それでも伝えていかなければいけない事がある|舞台『反応工程』
2021年7月に新国立劇場 小劇場で舞台『反応工程』を観て来ました。
終戦末期の軍需工場を舞台にした群像劇で脚本、演出、演者さん、美術に音と、本当にすべてが素晴らしかったです。
1945年8月を懸命に生きた人々の記録
新国立劇場による全キャスト・フルオーディションということで皆さん、本当に役にぴったり!
前半戦は軍需工場での活き活きとした彼らの日常が丁寧に描かれています。だからこそ、一人ずつ日常から引き剥がされていく姿が本当に辛い。
こんなに彼らのことを好きになったのに・・・辞めて!観客のライフはもうゼロよ!
主人公の軍需工場で働く模範学徒・田宮さんは戦時下でも、しっかりと自分の意見を"言う"男の子。
それなのにクリティカルな場面で田宮さんは"言わない"ことを選ぶんです。その姿にひどく胸が締め付けられます。
しかし、田宮さん学徒たちと対比して描かれる"言わない"大人。あらゆる事を飲み下す彼らを責められるか。
これは観る人の状況や姿勢によっても、意見が変わる所だと思います。同じ人でも10代、40代と観た時で、きっと感じ方が変わるはず。
自分は大人たちの行動も、1つの選択として肯定はするけど、まだ青い所もあって賛成は出来なくて。
不本意だとしても、何か選ぶのであればちゃんと責任は負って欲しい。でも本来、"責任"とセットであるはずの"権利"は彼らの元にないんです。
彼らは決して"運命に翻弄された"訳ではなく、もっと別の人間たちの都合で振り回されているようにみえます。
それを承知した上で、1人1人が何を選び、どう懸命に生きたかが描かれた作品でした。
書かれた時代に思い馳せる
戯曲「反応工程」は戦争経験者である作家・宮本研さんによって描かれました。
1945年当時、きっと当たり前にあったたくさんの方々の物語のはずで。そのバラバラの欠片をつなぎ合わせて、一つの形にして、伝えねばならない、残さなければならない、といった意思のようなものを感じました。
普段、演劇や戦争の題材にした作品をご覧にならない方でも、きっと刺さるものがあった舞台だと思います。
暗澹とした状況の中でも、光を見出す人間の力強さに胸を打たれ、それでも舞台の最後・・・決定的な事実を告げるあの最後の台詞が、鉛のように心の中に落ちていきました。
すごかった。圧倒的でした。
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