人と違って何が悪い?~ガザだより~
子どもの頃はまっすぐで綺麗な髪をしていた。町の汚れた水のせいでいつしか縮れ毛になり、パーマの長髪といえば私のことになった。先が見えない息苦しさで、大学生でもう白髪交じりになった。父はみんなと同じように髪を切れと言う。いやだ、と私は拒む。それでも私は自分の髪の毛に誇りと愛着を持ってるんだ――。
パレスチナはガザ(という世界最大の人口密集地区)に生まれたラエドさん。4月時点で22歳の彼が自身の髪の毛について思うことを綴っています。
子どものころからずっと長髪派の彼ですが、「そんなこと近所の誰もやっとらん!」と父親。男性がそういう髪型をするのは父親には非常識だと思われています。しかも綺麗だった髪はガザの水道のせいでパサパサになり(※1)、天然パーマのように。通りでは子供たちにじろじろ見られ、「ほらいつもの髪の毛の人だ」と指を指されるのが当たり前になりました。
家の中ではヘアバンドもしているけれど、さすがに外には着けていかないんだ。そこまですると社会がついてこられないからねと彼。
日本でもこういうことってありますよね。まぁヘアバンドは問題にならない・・・か?(想像してみますか?通勤中のサラリーマンがヘアバンドしてる画。じろじろ見ちゃうな、と思ったら、日本社会も似たようなものかも?)
筆者の友人のトルコ人の男性も長髪ですが、本国トルコでは変な人扱いされるわ、留学先のブルガリアでは職質されるわで大変そうでした…。
ラエドさんはコロナ下で「ウイルスに感染するから!」と言って父親を納得させ、美容室送りを免れているそう。行くと切られちゃうから、日ごろはセルフカットで手入れしています。でもガザの美容室は男性カット数ドルと安いから、わざわざセルフでする人なんてほとんどいません。また電気供給が安定しないので、家では家事だとか必要なところに電気を使えるようにするため、カット用の機器のためには電気を割けないという現実的な事情もあります。
長年セルフカットで髪の毛を大事にしてきたラエドさん。それでも白髪が始まったときはショックを受けました。
髪の毛を自分のシンボルとして肯定できたのは最近のこと。ガザビジョン(ヨーロッパ在住経験のある人なら多分知っている、歌のコンテストのガザバージョン)の場でのことでした。ひとりのライターが髪型を褒めてくれたことがとても特別なことに感じられたのです。ガザビジョンという、平和的な抗議の形、音楽という表現の場で、余計に感じるものがあったのだといいます。
補足すると、彼のなかには自分の社会=ガザのパレスチナ社会に対するもやもやした思いと、自分たちを占領してはばからないイスラエル社会に対する抗議の気持ちがあります。人によりけりだとは思いますが、伝統やこれまでの当たり前を当たり前として、そうでない行動を取る若い人を「変な奴だ」と思う人は一定数いるし、それは彼の住むガザでも同じです。また、彼が自分の髪の毛を受け入れるきっかけになったガザビジョンは、同じ時期に彼らを占領して自由を奪っているイスラエルを開催地にして開かれたユーロビジョン2019への平和的な抗議の意味で開催されました。彼は実際、いくら勉強ができても、院を出ても、仕事が見つかるとは限りません。ガザがもう14年以上軍事力で閉鎖されている以上、若い人の失業率は70%を超えたまま。ゲート閉まってるし、許可も下りないし、外にも働きに出られないし。かといって外からの観光客も来られないし・・・。
そりゃもやもやするよ!
でも、自分のパーマっけがあって白髪の髪を認めて楽しんで、周りの誰もしていないセルフカットで手入れをしていて、こうして寄稿している彼も、それを受け入れているこの団体We Are Not Numbersも、とても素敵だなと思うのです。
※1ガザの電気や水道といったインフラはあまり整っておらず、水質が汚染されていたり、一日の通電時間が極端に短かったりします。
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