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【初心者向けミリタリー】戦車の歴史あらかると/Panzer016【M60戦車】

(本文約2,500文字/付録約1,500文字)
皆さんおはようございます。
毎週木曜日は、かけうどんの趣味の軍事・ミリタリーに関連する記事を投稿する日にしています。

この『歴代戦車あらかると』シリーズでは、世界各国の歴代戦車を”単品”で取り上げてみたいと思います。

今回は米国製『M60戦車』について書きたいと思います。

好きな戦車の中の一つなので、つい文字数がかさみましたが、本編は二千数百に抑えました(笑)

過去のミリタリー関連記事はこちらのマガジンにまとめています。

【M60戦車】


1.概要

M60パットンは米国製の第2世代戦車です。

前身となるM48戦車の更にその前、M46戦車に始まるシリーズの発展型になります。M60そのものは、M48の火力と機動力を改良したタイプのもので、細かい違いはありますが、ほぼ同じ戦車です。

よく『パットン』との愛称で呼ばれることの多い戦車で、米国製戦車と言えば、このパットンシリーズとM4シャーマンが有名な戦車の代名詞的に扱われることが多いのですが、この『パットン』という愛称はオフィシャルに認められている名称ではないようですね。

旧ソ連製の主力戦車T-55/54の登場により、米陸軍は1956年から新型戦車の開発をスタートします。

と、言えば聞こえは良いのですが、実質的には本命となる更に後継の『新型戦車』が配備されるまでの『中継ぎ投手』的な戦車でした。

ただ、ここで一つ、大きな問題が発生します。

旧西ドイツと共同開発を計画していた『MBT70計画』の中止です。

めざそうとした志は果てしなく高かったのですが、米国とドイツ両国の意見に折り合いがつかず、度重なる仕様変更などにより開発費が増加の一途をたどり、幻のスーパーTANKは正式採用に至らず、結局新戦車開発は米国とドイツそれぞれ独自に行う方向に。

「こりゃアカン!とりあえずM60改造して、しのぐしかねぇべ!」

となり、M60系戦車は予定よりも長い期間使われることになります。

改良型を含めてかなりの台数が生産された本車でしたが、その数は約2万両を超えるとされます。

米国以外の各国陸軍にも供与・輸出され、結果的には西側各国の主力戦車的位置付けで使用されました。

米軍では1991年の湾岸戦争まで実戦で使用され、その後も改修を重ねて在籍している古株戦士です。

いかんせん、基本設計が古いため、電子機器や防護力を向上させる追加オプションなどを装着することで延命措置が図られたモデルが世界各国に存在していて、いまだ現役選手でもあります。

2.構造・機能など

(1)構造機能

M60は、ほぼM48なのですが、唯一外見上の違いとして見て取れるのが車体前面装甲の部分。M48が丸みをおびた鋳造型だったのに対し、M60では角ばった鍛造溶接装甲になっています。また、各部材にアルミ合金などを使うことで軽量化を図るなどの工夫も。

M48まで丸みのある、ちょっと『かわいらしい』形をした砲塔でしたが、M60A1型からは、『ニードル・ノーズ』または『ロング・ノーズ』と言う特徴的な尖った形の砲塔に変更されています。

中東戦争で捕獲したT62戦車を徹底分析した結果、必ずしも旧ソ連製戦車に比べてM60が劣っていないということが分かります。

T62よりも車高が1mほど高いM60は被弾面積がT62に劣るとされていたところ、砲塔形状(正確には内部容積)から主砲の角度を上下にふる幅が旧ソ連製戦車よりも広くとれ、その結果地形を利用した射撃が可能であったことから、車体を地形に隠して主砲を撃つといった戦法がとれる。つまるところ、砂漠のように見通しのきく戦場ではかなりこの戦い方が有効だったとも言われています。

(2)火力など

M48戦車まで主砲は90mm戦車砲を搭載していたところ、旧ソ連がT-55を発表したことを受け、英国製L7A1ー105mm戦車砲に換装して火力を大幅に向上させています。

(3)機動力

第二次世界大戦で活躍したM4シャーマンをはじめ、米国製の戦車はそれまでガソリンエンジンを搭載していましたが、ガソリンエンジンは多くの実戦経験から安全面に問題があることがわかっていたため、ディーゼルエンジンに路線を変更しています。

3.運用実績など

ベトナム戦争が勃発した当時、既にM60戦車は稼働状態にありましたが、実はベトナム戦争には投入されていません。

ベトナムと言う国の地形・気象が大規模な機甲戦闘力の展開や運用に制限があったこと、敵側が本格的に戦車を運用してこなかったことなどが背景としてあったのかと予想されます。

よって、当時はもっぱらM60はヨーロッパ正面に重点的に配備されており、M1エイブラムスが導入されるまでの間は、THEアメリカ戦車=M60みたいになってもいました。

1970年代、大規模な近代化改修によって、FCS(射撃管制装置)を一新したM60A3にアップデートが図られていて、後継の新戦車M1エイブラムスが配備されてからも、1990年代まで現役選手として活躍しています。

海兵隊仕様の車体には爆発反応装甲を装着したタイプも運用されています。

もはや原型が何かわからないような気もします(汗)

湾岸戦争頃までM60はアップデートを繰り返しつつ運用されていますが、現在ではほとんどが退役しています。(全部ではないようです)

M60にまつわる特異な戦例として、第四次中東戦争などでは、M60同士の交戦記録が残されています。

さすがに21世紀に入りますと、世界各国陸軍が装備していたM60は徐々に退役していっていますが、いまだ世界20か国で約6,000両あまりのM60が稼働状態にあります。

先進国でも戦車を独自に設計・開発し、製造できる国って実はそんなになくて、既に完成されたものを輸入している国も少なくありませんが、M60はそんな中において信頼性の高い兵器としての地位が築かれている証左かもしれません。

4.最後に

この記事を書いてみて、改めて感じたことがあるとすれば。

米国陸軍史のなかで、戦車開発が決して平坦な道のりではなかったということでしょうか。

とかく米国と言えば強大な軍事力を持つスーパーパワーとして見られがちですが、陸軍の主力装備となる戦車開発の歴史は、常に旧ソ連と言う巨大な敵と対決することを前提に考えられてきたからかも知れません。

毎度のことながら、なにしろ素人が書いている記事です。諸所分かりにくいところもあるかと思いますがどうかご容赦ください。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

おまけ

いつも軍事記事は2千文字~3千文字あたりを目安に書いていますが、以下の内容を含めると4千文字を優に超えるため、付録といたしました。専門的なサイトを覗けばもっと詳しい情報が出てきますので、あまり詳しい解説はしないよう、ざっくりした説明にとどめています。非常にバリエーション車体が多い本車ですが、およそ13種類に分類されます。

①XM68/XM60:105mm砲に換装したM48砲塔を新型車体に搭載した試作車輛

②M60:M48と同様の亀甲型砲塔を搭載した基本的なタイプ。1959年から生産を開始し、1,080両製造。また、M48から230両あまりが改修されてM60になっている。

③M60E1:M60に新設計の砲塔を搭載した試作車。車体部にも改造がくわえられ、M60A1として正式採用されたものが量産化。

④M60A1E:M60に新型砲塔と152mmガンランチャーを搭載した発展型試作車。後にM60A1E2を経てM60A1になる。

⑤M60A1E4:MBT70計画で生み出された新技術のうち、兵装と遠隔操縦装置のテストベットとしてM60車体を応用した試作車。

⑥M60A1:旧ソ連製T62に対抗するため、砲塔形状を亀甲型から避弾軽視を重視した形状かつ装甲厚のものに換装したタイプ。サスペンションやFCS、操縦装置などが改修されている。1962年以降、M60戦車の主力タイプとして大量生産された。

⑦M60A1ーAOS:1972年、砲に新型安定装置を装着した改良型

⑧M60A1E2:M60A2の原型となったタイプの車体。

⑨M60A1E3:M60A1E2の砲塔にガンランチャーではなく105mmライフル砲を搭載した試作車。ガンランチャーの開発過程でトラブルが多発していたことから、従来型の信頼性の高い戦車砲タイプが保険として試作されていたもの。最終的にガンランチャーシステムに問題なしとの判断から、戦車砲塔型は量産はされていない。後のM60A3開発時に本車データは生かされることになる。

⑩M60A1ーRISE:M60A1に近代化改修を施したタイプ。1970年代に約5,000両がA1型から改修されている。米海兵隊に配備された車両はイスラエル製ERA(爆発反応装甲)を装備し、湾岸戦争にも投入されている。

⑪M60A2:1970年に正式採用されたタイプ。1961年に開発がスタートしていたが、砲発射型ミサイルの開発に問題が発生するなど、期待されていた新型砲塔の搭載が見送られ、最終的に従来型のライフル砲となるなど、難産につぐ難産によって誕生した経緯がある。M60A1E3の開発やMBT70戦車の仕様導入など、新戦車の試作検討ともあいまって、この時期の米国における戦車開発系統図は非常にややこしく複雑なものになっている。1975年以降に配備が開始されたが、行進間射撃ができなかったことや、ミサイルの価格が非常に高かったこと、整備性の問題などを理由に、生産数は526両にとどまっている。1981年には運用が中止され、比較的短命におわった。様々な技術的挑戦が盛り込まれたが、あまありにも先進的すぎたことからコストが跳ね上がり、運用も非常に難しかったため、『宇宙船』と呼ばれていたのだとか…。

⑫M60A3:1978年量産が開始された、M60A1の近代化改修型。FCSの改修などが主なメニュー。外見上の違いは、砲身に装着された耐熱被筒、大型化した砲手用間接照準器など。また、サーチライトが小型化している。合計で約1,700両あまりが生産されたほか、M60A1型から2,100両がA3仕様に改修されている。米陸軍のほか、台湾陸軍やイスラエル国防軍などで運用されている。(米海兵隊はM60A3は導入せず、M60A1を改修しA3相当として運用)

⑬M60A3ーTTS:夜間照準用装置を熱線映像装置に換装したタイプ。この形式の車体からサーチライトが撤去されている。現在ごく少数運用されている車両は、このTTS型が多くを占める。


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