
【Punctuation】SHOI:宇宙人という自己像、物事の本質を追求する旅
ずっと遠回りをしていたのかもしれない。本当は絵を描きたかった──そんな言葉を語るSHOIは1993年生まれ、群馬県邑楽町出身。2015年頃から描き始めた「超人」という宇宙人を通じ、「物事の本質」を追求している。かつては周囲からの美術の勧めに背を向けていたが、今では作品を描きながら自己表現を深め、自身の宇宙観や哲学を表現するように。
Instagram : https://www.instagram.com/motherwasshoi/
1. 生い立ち
-簡単に自己紹介を。
群馬県邑楽町出身。兄と弟がいて、3人兄弟。弟は共通の知り合いもいて、わりと仲良いと思う。
兄貴とは10年くらい話さない時期があったけど、20歳のときに俺から和解しに行って、今は年上の友達って感じかな。
あと家族の話だと、兄弟全員が楽器を弾けるね。父親が昔バンドでギターをやってた影響もあると思う。父親は今もたまに家でギター弾いてるよ。
-周りの人からどういう人だと言われる?
んー、「変」とは言われるけど、いききってるわけではないし、ぶっとんでもないと思う。いききりたいよね。関係とかバランスも見ながら。
-どういう子供だった?
小学校の頃はお調子者だったけど、中学からは落ち着いてた。目立たないようにしてたね。中学の頃から先輩と後輩、教師と生徒みたいな上下の関係、縦の社会が鬱陶しかった。
あと、なるべく一人でいたいタイプだったね。学校終わりにみんな遊びに誘ってくれるんだけど、わざわざ断って家に帰ってた。
教育テレビを見て、寝て、夜中に遊びにいく感じかな。教育テレビってちょっとシュールでいいよね。子供のふりして大人に刺してくる感じがすっごい好き。
そういえば、中学の頃にてっちゃんってやつがいて、絵も野球も上手くて勉強もできて、人生でめちゃくちゃ徳を積んだ人な感じで。
でも、表にそういう一面を出さないんだよね。普段はおとなしくて、「俺これできるぜ!」みたいな感じじゃない。そいつと絵描いたり楽器弾いたりしてた。てっちゃん、かっこいいんだよね。
-てっちゃん会ってみたいなぁ(笑)
てっちゃんは中学卒業してから遊んでないね。今でも時々連絡はとるけど、ロケットの切り離しみたいに離れていったね(笑)。飛んでった。
高校から、一見静かなやつのほうがおもしろいって気づき始めて。学校で目立つやつって、全部表に出すじゃん。テンションだけじゃん。
でも、センスのある人って表に出さない、内に秘めたものがあるよね。そういうやつは技術をもってたりするから、一緒に漫画とか描き始めて、文化系の遊びにハマっていった。
2. 絵について

-絵はいつから描き始めた?
昔から絵は描いてたね。小5か小6の頃に描いた漫画のキャラクターを改造した絵に対して、周りから「ユニークだね」って言われるようになったかな。それが絵を評価されるという原体験だと思う。
金色のガッシュベルのビクトリームをめちゃくちゃデフォルメした絵とかうけてた(笑)。改造していくうちに原型がわからなくなっていって、最終的に独自の絵を描いてた。
同じ頃に、おじさんに買ってもらったスケボーをペイントしたね。それが人生で初めてやったペイントかも。赤と黄色と黒のトライバルみたいな。
今となれば「めっちゃいい」と思うけど、その時は「あんま」って感じ。完全に自分で生み出したものだから、恥ずかしかったんだろうな。でも今は「あれが俺の柄か」って思う。
-絵に対して、周りの大人はどういう反応だった?
中学のときに絵を筆で描く授業があったんだけど、俺は手で描いてた。それを見た担任が「お前そういうのやったほうがいいよ」「美術やったほうがいいよ」って言ってきて。
映像の専門学校でも先生から「挿絵作家をやったらいんじゃないか」って。でも「ちょっと恥ずい」みたいな。「無責任なこと言いやがって」って感じでひねくれてたね。
就職活動のときは、制作会社に映像じゃなくてイラストのポートフォリオを持っていってたな。
一応イラストの制作には映像で使用する技術(パス抜き等)も使うから、仕事に関する能力は伝えられるんだけど、「うちじゃないね」って言われたりして。でも、その中の一社に「君おもしろいね」って言われて就職した。
人生の要所要所で絵の方向に導いてくれる人はいたんだけど、総スカンしてきた。
ずっと回り道をしてたんだと思う。本当は絵が描きたかったんだろうね。
-いつ超人がうまれた?
2015年頃には今の「超人」らしきものは生まれてたね。スケボー始めるのと同時期ぐらいかな。

-何を意識して絵を描いてる?
絵を見せたいわけじゃなくて、 「物事の本質を伝えるためにはどうしたらいいだろう」って考えた末の表現が絵だった。
考え方の原点はきっと漫画なんだよね。元々漫画がめっちゃ好きなのよ。
専門の2年間、群馬の実家から片道約2時間半かけて学校に通ってて、その間にめちゃめちゃ漫画を読む量が増えて。バイトした金、全部漫画に突っ込んでたぐらい。
-超人のフォルムはどうやってできた?
おじさんとか女の子をたくさん描くより、それらのキャラクターの総和としてできたのが超人。無駄を省いていって、100人足して100で割ったときの総和だね。
物事の本質を伝えるのであれば、いくつもキャラクターを作る必要はないなと。
登場人物をひとつ決めちゃえば、それだけ書けばいいから。そのキャラクターを軸にして、動きとか表現をどんどん高めていくみたいな。「もういいじゃんってくらい続けよう」って。
でも今は「もう宇宙人のターンは終わったかな」と思うよ。
-どうして宇宙人を描くことを続けられたんだろう
想像上のキャラクターを緻密に描くのがおもしろいからかな。「お前見たことないじゃん」っていうの。たまに「本物っぽくなってきたね」とか言われる。実際に見たことないのに(笑)。
-描いてる宇宙人は変わってきてる?
ちょっとは変わってるよね。2016年のストリートファイターをやってる超人の絵があるんだけど、頭でかくて手足細くてつるつるしてて、いわゆる宇宙人って感じ。
ずっと今の超人みたいな絵を描きたかったんだけど、下手あるあるで思い通りに描けなかった。でも今、一周して最初の絵に回帰してて、意識的に帰ろうとしてる。
-依頼や状況に応じて絵のタッチを変えたりしてる?
芸術的なアプローチと、商業的アプローチで描き分けようとはしてる。商業的な絵に対して葛藤があったけどね。グッズとかってアイコニックでわかりやすいけど、正直やりたくなくて。
でもキャラクター性が強いものを描いてるから、やんないのもったいないじゃん。その2つのアプローチに対して、思考の反復横跳してる。
今はいろんなアーティストを見ていて、「複雑であればあるほどいいってことじゃないんだな」っていう感じだね。みんな表現方法に対して、ぐるぐる考えてるんだろうなと。
-今まで何点くらい描いてきた?
そんなに書いてないよ。全然書いてないと思う。「これでできました」っていう状態のやつは100枚も書いてないんじゃない。
「宇宙人自体を何体書きましたか?」って言ったら1,000枚は超えてくると思うけど。
-描いてること自体が楽しい?
描いてるときはそのことに夢中だね。それを楽しいっていう感覚かというと、どうなんだろう。
-何かを伝えたいとか、思いついたのを出したいっていう感じ?
そうだね、そっちに近い。アウトプットみたいな。やり始めたら楽しいんだけど、やるまでが大変。頭に浮かんできたものって忘れちゃうじゃん、思い浮かんだ時に何かに残さなければ消えていく。
常に「ちょっと待って、ちょっと待ってね」って頭の中にイメージを残しながら描いてるよ。
3. 宇宙人について

-宇宙人に対して、周りはどういう反応をしてる?
9年ぐらい宇宙人描いてるから、世の中の宇宙人観みたいなのに変化を感じてて。
最初の頃は「宇宙人の絵描いてます」って言うと「スピってる」って感じになって、あまり周りに言えなかった。でも年々寛容になってきてると思う。
海外の人はもっと宇宙人に対してオープンマインドだね。「いるじゃん、もちろんいるじゃん」、なんならそれ通り過ぎて「いてもいなくてもいいけど、おもしろいじゃん」みたいな。
シンパシーを感じてくれて。
-宇宙人ってなんだろう。
一種の自己像だと思うんだよね。ちょっと過激に言うと、自分を蝕む精神病のひとつみたいな。神様、仏様にも近いと思う。
たとえば、「龍がいる」っていう感覚は龍が見えたんじゃなくて、何かが龍に見えたって話で。それを「龍だ」って言っちゃうと、おかしな人だと勘違いされちゃう。
龍を信じない人からしたら頭おかしいやつじゃん。見る側の視点によってはそういう扱いを受けちゃうもんだと思ってて。
で、宇宙人もきっとそういうもんなんだよ。いることを信じたい気持ちと、会ってみたいっていう好奇心と。いろんな思いが入り混じった存在だと思うから。
俺は実際に宇宙人に会ったことはないけど、想像の中では会ったんだよね。ただこれを説明するのがかなり厄介。イメージ上なんだけど、確実に何かをキャッチしたんだよね。
-言いたいことめちゃくちゃわかるよ。何かをキャッチした。
もともと自分が見てきたものから無意識に形成された像と、宇宙人からのシグナルが重なったイメージが降りてきた。
ちっちゃい時に見たウルトラマンや仮面ライダーとかのフォルムの情報に加えて、宇宙人からの信号が重なったみたいな。
だからみんなが想像する宇宙人はひとつではなくて、各自の頭の中で形成されていくものなんじゃないかな。
それが俺の現段階の理解。もちろん物理的にいる可能性は否めないけど。正直、半分半分だと思う。
4. これからについて

-なんで宇宙人を描いてるんだろう?
なんでだろう、不思議だよね。自分でもおかしくなるよ。 家族も「なんであんまり何も言わないんだろう」って思う。宇宙人ずっと描いてるんだよ、息子が。
半分意地でやってるところはあるね。でも「宇宙人描かないなら、もう絵描かなくていいかな」「いや、そんなことないか」みたいな行ったり来たりはあるよ。
-これから描いていきたいものはある?
宇宙人は描き続けたいね。今は9年かけてようやくアバターが確立されてきた段階かな。
あとは完全に自由な絵を描きたい。急に宇宙人以外の絵を描いたらおもしろくない? 宇宙人が出てこない、抽象画。普通の抽象画。そのタイミングを見定めてる感覚はあるよ。
……ってか芸術ってなんだろうね。
-ひとつの考え方として、「受け手のことを考えない作品をアートとする」みたいなのはあるよね。『君たちはどう生きるか』みたいな。
気合いだよね。
以上