:時速72km/hと、軽戦闘車の名に恥じない高機動力。
★攻:改良型の軽量105mm砲を搭載。
★守:さすがに軽戦闘車なので、耐えれるのは小火器程度と思われますが、駆動方式がキャタピラなので拡張性はある程度期待できます。

(補足)主砲の口径は105mm砲ですが、これは、M8AGS用に開発された低反動の砲を改良したもので、M60戦車やM1エイブラムスの初期型が搭載していた戦車砲よりも、約1トン弱(800kg)軽量化されたものが搭載されています。

4.運用など

さすがに新しい装備なので、実戦でどうだったなどの情報はまだありません。ただ言えることがあるとすれば、ですが、陸戦の主役になる歩兵と密接な連携を取りつつ火力支援できる軽戦闘車の存在は不可欠です。

かつて、冷戦崩壊後に米国が最優先で取り組んだのは、ストライカー旅団のような、緊急展開ができ、かつ、デジタル技術で高度にネットワーク化された、機動力と指揮統制能力に特化した戦闘部隊でした。

ですが、ゲリラなどが軽易に使用できる対戦車火器に、それら軽装甲部隊はとても弱い。イラクなどでは、M1エイブラムスが支援にかけつけた瞬間、敵は大人しくなるか撤退して行ったとの戦例も少なくありません。

また、カナダ陸軍は主力戦車は廃止する方向で話が進んでいましたが、アフガンであまりにも軽装甲部隊のダメージが大きかったことから、退役間際のレオパルト1を急遽導入して輸送任務などに使ったところ、敵は「さすがに戦車はムリ!」となって、レオパルト1と言う老兵が大活躍した例もありました。

然るに、戦場では、まだまだ戦車(またはそれに準ずる装備)は必要だったと言うのが近年の戦闘例からもうかがい知ることができます。

余談になりますが、M10を動かすためには、乗員が必要です。そして、その乗員は主力戦車を運用するための戦闘員としてもスイッチができる。これにはかなり大きな意味があると思います。戦車部隊を廃止するのは簡単ですが、それは最も重要な、戦車の運用に欠かせない『人』も失うことにもなる。M10を維持することで、いざと言う時に慌てて乗員を訓練する必要がないと言うメリットもあるのかなと思うところです。

5.最後に…

米陸軍はM10を戦車ではないと明確にコメントしていますが、その役割や運用方法は、第二次世界大戦当時の英国における『歩兵戦車』ぽくも感じます。(というか、そのまんま?)

そもそも、戦場に初めて戦車が投入された当時の戦いは、戦車vs戦車ではなく、塹壕戦による膠着状態を打破し終結させるのが目的でした。

その戦車の生みの親である英国が出した答えの一つが、火力と防護力重視の戦車(機動力は二の次)と、機動力重視(火力と防護力には目をつむる…)の2系統の戦車を運用すること。さすがに、『帯に短し・たすきに長し』のような場面も少なからず発生したりもしましたが、陸戦兵器は重量とサイズ:機動力と言う関係が永遠のテーマでもあり、その二つの要素はどこに焦点を置くかがカギとなるトレードオフの関係にあります。

歩兵に着かず離れずの距離で、歩兵の前進に着いて行けるだけの機動力(要はそんなに速度はいらない)があって、敵の機関銃陣地などを制圧できる火力支援が可能な戦車のことを、歩兵戦車と呼んでいました。

米軍のM1エイブラムスは、『最強戦車の一角』だと仰る方が少なくないかも知れません。

ですが、歩兵は戦場に欠かせないけれど敵の火力に弱い。そんな歩兵部隊を敵の火力から直接防護するのもまた、戦車(又はそれに準ずる装備)が欠かせない。これは事実だと思います。

近年の戦場では、UAV、特に、小型ドローンの脅威が叫ばれつつもありますが、いずれそれらは本格的な対抗装備が導入されるのは間違いないことから、【重戦力不要論】のような偏った意見については、一時的なものではないかと個人的には思います。

少なくとも、戦場から戦車は完全に消えることはなく、むしろ、今まで以上に多様な任務を求められるプラットフォームとしての役割が増大してゆくのではないかとも予想してます。



毎度のことながら、なにしろ素人が書いている記事です。諸所分かりにくいところもあるかと思いますがどうかご容赦ください。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。



オマケ:M10の名前である『ブッカー』は、実在した有名な米陸軍兵士の名前に由来しています。

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