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CDジャケットの美学#5:KOHH『worst』
今日は前置きなしにいきなりジャケットから(たいして面白くもない前置きなんて要らねえ)。
今年惜しまれつつも引退した、東京王子出身のラッパーKOHHのラストアルバム『worst』です。
なんかこう、いいですよね笑(この世で一番無思考な言葉)。
見た瞬間、ゾクッとしました。
冷たいほど白く塗られた、むき出しの機械たち。
これ以上ないほどに無機質で、冷酷さすら感じるのに、どこか底知れないエネルギーというか、内包した情熱みたいなものを感じます。
今日は、このクールなアルバムについていろいろ考察していきますよ。
アルバム情報(ざっくり)
※アルバム情報は、自分自身がアルバムについての理解を深めるための補助としてまとめているものであり、アルバムについての客観的かつ網羅的な情報を保証するものではありません。念のため。
・概要:ラッパーKOHH(本名:千葉雄喜)の6作目のアルバムで、彼の引退アルバム。
・発売日:2020年4月29日
・ジャケットデザイン:池内啓人(造形作家)
実質ラッパーKOHHの最後の作品ということになりますね。エモい。
機械の「内臓」を見る
男といえば「機械好き」「ロボット好き」というイメージ(レッテルともいう)が多少なりともあるもの。
自分も小さい頃はご多分に漏れず機械やロボットといった細かな科学技術の粋といったものに目がなく、そういう心をくすぐられるおもちゃがあると親にねだったものでした。
とくに小さい頃喉から手が出るほど欲しかったのがゾイドシリーズで、あのいかにもロボットでござい、といった造形がもう琴線を掻き鳴らしまくったのを覚えています。
あとは、「むきだし系」と勝手に自分が呼んでいる、機械の内部構造が丸見えになってるやつ。
シースルーのゲームボーイカラーとか。
いやー、齢がばれますな(別にバレたってどうってことないんだけど)。
あとは、エレベーターの中身が丸見えのやつとかね。
こういうものって、きれいな外皮を引っ剥がして、機械の生々しい内蔵を見ているようで、そうやってみると、機械が無機質なモノではなく、生きて動いている生命のように思えてくるんです。
神は細部に宿る
ジャケットデザインを担当した造形作家の池内啓人さんの活動も相当面白いです。
もう本当に、少年時代に夢見た「かっこいいごちゃごちゃした機械」をそのまま大人の技術で作ってしまったような、そんな童心を呼び起こす作品をたくさん作られてます。
『worst』のジャケットにも言えることですけど、正直写真の中の機械がどういう機能を持ったものなのかは全然わからないし、「SFチックなおもちゃ」と言ってしまえばそれまでなのかもしれない。
でも、こうやって細部まで丁寧に丁寧に作り込まれた作品って、そういうロジカルさとかリアリティを超えた「必然性」みたいなものを感じるんですよね。もうそこにあることが当然のように思えてくるというか。
それを自分は「神は細部に宿る」という言葉で納得してるんですが、とくにこういう複雑な構造をそのまま見せられてるような造形物って、「細部」が観察しやすいだけにその良さが真に迫ってるような気がします。
その細部に命が宿る。それは古今東西、名人と呼ばれる職人のワザに共通するものだと思います。
そういうワザに、理屈とかリアリティなんて不要なんですよね。
◆
最近の流行として、Apple製品などに代表されるようなシンプルに研ぎ澄まされ、内部の複雑さを感じさせないようなデザインが好まれてると思います。
普段使いのツールとしての優秀さは、もちろんそういうシンプルなデザインが抜きん出ていると思います。
でも、「美しさ」ってレベルでは、シンプルなことだけがすべてじゃない気がするんです。
むしろ、複雑なものを複雑なまま見せることの凄みというか、潔さというか、そういう生々しい美しさって言うのもあると思います。
自分は、そういう美しさも大好きです。
ラッパーが見る未来と、『worst』に込めた意味
ちなみに、ジャケットだけでなく、収録されている曲も相当いいです。
エレクトロニックで現代的な曲があるかと思えば、アコースティックなローファイな感じを聴かせてくる曲もある。
そして、最後の最後、育ててくれた人への感謝の手紙で締める。
もう泣くやん、そんなの。
ほかのアルバムはちゃんと聴いてないので無責任なことは言えませんが、ラッパーKOHHの集大成という感じがヒシヒシと出ています。
彼が『worst』のジャケットデザインにどれだけの愛着を抱いているかはわかりません。どんな思いを込めたのかも。
ジャケットの中の機械は、よく見ると「誰かがそこにいた後の抜け殻」のようにも見えます。
誰かの束縛から逃れて、自分の足で歩いてゆけ。
それはKOHH自身にむけたものかもしれないし、リスナーそれぞれにむけたものなのかもしれません。
そう考えると、『worst』というタイトルが示すメッセージも、「これからのbestな未来を歩んでいくために、worstだった過去を捨てていく」と解釈できるのではないでしょうか。
真相はわかりません。
でも、間違いなくこのアルバムからは、前にむかって進んでいく勇気をもらえます。
今回もいいジャケットに出会えました。
語り尽くせぬCDジャケットの魅力
なんだかグラフィックデザイン的な観点からの考察が全然出来ていない気がします……。
まあ正直、デザインの勉強というより、CDジャケット(あるいはCDというモノ自体)の魅力をなるべく多くの人に伝えつつ、自分も再発見していくという試みとして始めたものなのでこんなんでいいっちゃいいのかもしれないですけど。
ていうかグラフィックの考察まで行き着かずとも語れることがありすぎるんだもの!(逆ギレ)
まあ、だからこそ面白いし、飽きないんですけど。
あと、デザインって結局アウトプットに対してしっかりとした意味付けができることが前提となるはずだから、こういう言語化も回り回って役に立つ、と信じたい。
もうちょい自分にグラフィックの知識が出来てきたら、レイアウトとかカラーリングの分析もしていきたいですね。
それでは今回はこのへんで。
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