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気付いてすらもらえない…。短編小説『地味過ぎる能力』

※有料記事ですが最後まで読めます。


「次の方、どうぞ」

 僕が呼ぶと、

「失礼します……」

 と何ともか細い声とともに一人の少女がドアを開けて入室した。17歳ぐらいだろうか。
 面接とあって緊張してるようだな。
 彼女の手は震えてる。
 少女が椅子に腰掛けたのを確認し、僕は能力者試験の面接を始める。

「ではまず、あなたの能力を見せてください」

 そう、能力者の能力を見せてもらわなければ話は進まない。
 テレポートなのか。
 火を操るのか。
 はたまた空を飛べるのか。
 使える能力であるならば人格面を見る。
 多少人格に難があっても能力が使えそうなものならば問題ない。
 逆に人格が優良であったとしても能力が使えないのならば用は無い。

「わ、分かりました」

 少女はコクリと頷くと、両の手を拳にし、瞳を閉じた。

「…………」

「…………」

 何も起きない。

「…………」

「…………」

 ……何も起きないぞ。
 なんだか部屋の中が少し暑いな。
 空調が効いていないのか?
 それとも僕が苛々しているせいで頭に血が上っているのだろうか。

「……君、能力を見せてほしいのだが」

 あまり時間もないので私は少女を急かした。

「え、あの、わたしはもう能力を……」

「ああもういい。君の面接の結果は後日、郵送で報せる」

「あ、その」

「はい次の方、どうぞ」

 僕は少女を追い出すように次の受験者を呼んだ。
 この後まだ三十人も面接しなければならないんだ。
 無能力者に付き合っている暇などない。

       *

「うぅぅ絶対落ちたよぉ……」

 ほとんど追い出されるような感じでわたしは試験会場を後にした。
 もし能力者試験に受かれば、能力者向けの仕事を斡旋してもらえるようになって、生活が楽になったのだけれど。

「受かるワケないよ……」

 そもそもわたしの能力は地味過ぎるのだ。


『自分の周囲を暑くする』


 それがわたしの能力。
 ……地味だよ。
 地味過ぎる。
 さっきだって面接官の人に気付いてすらもらえなかったし。
 せめて説明させてくれれば……って、結果は変わらないかなぁ。
 一応コンビニでバイトはしているんだけど、それだけで食べていくのは正直言ってキツイ。
 だからと思ってここ最近、能力者試験を受けて政府公認能力者になることを目指しているんだけど、これがどうにも絶望的。

 能力とは生まれ持った才能。

 勉強や特訓ではどうにもならない。

「はぁ」

 わたしはとぼとぼと試験会場を出て国道沿いを歩き始めた。おっ。
 歩いていると「かき氷始めました」という札を掲げた店を見つけた。入った。女の子は甘い物食べると元気が出るんだよ。男子はよく覚えておくよーに。

「いらっしゃーい」

 わたしに負けず劣らずの覇気のない店主が出迎えてくれた。五十歳ぐらいのおじさんだった。白髪がフサフサと頭の上で踊っている。

「かき氷をイチゴでお願いします」

「あいよぉ」

 覇気のない声でおじさんが言った。

 ……あ、もしかして。

 店の中にお客さんはわたししかいなかった。
 お客さんが少ないから元気がないっぽいねぇ。
 ……わたしも暗いおじさんと二人きりは嫌だし、しょうがない。


 そい!


 わたしは可能な限り範囲を拡大させ、気温を上昇させた。
 範囲はざっとわたしを中心とした半径150メートル程かな。
 これがわたしの限界だよ。
 気温の上昇は3度。
 今は7月に入ったばかりで気温は29度。3度上げたから32度か。

 これだけ暑ければ…

 わたしの期待通り、お客さんが面白いように入ってきた。

「あっちーなぁ」

「なんか急に暑くなったよねぇ」

「今年って冷夏じゃないのん?」

 女子高生の集団が入ってきた途端に、店が急に賑やかになった。
 その後も客足は絶えなかった。

       *

 かき氷を食べ終えると、わたしはお会計をお店の人に頼んだ。

「お穣ちゃん、ありがとな」

「ほえ?」

 いきなりお店の人にお礼を言われ、わたしは戸惑った。

「能力使って暑くしてくれたんだろ? 客が来てくれるようにさ」

「あ、分かっちゃいました?」

「そりゃ分かるよ。俺も能力者だからな」

「そうなんですかっ」

 とてもそうは思えない。

「っつっても、お穣ちゃんとは逆で冷気を操るタイプだけどな。ここのかき氷の氷は全部俺が能力でまかなってるんだ」

「ほえ~」

「……で、だ。折り入って相談なんだが」

 お店のおじさんが声のトーンを低くした。
 な、なんだろ。

 「お穣ちゃんが暇なときでいいんだが、またうちに来て暑くしてくれねぇかい? もちろんバイト代は出すぞ」

「え、それってつまり……」

「能力仕事の依頼だ。どうだ、やってくれないか」

「やややや……」

「あ、やっぱダメかぁ。そんなに「や」って言われちゃあなぁ……」

「ややややややりますっ!!」

「だよなぁ……って、えぇ!?」

 おじさんが目を丸くしている。

「わたし、やりますっ。たくさん暑くさせてみせます!」

 よかったぁ……。
 能力者試験には落ちたけど、仕事はどうにかなりそうだよ。
 暑いだけの地味な能力だけど、頑張りますっ!


※あとがき
『暑い能力者』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
最初は松岡修造さんめいたキャラを登場させようと思ったんですが、暑苦しいので少女にしましたw

※以降に文章はありません。「投げ銭」での応援を歓迎します。

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