妻の体は弾丸でも貫けない。短編小説『今年も、来年も、ずっとよろしく』
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ごー。
よーん。
さーん。
にー。
いーちっ。
明けましておめでとうざいますっ!
*
ネットで渋谷の様子が生放送されているのを、私は炬燵に入って温まりながら眺めていた。
年越しカウントダウンをするために、若者たちが集まってワイワイとはしゃいでいる。私は苦笑いを浮かべた。
『どうしたの?』
妻が私の様子を怪訝に思ったのか訊いてきた。
「いや、もし私みたいな年寄りがあの中にいたら、彼らは受け入れてくれただろうかと思って」
『お爺さんが来るなんて珍しいって歓迎してくれるんじゃない?』
「だといいねぇ」
『それよりほら、年越し蕎麦食べましょうよ』
炬燵の上には妻が作った年越し蕎麦が湯気を立てていた。
めんつゆの良いにおいがする。
「そうだね」
いただきます、と私は言って、蕎麦をすする。
『どう、美味しい?』
「あぁ、美味しいよ」
*
私が食べ終えた後の器を、家事アンドロイドが盆に載せて片付けていく。全身をシルバーメタリックの装甲で作られた我が家のアンドロイドは、家事だけでなく警備用の機能も備えている。
硬い装甲で作られているのはそのため。弾丸の雨にさらされても、このアンドロイドの装甲は貫けない。
わたしは家事アンドロイドが去っていくのを見やる。アンドロイドの背中に、今は亡き妻の姿を重ねた。
『どうしたの?』
炬燵を挟んで向かい側で首を傾げる妻、の役目をするアンドロイド。
姿形は家事アンドロイドと相違ない。
全身は眩い銀色。
眼球に埋め込まれたレンズは蒼い。
妻の記憶情報を焼き込んであるため、容姿以外は完璧に妻を再現できている。
センサーが稼動し、眼球レンズの内側が幾層にも分割されていく。
私の表情を読み取ろうとしているのだろう。
「いや、なんでもないよ」
私は妻アンドロイドに笑いかけた。
「ちょっとタイミング外したけど、あけましておめでとう」
私の笑顔を読み取ったのだろう。
妻アンドロイドも『おめでとう』と返事をした。
「今年もよろしく」
今年も、来年も、ずっと、よろしく。
※あとがき
『素朴な平和』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
パッと思いついたのが年越し蕎麦を食べてる様子で、それを未来的にしてみました。
まあ、家事アンドロイドよりも先に自動運転が当たり前の時代になってくれって感じですが…。
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