定型約款 ~利用規約とは何か~
本稿では利用規約について民法上の扱いを整理していきます。また、最後によく話題になる条項について簡単に触れます。
定型約款とは
20年4月の民法改正により「定型約款(ていけい やっかん)」に関する規定が新設されました。定型約款とは、「大量の取引を迅速に行うために画一的な取引内容・条件を定めた契約」を言います。「賃貸契約」「旅館・ホテルなのどの宿泊契約」「鉄道などの乗車契約」「保険契約」が代表例ですが、Webサービスにアカウントを作るときに確認を要求される「サービス利用規約」や楽曲、イラスト、3Dモデルなどを販売する際の「利用規約」も定型約款に含まれます。
利用規約も契約の一形態であり、サービス運営者対ユーザーの契約ということになります。
また、見落とされやすいのですが、プライバシーポリシーやCookieポリシー(国内ではあまり見ないが海外サービスだとCookieポリシーはよく見るようになりました)も定型約款です。
本稿では基本的にWebサービスの話を扱おうと思うので以下ではサービス利用規約を念頭に整理していきます。
定型約款の合意
以前作成した「契約とはなにか」というnoteで「契約は合意があったときに成立する」と整理しました。個別の契約だと双方が内容を十分に確認したうえで合意を交わすだろうと想定しやすいです。では、定型約款ではどうでしょうか。
例:Twitterアカウント作成フロー
Webサービスでアカウントを作る場合を考えてみてください。noteやTwitter、Instagramのアカウントを作った時を思い出してみてください。
これらは基本的にアカウントを作らないとうまく操作をできません。アカウントを作成するときに「利用規約およびプライバシーポリシーをお読みの上でご同意ください」というような文章が出てきて、利用規約とプライバシーポリシーへのリンクが張られていると思います。例としてTwitterを見てみましょう。
「電話番号またはメールアドレスで登録」という青いボタンの下に小さい文章がありますね。ここに利用規約、プライバシーポリシー、Cookieポリシーへのリンクが貼られています。また、アカウント作成フローでも
このように利用規約、Cookieの仕様(Cookieポリシー)、プライバシーポリシーへのリンクが貼られており、「アカウント作成をもってこれらの規約への同意とみなす」という注意が書かれています。
例:noteアカウント作成
noteのアカウント作成画面も見てみましょう
noteではリンクだけではなくチェックを入れさせて明確に規約に同意するという意思をユーザーに示させています。
例について、まとめ
現状、利用規約の同意の取得は
Twitterのようにアカウント作成フローの中にリンクを貼って「アカウント作成を規約への同意とみなす」とする
noteのように同意させたい規約について「利用規約に同意する」「プライバシーポリシーに同意する」というチェックボックスを作り、チェックさせる。
2パターンに大別できると思います。僕自身あまり多くのサービスについて調査したわけではありませんが、おそらくこの二種のどちらかの同意取得になっているはずです。
定型約款の合意
ユーザーの利用規約への同意は
リンクを提示してアカウント作成をもって同意とみなす
リンクを提示して「同意する」にチェックさせる
の二種類になっているはずであるといいました。なぜこのように判断できるのでしょうか。この点について整理しましょう。
まず、定型約款の合意については民法では次のように定められています。
また、2 の事前の表示については次のようなもので足りるだろうというのが通説です。
a の内容があるので、多くのサイトではドロワーやページフッターに利用規約やプライバシーポリシーへのリンクが貼られています。最近はどこに利用規約があるのわかりにくいサイトも増えましたが……無限スクロールなのにフッターに規約へのリンクがあるサイトに最近遭遇しましたが端的に最悪でした……読み込みのわずかなスキにリンクをクリックするハードな仕様でした。絶対に真似しないようにしましょう。
b についてはnoteのように「規約ごとに「同意する」にチェックさせる方が好ましくはあります。最近では利用規約を表示して最下部までスクロールしないと「同意する」にチェックを入れられないようなものもあり、これもより好ましいと考えられます。要はユーザーが規約文に目を通した確度が高くなるほど好ましいということになります。
a, b のうち、規約への合意に重要なのはb です。登録が完了する前にフローの中で規約を見せることが「事前の表示」にあたり、また、登録をもって規約への合意とみなすと明示することで「定型約款を契約内容とする合意」となります。
このために、bの要請を満たす必要があるわけですが、通説の条件を満たすためには「フローの中で利用規約などへのリンクを提示し、登録完了をもって合意とみなす」と書くことが必須で、よりよいとされる手段として「個別のチェックボックス」など追加の手段があり得ます。
このようであるために、利用規約の同意の取得は
Twitterのようにアカウント作成フローの中にリンクを貼って「アカウント作成を規約への同意とみなす」とする
noteのように同意させたい規約について「利用規約に同意する」「プライバシーポリシーに同意する」というチェックボックスを作り、チェックさせる。
2パターンに大別できると判断できるというわけです。
定型約款の内容変更
さて、次に定型約款の内容変更について整理します。
普通の 1 : 1 の契約の場合は内容が変われば変更点についての同意書を交わしたり、契約を交わしなおしたりすることになります。
では、定型約款の場合、ここでは特にサービス利用規約の場合はどうでしょうか。利用規約の内容に変更があったとき、改めて同意をしないとサービスを使えなくなるというのはサービス運営者、ユーザーのどちらにとってもあまりうれしいことではないでしょうし、実際そんなことになってるサービスはないと思います。
たいていの場合は変更についてメールがあったりサイト上のお知らせで周知されて、継続利用をもって同意とみなす、というのが常だと思います。これの妥当性を確認するために民法ではどのように規定されているのか見てみましょう。
1-a について、ユーザーの一般の利益とは要はユーザーの不利益になるような変更は認められないぞ、という意味です。たとえばSNSにおいて「投稿内容の著作権は投稿者の物としてたが、やっぱり運営の物にするよ」というようなユーザーの権利を一方的に奪うような変更は認められません。
1-b について、合理的な範囲についてはかなり複雑で以下の事情を総合的に勘案して判断するということになっています。
利用規約に内容変更を行うことについて民法の規定に従った変更があるという旨の記載があるかどうか
変更の内容が契約の目的に反していないかどうか
変更内容が必要なものなのか、妥当なものなのか
特別な事情があるか
たとえば、最初はある種の情報商材に関して排除する条項が抜けていたが、マネーロンダリング規制など各種規制に遵守するために特定の投稿内容を削除、拒否する条項を増やす、という場合、サービスの継続、法令順守などの内容の妥当性があり、事情もあるということで変更が認められるでしょう。
2について、「変更より前」についてですが、「ユーザーが変更について異議申し立てができる十分な猶予があることが必要」であるといわれています。変更の1分前にメールしてもダメですよということですね。1カ月ほど猶予があればよいのでは?という風に考えられていたりしますが、具体的な期間について明確な基準はありません。
また、「周知」についてですが、「1-a の場合など変更が軽微な場合はサイトお知らせなどの公表」で足り、「1-b の場合で変更内容が大きい場合は対象ユーザーへのメールでの告知」が必要というふうに考えられることがあります。ユーザーの権利の拡大であったり、例えばC2CのECサービスで法令違反の禁止商品の内容をより細かく記述しなおしたりする場合は個別にメールする必要はないでしょう。特にユーザーに影響を及ぼす変更ではないと考えられますから。逆に、法改正に対応するためにCookie利用やプライバシーポリシーに大きな変更がある場合には一度ユーザーに確認を促すためにメールで個別に通知することが求められるでしょう。
定型約款まとめ
本稿ではWebサービスを念頭に置いて整理したので賃貸契約などを考える時ではちょっと説明が不足する部分がありますがご了承ください。
さて、これまで整理してきた定型約款(とくにサービス利用規約)に関する内容をまとめてみます。
定型約款とは
1:多 の契約のための契約類型。取引の効率化のために画一的な内容である必要があった。
定型約款の合意
定型約款の合意は基本的にユーザーの約款への同意によって成立する
サービス運営側:アカウント作成などの利用登録フローにおいて「利用規約、プライバシーポリシーなどへのリンク」を用意する。ユーザーがこれらの規約などを確認する確度が高くなる工夫があればなおよい。
ユーザー側:「規約に同意する」というチェックボックスがあることもあるが、多くの場合は利用登録完了をもって規約などへの同意とみなされる。
定型約款の変更
一定の条件を満たせば改めて同意を得ることなく変更が可能
変更まで十分な期間を開けて変更内容を周知する
変更はサービス継続、発展のための合理的範囲である必要がある
周知の方法はサイト上での掲示かユーザーへのメールになるが、どちらにすべきかは変更内容に依存する
利用規約でよく話題になる内容
利用規約の内容はサービスによって様々です。その中でもよく話題になる内容について簡単に触れて締めとしようと思います。
知的財産の扱い
よく"話題"になるのはこの内容でしょう。知的財産の扱いについては多くの場合、二種類有ります。
ユーザーの投稿物などユーザーが制作したものに関する条項
サービス自体に含まれる知的財産に関する条項
1 について、これはたいていの場合以下の内容が含まれます
ユーザーは投稿物に関してそれを投稿する正当な権利を持つことを保証する
投稿物の権利はユーザーに帰属する
ユーザーは投稿物に関してサービス運営にたいして無償の、無期限かつ全世界的な利用のためのライセンスを与える
1点目は違法アップロードを我々のサービスでしてくれるなという当たり前の内容になります。二次創作はどうなるか気になるかと思いますが、サービス運営の方針、版権者の通報の有無、著作権侵害が真に成り立っているか、など実務上、法律上いろいろ複雑なのでここではこの程度で……
2点目は、サービス上に投稿したからといって権利譲渡は起こりませんよという確認になります。たまにここで「投稿したら我々の物です」とするサービスがあるので注意が必要です。
3点目は投稿を使って広報したり、機能開発のサンプルデータにしたり、機能によって変形・圧縮をしたりすることがあるが、改めて許諾を求めたりお金を払ったりはしませんよ、という内容です。広報利用については別途利用契約をすることもあるかもしれませんが。
2について、これはサービスロゴなどサービス固有の知的財産については当然サービス運営に権利がありますよ、という確認になります。
準拠法、管轄裁判所
準拠法とは、利用規約を解釈するときの土台になる法律が何かということです。日本のサービスなら日本法、アメリカのカリフォルニア州のサービスならカリフォルニア州法が準拠法に指定されます。
管轄裁判所とは、紛争解決のために裁判を行う際の第一審をどの裁判所で行うか、というものです。日本のサービスだとそのサービス運営の本社の最寄りの地方裁判所が指定されていることでしょう。
サービス運営とユーザーが同じ国にいる場合は単純にこの準拠法と管轄裁判所を適用することになりますが、国が違う場合は複雑になります。国をまたぐ紛争においてどこの国の法律を使うかというのにはいくつか立場があります。侵害行為が起きた場所、被害が実際に起こった場所……かなり煩雑な議論になるので本稿では扱いませんが、イメージのために例をあげましょう。
Youtubeは毎年のようにEU圏においてGDPR(EUの個人情報保護法で適用範囲はEUに限られない)に基づく訴訟を起こされていますが、Youtubeの規約上では以下のように規定されています。
いくら規約で自国の法律、裁判所による、と書いてもその通りになるとは限らないということを把握していただければ十分かなと思います。
本日は以上。