孤立の味
悪癖がある。
ふざけてしまうのだ。
あの〜、ね?
他者に囲まれたシーンでは特に、他者への恐怖が凄まじい気持ち、分かるよね。
僕は他者にめっぽう弱く、別に誰も見てないっていうのは心の奥底で理解していても、どうしても他者の目が怖くなってしまうときがある。みんなにもあると思うが、僕はみんなより絶対に、そういう場面が多い。多いからな!!僕の方が多いから!!😤
まあ兎角、他人の目が本当に怖い。
だからふざけてしまう。
正確には、ふざけることで、自分を隠している。敢えて人前では奇人を演じ、自分の本当の姿をその「変さ」の裏に隠すことで、自分を守っている。
「変の殻」に閉じこもっているのだ僕は。
それで守っている「本当の姿」というのも、大したモンじゃなく、普通の人間で、ただちょっと、いやかなり他者の目に弱いというだけで、
、
うん普通の人間だ。
本当は人として面白くも何ともないのに、それどころか、何かの手違いで面白いと思われ、それによって個人として認識されてしまうことこそが、あまりにも、怖いのに、いや怖いからこそ、自己を開示しなければならない状況から逃げるために、ふざけてしまう。
ここでふざけなければ、別に面白くも何ともない自分の真の姿を開示していれば、僕はけっこう普通の人間だし、それなりに他人同士のコミュニティでもやっていける気はするが、あ〜〜やっぱりダメだな、嫌すぎる。怖い。怖いよ。何で他者ってあんなに怖いの?マジで。
で、また逃げるようにふざけてしまう。
そうして、僕はまた誰の記憶にも残らず、残るとしても良くない記憶として残り、友達も増えないし、誰からも好かれないし、評価もされないし、あ〜マジで中学生の頃から1mmも変わってねえな俺!!
なんなのこれ!!
ホントに!!
いやはやマジで悪癖だ。
ふざけなくていいシーンでふざけても、普通に浮いちゃうだけなんだよ。本当はこれで自分を守れているとは思わない。というか、守れてないの、分かっている。
だが前述の通り、結局自分の真の人格を「変さ」で隠せば、その場で浮いちゃうだけで、結果として僕は誰の目にも留まらず、記憶にも残らず、心地の良い「ひとりぼっち」を守ることが出来るので、僕にとってはそれこそが幸福たり得るのだが、それだそうだそれを幸福としているのが、それが良くねぇんだよクソガキ!!
あ〜生き辛い。
ところで、この悪癖に関してだが、一つ嫌な記憶を思い出した。思い出してしまった。
高校生の頃、遠足?みたいなイベントがあった。
まず、大体そういうのってレクリエーションじみたものが企画されるじゃない。
で、大体そういうのってドッヂボール大会、やるじゃない。
分かる?
で、例に漏れずうちの学校のやつらも公園のだだっ広い草っ原でドッヂボール大会をしていたわけだが、これがもう、僕は全く以て運動が出来ないもので、もう全く狙われなかった。ボールが全然僕の方に飛んでこなかった。ここまではまあ僕みたいな運動できない奴あるあるだと思う。
で、そんな状況が続いてゲーム終盤、僕を含めたわずか数名だけが残って、他クラスの人間もこの試合を観察しに来て、嗚呼役者が揃ってしまった。
「他者の目に映る場所に」「少人数の集団があって」「その中に自分がいる」これだけ条件が揃えばもう僕にとっては多大なストレスだった。
なんか多くの他者がこっちを見ている。
みんなが見ている。
僕が、僕という、一つの個体として、認識されてしまう。ドッヂボールのプレイヤーの一人の中に、ネームドとして僕がいる。
僕が今ここでボールを取って、或いは相手チームの大将みたいなやつを脱落させたら、僕はヒーローとして賞賛されるかも知れない。無理だけども。
僕が今足先とかにボールを当てられて、脱落したら、ここまで頑張ったね〜とか、相手強いから気にしなくていいよ〜とか、いろいろ慰められるかも知れない。
僕が今顔面にボールを当てられて、ぶっ倒れて鼻血でも出したら、みんなが僕の方に集まって、声をかけたり、心配したり、肩を貸してくれたりという配慮をされるかも知れない。
やばい。
全部嫌だ。
嫌だ!!
怖い!!
怖いよ〜!!!
どうなっても誰かが僕を見ていて、何かしらの印象を僕に抱きかねない状況、嫌だ!!嫌だよ〜!!
STRESS!!!!
と、
いう感じに、
なってしまいまして、
よく分からなくなった僕は、気づいたら、足元に生えていた草をむしって、口に運んでいた。
悪い癖が、出た。
うわ〜
出てるよ悪癖が。
変な汗出てきた。
でも止められない。
止めたら、また剥き出しの僕が、みんなの目の前に出ることになってしまう。
隠さねば、
「草を食う奇人」の裏に、本当の僕を、隠さねば。
おい!
おい!!
おい!!!
何してんだ俺!!
ふざけんなよ!!
浮いてる!!
悪目立ちしてるよ!!
今めっっっちゃ浮いてるよ絶対!!!
浮いちゃってるよ!!
っていうか草マズっ!!
いや草不味いじゃなくて
悪目立ちしちゃってるんだって!!
今すぐ草食うのやめろよ!!
やめろって!!
うわ〜口ん中ゴワゴワする!!
ゴワゴワするじゃなくて
ふざけんなっつってんの!!
おい!!!
おい!!
おい!
次の瞬間、背中に、柔らかい感触が走った。
普通にボールだった。
普通に優し〜くボールを当ててもらった。
普通に脱落した。
草を食ったことに関しては、別に誰にも何も言われなかった。
まず、
良かった〜
悪目立ちしてなかった〜
いや気を遣ってみんな何も言わなかっただけで、何かしら良くないことにはなってたかも知れないんだけども。
まあ
僕が傷つかなければ、ひとまず無問題よ。
いや〜
逃げ切った。
僕は「注目されかねない状況」から、シンプルな脱落という形をとって、結果的に、逃げ切った。
そして一人トイレに向かい、誰もいない洗面所で、口をゆすいだ。
たった一人、口に水を含み、少しずつ、口腔に残る草を洗い流していく。
誰もこの姿を見ていない。
ドッヂボールは継続する。僕を除いて継続している。僕は一人その輪を抜けて、いま誰もいない洗面所で、孤立している。
誰にも見られていない。奇人の裏に自分を隠す必要性も、ない。ひとりぼっちだから大丈夫。
不味い。ゴワゴワする。だいぶ気持ち悪い。
だが、他者の目ほどは嫌じゃねえのが憎い。
こいつが孤立の味か。
悪くねえ
いや悪くねえとか思っちゃダメなんだろうけど、こうして成長の機会を一つ捨てて、また「変の殻」に自分を閉じ込めて、他者から逃げて、ひとりぼっちであり続けて、それじゃダメなんだろうけど、
ダメなんだけど、ね?
まあ、
ね?
因みに、あの試合で僕の背中に優しくボールを当ててくれた彼は、今でも良い友人だ。
【おまけスクリーンショット】