563 83歳の日々
(38)自明の理に笑う
いやはや飛んだ一幕!派手派手しいチラシが目に入った。
言わずとしれた出張買い取り。東海北陸63店舗展開中の中に、いつも行くスーパーの名前も入っていた。
実はと言うと、コロナのあたりから、お茶会に行くこともぷつりと途絶え、着物を着ることもトンとご無沙汰。
帯の結び方差へ危なくなって、病気もして、無理だし。
着物については、自分で買ったのは、まず何より身の丈に合う、サイズの十分なもの。手が長いので、古い着物はどんなに上質なものでも、裄が短い。お茶会などでお辞儀をする時両手をつく、その手首がにゅっと出てるようじゃ艶消し。
母、叔母、友人、親類等から、生地の良いもの、柄行の良い着物もたくさんもらっていたのだが、なんせ、きちんとした場所に着て行けるものが少ない。
歌舞伎を見に行くとか、展覧会とか、人と合うときとか、個人的な場合は、ちょっとしたコツを使って、そこそこしのいで十分だったが、お茶会はいけません。
ご亭主に敬意を払うことと、客ぶりのいいかたと並んでいては、袖口からにゅっと!では、お話にならない。
そんなこんなで、間に合うものだけを残し、あとは処分しようとしていたところにグッドタイミング、なんとか着物を活かしてくれるところに回したいと考えていたけど、なかなか現実にならない。チラシに目が止まった!
この夏のクサクサした酷暑で、いい加減気分が混乱していたのを、さっぱりしたくなった。
当てにしていた人はとんでもなく忙しそうだし、ま、いいか、半分だけでも試しに、取りに来てもらおうと電話する。
商売繁盛らしく、約束取り付けるのもやっと、時間はなんだかだと伸ばされて、全て最悪の成り行きを覚悟したところにピンポン!ご飯も食べず風呂も入れず、さて、どうすべえと、疲れたところに現れた男性。
にこやかで、どうにも憎めない!
あなたご飯食べた?いやまだです。腹が減っては戦はできないよ、大丈夫?覚悟を決めてる私は悠々。二階の着物部屋に招じる。
今回とりあえず不要の物を20数枚と、帯など。
若い男性の開口一番台詞が面白い。鑑定士曰く、
安いんですよ!一枚100円にもならなくて、怒るお客さんもいるんです。古いのは小さくて、今いるのは外国人も含めて、丈の長いものが欲しいのです。出して並べてもらっても、ほんとにいいものにしか値段はつきません。
分かってるって!高く取ってもらうなど始めから思ってないよ。
しかし私は笑って言った。
(これが初めてだから、勉強するわね。今どきの着物事情。これからの人に教えてあげるつもりだから。証拠写真も撮らせてよ)
高く取らないと怒る人では毛頭ないとわかり、青年は真面目に仕事をこなし、説明も惜しまなかった。
一枚一枚布を調べ、すれて薄くなったところがあるものでも、いいものに区分していた。
2
つの山ができて、半分は引き取れないウール、半分はみんなで、500円?!
吹き出してしまった私!商売って、凄いなあ。鑑定士のお兄さんも、そうなんですよ!と安心して、500円玉一つ私の手のひらに置く。肩の力を抜いて、書類作り。
マイナカードで身分証明。
本社と電話のやり取りで、社員がきちんと説明したかどうかを確かめてくる。
はいはい、聞きましたよ、ちゃんと500円貰いましたよ。もうこの方夕ご飯にありつけます?私も今からご飯頂きますね!
電話の向こうは、かすかな笑い声?
良いも悪いも、さっさとゴミに出せばいいのかなあ?古い良きもの活かす技量を持ち合わせないと、なんだか無惨。込みで500円のあの着物たちの行くすえはどんなだろう?!