【女子二ワ】~女の子が二人でワキャワキャする話 #1(後日譚を追加しました)
~あらすじ~
交差点での追突事故をきっかけに「車載AIのアン」と「警察AIのハル」が出会う。
アンが抱えている生来の秘密は、ハルとの関係にどんな影を落とすのか?
追突事故の隠れた真相とは?
そして、アンに接触したハルの真意は?
自身に諦観しているアンの選択とは?
いろんな問いかけが、基本的にあっさり解決するライトなお話。
And they lived happily ever after.
アン①~プロローグⅠ
郊外の学園都市。
見通しの良い直線道路を走る白い乗用車。
前後の車間距離も十分。天気もいい、快適なドライブ日和。
「いいかい?」
ケンはハンドルを握って前を向きながらも、助手席に向かって話しかける。
「一口にAIって言っても、色々種類があってね。面白い分類では強いAIと弱いAIっていうのがあるんだ」
隣に座っている娘は「え〜?AIに強い弱いですかぁ?」ちょっと興味を持った風に答える。
『あれ?』
(ケンの心拍がチョットだけ上がってる)
『う〜ん、良くないなぁ。可愛い女のコを乗せるといつもコレだ』
(注意力の低下も気にしとかないと)
(30mくらい先かな?今にも赤に変わりそうな信号とか、渡るつもりっぽい親子連れとか気づくかな?)
(まだ十分間に合う距離だし、イザとなったら私がブレーキをかければ良いんだけど…)
『ん~。メンドウだから気付かれないくらいにスピード落としておこうかな』
(信号機注意のアラートを準備しながら見守っていたら、ケンもなんとか気付いてブレーキを踏んだ)
『良かった、良かった』
(ちょっとだけ停止線オーバーだけど)『このくらいが人間っぽくて良いよね』
「強い弱いって言っても、戦うわけじゃないよ。汎用性の違いを表してて…」
ケンは信号待ちの間に ここぞとばかりに話を継ぐ
「汎用的なAIを強いAI、特定の分野に特化したAIを弱いAIと呼ぶんだ。今やどの車にも入っている車載AIなんかは弱いAIだね」
「じゃあ、強い方は人間みたいに考えれるってことですかぁ?」
『お?会話のキャッチボール。この子なかなか』
「定義としてはそうだね。でも現実的には まだまだ人間には及ばない」
専門分野の話題になるとケンは少し饒舌になる。
「例えば さっきの話でこの車の車載AI。車は先輩から譲り受けたんだけど、ちょっと車載AIが拡張されててね。それで割といろんなことができるようになってるんだ。それでも彼女はまだ弱いAIなのさ」
「!」
『あちゃ~』
『ソレはダメだわ、ケン。AIを彼女呼びは、女子ウケ悪いよ~』
思った通り助手席の娘は、【すんっ】って効果音が見えるんじゃないかってほどに引いて、すでに視線が窓の外を向いている。
『あれはきっと、瞳のハイライト消えて目、真っ黒だよ。こっちからじゃ見えないけど』
ケンは まだ気づかずに話を続けている。多分ここから、チューリングテストやら中国語の部屋やら、専門的な話を持ち出すつもりだろう。
『こりゃ、今回も望み薄だな~』(いいひと、なんだけどな~)
(と、その時、左側に車を検知した。合流方向にウィンカーが出てる)
(こんなに近づくまで、通信接続要求が来てないってことは非AI車か)
『珍しいな』(非AI車なんて、公道ではもう滅多に見掛けない)
『AI車同士なら、ルートとか周辺状況とか色々と共有できてスムーズなのにな~。相手が非AI車で人間主導となると、AIが察してあげる必要があるなぁ』
『え~と』
(私の後ろは当然のようにAI車。バックグラウンド通信を見返したらトラックだった)
『さすが大型商業車両。車間も広く取ってる。感心感心』
(非AI車は、ちょうど私の後輪あたりだし、合流は後続車に任せよう)
(そのへんをトラック君と合意して、AI同士のやり取りは終了)
(ケンに通知する?)『後ろに合流してくるだけだし、要らないんじゃないかな?うん、通知不要ってことにしよう』
(数瞬後、突然アラートが響く)
(観測系のサブAIから矢継ぎ早に報告があがってきて、緊急の対策会議が招集される)
(警報!警報! 左後方の車両が加速して接近中)
『え!?さっき停まりかけてたじゃん。なんでそっから加速するの?』
(回避不能。追突します)
(車内にアラートを通知。乗員保護としてエアバッグを直前作動させます)
(周辺車両に非常事態を通知します)
ここまでの判断はマイクロ秒単位。非常事態の乗員保護は最優先タスクだ。
『よし。多分これでケンと女のコは大丈夫』
『あ、でもヤバイ!前の横断歩道に歩行者が居る!』
(非AI車がこのまま加速し続けて衝突した場合をシミュレート指示)
(結果は)『やっぱり、前に飛び出しちゃう!なんとかして勢いを後ろに逸らさないと!』
(ハンドルを右に切って、全力バックを指示)
『人命優先。ごめんね、トラック君』
車体の向きが変わり始めるのと、横からの衝突は、ほとんど同時だった。
非AI車の運転手が叫んでいる。
衝突音が あまり大きくなかったのは、うまく衝突を逸らすことが出来たからだろう。
非AI車は私とトラックの間に挟まって、反対車線に飛び出したような形で止まった。
あたりには、焦げたタイヤの臭いが漂い、周り中の車両からアラートが響いている。
(ウェアラブルデバイスの反応が無い!)
私は慌てて呼びかける『ケン!無事ですか?状況を教えて下さい』
(もう走行していないのだから関係ない。全部の窓を透過率ゼロのスクリーンにしてアラートを表示。視覚に訴える)
「ああ、アン。ありがとう大丈夫だ」(ケンの声。よかった。反応できるってことは、とりあえず意識はある)
「メガネがどこかにいってしまったみたいだ。大丈夫だから、とりあえず窓を元に戻してくれ。目がチカチカする…」
歩行者も無事だったみたい。
警察のドローンが赤色灯を回しながら集まってくる。
#2に続く
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