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サイエンスコミュニケーションの定義を調査してみた

はじめまして。YouTubeで広くサイエンスコミュニケーションっぽい動画を投稿している北白川かかぽと申します。

私はサイエンスコミュニケーション系VTuberを自称しているわけですが「そもそもサイエンスコミュニケーションって何?」と訊かれると返答に困ってしまいます。

サイエンスコミュニケーションの定義に関しては様々な議論がなされており、定まりきっていないのです。

(サイエンスコミュニケーションの定義や歴史について、15分ほどで簡単に解説した配信アーカイブがあるので、よろしければそちらもご覧ください。)

ということで「サイエンスコミュニケーションの定義はこれです!!」と断言することが私にはできないのですが、行政機関等はどのように定義しているのかについて軽くサーベイしてみることにしました。

意外とどの機関も同じような定義を使用しているのかもしれません。
早速、見ていきましょう!

科学技術振興機構 科学コミュニケーションセンター

科学コミュニケーションとは?
科学をめぐるコミュニケーションのことです。
https://www.jst.go.jp/sis/archive/items/brochure_01.pdf

この定義は非常に広く正確なように思われますが、抽象的すぎてつかみどころがありません。

ただし、上記のpdfには『「伝える」コミュニケーションと「つくる」コミュニケーション、分類枠組み』という記事など様々な側面から科学コミュニケーションについて考察がなされているので、全体を読むとそのエッセンスをつかむことができるようになっています。

文部科学省

サイエンスコミュニケーションとは?
サイエンスコミュニケーションは、科学のおもしろさや科学技術をめぐる課題を人々へ伝え、ともに考え、意識を高めることを目指した活動です。研究成果を人々に紹介するだけでなく、その課題や研究が社会に及ぼす影響をいっしょに考えて理解を深めることが大切です。科学館や研究機関などでは、サイエンスカフェや一般公開など様々な試みを行っています。
https://www.mext.go.jp/kids/find/kagaku/mext_0005.html

文部科学省が示しているサイエンスコミュニケーションの定義はより具体的です。
「研究成果を人々に紹介するだけでなく、その課題や研究が社会に及ぼす影響をいっしょに考えて理解を深めることが大切です。」の部分が印象的です。
BSE問題や福島第一原子力発電所事故といった出来事を経て、それまでに主流だった啓蒙的なサイエンスコミュニケーションから、双方向型のサイエンスコミュニケーションへと変遷してきていることが読み取れます。

以下の論文にはその経緯が詳しく書かれているので、興味のある方はぜひご一読ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssej/31/4/31_KJ00004903062/_article/-char/ja/

Science communication: a contemporary definition (T. W. Burns, et al.) (2003)

サイエンスコミュニケーションの定義を議論した論文もあります。

Science Communication?
スキル、メディア、活動、対話を適切に用いて科学に対する下記の反応を1つ以上個人にもたらすこと。
意識:科学の新しい側面に親しみをもつ
感情的な反応:エンターテイメントやアートとして科学を味わう
関心:科学やそのコミュニケーションに自発的に関わる
意見形成:科学に対する心構えを(再)形成したり固めたりする
理解:科学の内容やプロセス、社会的要因を理解する
T. W. Burns, et al. Public Understand. Sci. Vol. 12, 183-202, 2003.
https://doi.org/10.1177/09636625030122004

参加者にもたらすべき反応について具体的に描写されており、サイエンスコミュニケーションを行う上での指針が示されています。

Wissenschaftskommunikation in vernetzten Öffentlichkeiten (Carsten Könneker) (2017)

サイエンスコミュニケーションを内的なものと外的なものに分けて考えるモデルも提案されています。
内的なサイエンスコミュニケーションは、学術コミュニティ内でのコミュニケーション、外的なサイエンスコミュニケーションはそれ以外のサイエンスコミュニケーションを指していると思われます。
(元の論文がドイツ語なので、解釈が間違っている可能性があります。その場合は、誠に申し訳ございません。)

Könneker C. Forschungsfeld Wissenschaftskommunikation. Springer VS. pp 453-476 (2017).
https://doi.org/10.1007/978-3-658-12898-2_24

(おまけ)アウトリーチについて

「サイエンスコミュニケーション」と同様に、よく用いられている言葉である「アウトリーチ」の意味はどのように定義されるのでしょうか?

デジタル大辞泉で「アウトリーチ」を調べると以下のように出てきます。

デジタル大辞泉「アウトリーチ」
劇場や美術館などが館外で行う芸術活動。自ら劇場などに出向かない人々に対し、芸術に関心をもたせることを目的として、出張コンサートやイベントなどを行うこと。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%81/#jn-255772

これをサイエンスの場に適用すると
「研究者をはじめとした専門家が、サイエンスに関心をもたせることを目的として行うサイエンス・コミュニケーションの一形態」
となると私は考えております。

アウトリーチ

あくまでもこれは私個人の定義ですので、その点をご留意いただけますと幸いです。

まとめ

簡単にサイエンスコミュニケーションの定義についてまとめてみましたが、想像していたよりも多様な捉え方がされており、一つの切り口のみで語るのは難しいという印象です。

人によっても、サイエンスコミュニケーションやアウトリーチという言葉が意味するところは異なると考えられるので、議論を行う際にはまずそれぞれの認識を共有するところからはじめることが必要でしょう。

最後に宣伝となりますが、YouTubeのチャンネル登録とTwitterのフォローをいただけますと、とてもありがたく存じます。
https://www.youtube.com/channel/UCEoAD_2jSLoYQd2MJZxWuxQ?sub_confirmation=1
https://twitter.com/kakapo_research

拙文をお読みいただき、誠にありがとうございました。

追記(2020/9/7)

高遠 頼(@takatoh_life)さんからのご指摘で一部の文章を修正およびWissenschaftskommunikation in vernetzten Öffentlichkeiten (Carsten Könneker) (2017)の章を加筆させていただきました。


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